008.アーク出航
アークはギルド直轄の整備ドックに運ばれて購入した武装を取り付けてもらうことになった、調達に半日、取り付けに2日半で合計3日、この間は大人しく宿を取って時間を潰していた。
まあ衣料品を買い付けた後も護身用の携帯シールドを買ったり、シェフィが手配した食料品のリストを見たキャプテンが合成食ばかり食ってられるかと手直ししたり、私が手配したアークの武装リストを見てキャプテンが呆れたりしてたけどまあその程度だ、追っ手もなく静かに過ごしていた。
やっぱりキャプテンは生の人間だけあって食事には拘りがあるみたいだった、半機械生命体の私はそこまで食事に拘りはない、合成食と培養肉だけでも構わないし、極端に不味くない限りはレーションでも良い、逆にキャプテンはそうもいかないみたい。
酒がない!と発注してたけど、シェフィにまだ働きもしない分際で嗜好品とは良いご身分ですね? と吐き捨てられていた。
一緒の艦に乗るからにはそれなりに擦り合わせは必要だなあ、キャプテンが死んだ目をして可哀想だったから取り敢えず数本だけ許可したらウキウキして選んでいたし、食料品に関してはキャプテンに任せた方が良さそうかな。
***
「まずは金だ、アタシらには金がない」
「うん」
「概ね同意します」
アークのコクピットでミーティングを開始する
キャプテンの言う通りお金が無い、私の資金は賞金首とアルバイトの合計で5100万マニ程、キャプテンの借金が1億マニで総資金は赤字だ。
勿論今から宇宙海賊狩り、賊狩りを始めてお金を稼ぐ事になるのだけど、現金で1億はキープしておくのが望ましいとキャプテンからは言われた。
まあ運転資金が多いに越したことはないからね、キャプテン借金を合算すると目先の目標として1億5000万マニは稼ぐべきと方針を決めた、借金も返せるなら直ぐに返してしまって私にツケておいた方が利子も掛からなくて済む。
「アタシの借金に巻き込んでしまってすまない、そこは謝らせてもらうよ、その代わりと言ってはなんだが出し惜しみは無しだ、ガンガン奴らの穴蔵に案内するからね!」
キャプテンは張り切ってL2コロニー近辺のホロギャラクシーマップにフラグを付け始めた、適当にマーキングしている様だけど資源採掘艦や星系軍のパトロール予測などを組み合わせて複合的に判断しているらしく、見ているだけでもとても勉強になる。
私もアークのウエポンシステムを本機システム上で擬似展開、ハードソフト両面で動作を確認する、流石に港湾内ドックでウエポンシステムを実起動させると問題だからね、後は出航後に試射をするだけにしておく。
「こちらG-021ドック、機体名アーク、発艦許可を申請します」
『こちらL2港湾管理局、発艦を許可する、ガイドビーコンに従え』
「はい、ではキャプテン・ノワ、どうぞ」
「うん、アーク発進!」
『アーク、キャプテン・ノワの健闘を祈る』
「ありがとう」
所定の手続きを行うと港湾管理局で機体を固定しているアンカーアームが解除される、後はガイドビーコンに従ってオートでコロニーから離れて行く、一定距離になると艦のコントロールは港湾からキャプテンに返還されて発艦シークエンスは完了した。
「アイ ハブ コントロール」
「あいよ」
「はい」
早速ギャラクシーマップのフラグを参考にキャプテンがマークした星域へとスロットルを開けた、さあ賊狩りだ!
キャプテンの読みは完璧で予想宙域で宇宙海賊を程なく発見した、宇宙海賊と言っても殆どが素人で元傭兵や元軍人なんてほぼ存在しない。
つまり奴らの航宙艦に関しても民間機を改造して使用している事が殆どなので、カスタマイズされた戦闘艦なら索敵も一方的なものとなる。
軍用機は管理が厳しいし、上等な航宙艦を買う資金があるならそもそも賊に堕ちてはいない、民間機をジャックしたものが宇宙海賊の主力という訳だ。
『あ』
という間にブレードで一機を始末、索敵外から全力で加速したアークの一撃は回避を許さない。
次いでレーザー砲でドーン、Tier0の高出力レーザーは元民間機のシールドを容易く貫き爆散させた。
『クソが!ブレードだと!舐めやがって!』
『一機だけだ、殺せ!!』
小型機4、中型機1の賊の内2機がやられて漸く戦闘態勢に入る、残りは小型が2、中型1。
ここからはフルマニュアルで試す、民間機だろうがなんだろうがレーザーが光速なのは変わらない、敵機の照準、有効射角を外す為に鋭角機動で回り込む。
「ぐうう」
『なんて機動だ、ロックオンが外されるッ』
鋭角機動で発生した慣性が身体を襲う
「ミサイルだ!」
「フレア、チャフ!」
「やってる!3、いや2抜ける」
ミサイルを積んでるなんて宇宙海賊にしては珍しい、ただあまり性能は良くないのだろう、元傭兵のマイクロミサイルポッドと比べると遅い、シールドで受けても問題無いけど・・・
