006.カスタマイズ!
「こちら機体名アーク、キャプテン ノワールの艦です、私はオペレーターのシェフィ、サジタリウスL2への入港を希望します」
『こちらL2港湾管理局、アークの入港を許可する、牽引している艦があるようだがそれは?』
「『裏切りのベスタ』と手配されている賞金首です、襲われたので処理しました、可能であれば傭兵ギルドのドックを希望します」
『了解した、G-021ドックへ、・・・ようこそサジタリウスL2へ』
シェフィが手際良く入港手続きをしてくれる、港湾とのやり取りに関して私は初めてなのでとても勉強になる、ゼクセリオン・コーポレーションのアルバイトであるテストパイロットの時は開発機のテストとあって、企業専用ドックから直接宇宙に飛び出していたから新鮮な感じだ。
2枚に卸した仇の機体は元傭兵の賊で状態も良いことから持っていけば相当の金額で買い取ってもらえると、キャプテンの勧めでトラクタービームを使って牽引してきた。
『裏切りの~』は傭兵や軍人が賊に堕ちて賞金首になった対象に使われる符号になっている。
モニターに行先のドックが指定されたので承認するとガイドビーコンが表示され、後はフルオートでドックに誘導される。
港湾は発着する大小多数の艦が行き交うので入港時は港湾に艦のコントロールを委ねるのがルールだ。
ゴウンと機体が揺れる、港湾備え付けのアンカーアームが物理的に艦を固定して入港は完了する。
「さて、先ずは傭兵ギルドだねえ、ノワの登録とベスタの艦の精算、アークの武装の手配、物資や日用品の補充、そんな所だろう」
「うん、キャプテンはどうするの?」
「さてね、まあアタシもギルドに用があるからそこまでは面倒を見てやるよ」
「うん・・・」
やっぱりキャプテンは此処でお別れのようだ、残念だけど私を助けてくれたのも善意やボランティアって訳ではない、旧友のママの依頼を受けた、それだけなんだと思う。
「えっと、じゃあギルドに」
「へいノワ、その格好で外歩く気かい?」
「え、あっ!」
そうだ、髪も目の色も今では皇族の白銀と蒼眼に戻ってしまっている、流石にこれで人目に触れれば目立って仕方がない。
「たく、仕方ないねえ、じっとしてな」
するとキャプテンが私の髪を纏め始めた、何処から取り出したのか何本かのヘアピンであっという間にハーフアップにすると自分が被っていた三角帽子を私の頭に深々と被せる。
「ほい、まあこれでイけるだろ」
「あ、ありがとうキャプテン、でも帽子いいの?」
「取り敢えず被っておきな、流石にフラフラと見せびらかしながら歩いたらマズイが、それっぽく隠して堂々と歩けば誰も気にしないさね」
ちょっと意外だった、だってキャプテン自身は茜色の髪を無造作に伸ばしっぱなし、それなのに私の髪を手際良くまとめあげたのだから。
言葉遣いは悪いけど、なんだかんだで面倒見が良いキャプテンがおかしくて、先を歩く背中を見て笑ってしまった。
***
「おうドレイク、今日はどうした? って片腕どうしたよっ!」
「この子の登録を頼む、あとベスタの艦を持ってきたから査定と武装の手配、腕は蒸発した、ついでに艦も爆散した」
「お、おお? は? 爆散ってどういう事だ」
「ノワ、手続きはコイツがやってくれる、アタシもギルドでやる事があるから終わったらカウンターの前で待ち合わせだ」
「うん、ありがとうキャプテン」
ギルドの受付にいた厳つい感じの如何にも元傭兵っぽい人はキャプテンと顔見知りらしい、キャプテンは同じことを説明すんのダリィから後で聞きな、と言い残してサッサと別のカウンターへ行ってしまった。
「・・・あの」
「あ、おう、悪ぃな、傭兵登録で良いんだよな、ライセンスが有るなら提出してくれ、艦は勿論持ってるんだよな?」