反転、後方から迫るミサイルへ艦首を向けてパルスモードのレーザー砲で迎撃、そのまま艦首方向に敵機を捉えてレールガン二門でズドン、大して速くないから偏差射撃も楽に2機仕留める、残り中型1。
中型機がミサイル艦だったようで多数のミサイルがアラート共に迫ってきた。
「超重力砲」
『なっ、小型艦にグラ・・・ザザザー』
回避も出来たけど既にアークの機動性確認は終えている、残りの武装超重力砲でミサイルごと敵機を薙ぎ払う、事前にチャージしているので即射だ。
「ふう、良し」
「敵機沈黙、残存勢力無し」
「ノワ、アンタ・・・」
***
「70点だな」
「えー、低くない?」
「低くない!ノワ、中型艦を超重力砲でメタメタにしちまって、1番積載容量のある儲けのデカい艦をぶっ潰してちまったんだからね」
「あ」
「どうせ武装をひと通り使おうって楽したんだろうけど、他の艦の沈め方からすると幾らでも綺麗に処理出来ただろう? だから70点だ」
「う、ごめんなさい・・・」
「次からは儲けも計算して撃破する様にしな、何も全てブレードで落とせなんて言わないからさ、それ以外は良かったよ申し分無い操艦技術だった、やるじゃないかノワ」
「あ、うん!」
キャプテンの指摘通りだ、確かに積載容量が大きい中型艦こそ賊の撃滅後に行う宝探しで儲けが出る可能性が高い、シム感覚でサクサク撃破しちゃったけどその辺りを考慮してやらないとダメだね、完全に私の手落ちだった。
「それでシェフィ、どうだい?」
「そうですね、賞金が小型艦で一律200万、中型艦は800万で合計1600万です、宝探しは継続中ですが酒類や食料品が詰まったコンテナと資源採掘艦から奪ったと思わしき資源が少々、これは150万位になるでしょうか」
「ほう!酒ね!」
「・・・程々にキャプテン」
「おうともさ!ああ、ぶった斬った小型艦一機も持って行けばそれなりに金になるんじゃないかい?」
「はい、民間機ですが資源は有限です、過去の売買ログを参照にすると800万は堅いかと」
「おおー、なんか数分の戦闘の収入で2000万マニオーバーって凄い・・・」
「初陣としちゃあ悪くないね、ノワも宝探しやるんだよ」
「はーい」
賊狩りなんて爆散させてお終いなんて簡単に考えていたけど、結構考える事が多いしやることも多い、戦闘終了後は宙域の警戒をしながら作業用ドローンを操作、資源の回収を行う、通称「宝探し」だ。
オペレーターのシェフィが主に担当しているけど、私も慣れるために宝探しに参加する、その間はキャプテンに周辺の警戒と操艦を任せる。
まあレーダー出力最大にしておけば早々不意は撃たれないと思うけど念の為だね、誰かが索敵に集中しておけば安全に宝探し出来る。
コンテナは後部ハッチから荷室へ回収、勿論事前スキャンで内部に賊が潜んでいないか確認をするのは基本だね、ブレードで斬り捨てた艦は以前と同様に牽引ビームでコロニーまで引っ張っていく。
拍子抜けな感じだけど、これで傭兵の階級もひとつ上がる、ギルド登録時は子猫級、賊を一機でも撃破して無事帰還することで猫級になる、なんで猫かは知らないけど漸くこれで新人扱い。
その上の階級は獅子級、銀獅子級、金獅子級となるんだけど、獅子級で1人前、銀がベテラン、金は一流の証となる。
ただ、階級上がり立てと数年その階級に居る傭兵では経験と技術、信頼性が全く違うので、傭兵ギルドの組織内部的に更に細かく分類しているらしいね。
キャプテンが言うには獅子級と猫級では任せられる仕事に差があるので、ガンガン賊狩りをして取り敢えず獅子級に上がった方がより稼げるらしい、星系軍の大規模作戦に参加出来たりとかも獅子級からなので私としてもさっさと階級は上げてしまいたい。
キャプテンから傭兵ギルドへの口利きで私を襲った奴らの情報を探って貰った結果、大元には大きな宇宙海賊団が関わっていた事が判明した、その名も『薄汚れた者共の集い』という海賊団。
当然だけど大規模組織の討伐は星系軍が主力となり、ギルドの傭兵も大勢動員される。
全員殺すまで、なんて事は言わないけど、今のところは少なくとも私の気が済むまでは賊狩りはするつもりだ、特にママを殺した事に関わったヤツらを許すつもりは無い。
キャプテンの予想では更にその裏に貴族が居て、私を取引材料に帝国内での権力を高めようとしているのではないか、という話しだ。
エル・アトランディア主星にはキャプテンもずっと近寄っていないので、詳細な情報は得られていない。
当面の目標はお金を稼ぐ事、傭兵階級を獅子級まで上げる事、そして全ての始まりエル・アトランディア主星へ向かい情報収集をする事だ、今はただ只管に賊を狩る、それだけだ。