「あ、はい」
呆気に取られていた強面さんは気を取り直して対応してくれた、近接通信の申請が来たので了承、情報端末から航宙艦ライセンスとアークの登録データを送信した。
「見たことの無い艦だな実験機か? ん? 15でライセンス持ちだと、すげえな・・・、どちらも登録問題無しだ、ベスタの艦は、なんじゃこりゃ真っ二つじゃねえか、まるでブレードでズバッとやっちまったみたいな」
「あ、はい、ブレードでズバッとやりました」
「マジ?」
「ええっと、マジ、ですけど、武装もそれしか着いてないし・・・」
「うっそだろお前」
強面さんは信じられないといった表情で手元にある情報端末の戦闘ログを見て、私の顔を見て、また端末に視線を落とした。
「話が進みません、職務を全うして頂けますか? サー」
「すまん、つい、な」
シェフィが言うと強面さんも気を取り直して傭兵登録の手続きと艦の処理、賞金の精算をしてくれた。
ブレードは確かに貴族の決闘くらいでしか使われないネタ武器として見られるけど、私的にアリかナシかで言えばアリなんだよね、艦の周囲を包むシールドを貫通して攻撃出来るからシールドの削り合いに付き合う必要が無い点とか、まあ機体に備え付けられた物理ブレードだから射程が極々限られた領域になるけど。
ベスタの賞金は実力の高さからかなり高額で3000万マニ、2つに斬った艦はなんと1億8000万マニになった。
なんでも元傭兵の艦ということでグレードが高い事、破損しているけど爆散した艦と比べれば無傷に等しく、艦を構成するレアメタルや主要部品が再利用可能という理由からこの買取価格になったらしい。
金額の桁に驚くなかれ、アークの武装に大半が消えていくから、そういう今では端金みたいなものだ、機体購入に比べれば武装は安いもんだけどね。
ギルドで武装の手配、取付、管理もしているので専用端末を借りて近くのソファーに腰を下ろした。
「ノワ様、今の内に物資類の補充を済ませたいと思います」
「じゃあ私の個人バンク渡すから、そこからお願い」
「はい、では失礼します」
シェフィに私の財布の権限を譲与する。アルバイトだけどテストパイロットだったし、そこそこの額は入っているから大丈夫の筈だ、保存が効いているとは言っても合成食や培養肉、各種再生循環利用の水やフィルター、医療キット辺りは入れ替えてしまった方がいいと思う。
さて、と私もアークの武装決めなきゃ! ふふふ、航宙艦の何が楽しいって、戦闘で相手を倒すのもそうだけど、ステップアップしながら艦をアップグレードするカスタマイズが1番楽しいよねえ!
艦の修理費や弾薬費、ドックの停泊料等、運転資金は残さないといけないので、さっき手に入れた2億1000万マニを丸々使う事は出来ないけど、それを差し引いても強力な構成を組めるので問題は無い。
***
アークのウエポンスロットは6、両翼にそれぞれ1、艦の上部に3、下部に1、基本的に艦の前方上部に武装は集中されるから、試作機と言っても基本思想は踏襲している。
オーソドックスにレーザー砲を二門、Tierは最高である0の物にしよう、武装のグレードは下位のTier3から最上位の0まである、当然最上位は強力な武装だけどグレードが上がる度に燃費は悪化傾向にある、そこは艦のメインジェネレーターの出力と相談だ。
アークは試作機で予算が相当額突っ込まれたのだろう、小型戦闘艦の割に中型上位並の出力を発揮しているから、所謂燃費の重い武装も余裕で積めそうだ。
今の流行だと全武装レーザー砲になるのだけど、それは私の好みじゃない、バランス良く物理系武装も追加する。
マイクロミサイルポッドとかは雑に使えて雑に強い、ロックオンして発射、後は相手艦の性能と腕次第だけど数発でも当たればシールドはゴリゴリ削ってくれるだろう、但し弾薬費がとても嵩張る、それはそうだミサイルなんて炸薬、推進剤、追跡の為の各精密機械を搭載しているから当たり前だ。
そこでコスパの良い物理系武装の代表格電磁加速砲、俗称レールガンの出番となる、射出される質量弾自体がとても安い、どれ位かというとミサイル1発の費用に対して質量弾100発程という驚きのコスパを誇る素晴らしい武装、それが電磁加速砲だ。
威力が高く、同サイズクラスの航宙艦相手ならシールドを楽々貫通して仕留められる程で、レーザーが一々シールドを削り切る過程をすっ飛ばす事が出来る、まあレーザーだって大出力でシールドの強度次第では貫通するけど・・・
勿論いい所ばかりとはいえない、デメリットもある。それは弾速が遅い事だ、戦闘機動の航宙艦にレールガンは当たらない、撃った瞬間に狙った場所には敵機は既に居ない、当てるには偏差射撃つまり敵機の軌道予測を織り込んで撃たないと当たらない。
トリガー引けばほぼ必中が約束されている光速のレーザーとレールガンでは使い勝手の差があり過ぎる、その為現在ではレーザー兵器偏重が主流となっている、まあレールガン着けるんですけど。
当たるのかって? 当たるよ、ブレードが当たるんだからレールガンなんて楽なもんだよ、シムで各種武装の習熟は完了しているから問題ないない、電磁加速砲二門追加、っと。
艦上部と下部にレーザー一門ずつ、上部にレールガンが二門、残りのウエポンスロットは2で両翼となるけど、これは最初から決めていた武装がある、それは『超重力砲』だ。
航宙艦には三大ロマン兵装と呼ばれる武装がある、ブレード、電磁加速砲、そして超重力砲がそれに当たる。
超重力砲は強力な武装だ、超広範囲高火力の広域殲滅兵器で対多数の戦闘において威力を発揮する、1対1でもあまりの広域照射範囲に回避は難しい、それが超重力砲なんだけど、これもメリットに対してデメリットがある、ていうかデメリットがデカい。
重いのだ、一般的なジェネレーター出力の小型艦だと恐らく容量の80%は食うほどにエネルギー効率が重い、通常運用は巡洋艦級の大出力ジェネレーター搭載艦や複数ジェネレーター搭載の戦艦級が艦隊を組んで運用する兵器なのでさもありなん、小型艦に積むなんて容量の無駄になる。
これ積んだらジェネレーター容量足りなくてレーザー兵器はまともに扱えないからね、まあアークは積める、大出力ジェネレーターのお陰で問題なく運用可能だ、それでも全体の20%は超重力砲に取られるので濫用は出来ない、そもそもチャージに数分前後掛かるから連射は無理だけど。
はい、ポチー、超重力砲は特殊兵装でウエポンスロット2つを専有するのでコレでアークの武装は確定だ。
後、副次的な効果として艦を保護する慣性中和装置の効きも良くなる、アークの加速性能と機動性は私の知る限り小型航宙艦トップクラスなので、身体に掛かる負担も相当軽減出来るだろう。
レーザー砲二門、レールガン二門、超重力砲とブレード、4種の兵装の内3種がロマン兵装だけど、扱えるなら強力なものばかりだ。
アークの綺麗なフォルムは崩したくないので戦闘時以外は格納されるビルトイン加工も施す、少し割高になるけど予算内、総額1億6300万マニ、残金4700万と運転資金も十分なので私はソファーから立ち上がって強面さんに端末を渡した。
「っふ、ンンンッ!?」
強面さんは端末を見て変な声を挙げた、私を見て、また端末を見て、私を見る。
「・・・扱えんのか、返品は効かねえぞ」
「まあ大丈夫」
「・・・そうか、ドレイクの奴が連れて来た位だ、分かった手配しておく」
いいか、本当に確定処理するぞ、押すからな? と何度も確認する強面さんと数分問答した後、漸くアークのカスタマイズが開始された。