暗黒生命体討伐戦線1
傭兵ギルドを通して帝国航宙艦隊が依頼してきたのは以下の事である。
銀河が暗黒に染まっている為、総力を結集して欲しい、基本は遅滞戦術で引き撃ちしながら各星域から結集される帝国航宙艦隊の援軍到着まで持ち堪える事。
その為の戦術、弾薬、物資等は帝国軍の名において費用を補償する。
「つまり汚い手を使ってでも戦線を保たせろ、そういうこったな」
「帝国航宙艦隊がそんな事言うなんて、相当だよね」
「はい、送られてきた偵察映像がこちらになります」
「ははは、こりゃあ大勢お出ましだねえ」
「うわぁ、これ過去一の規模じゃないの?」
宇宙が肉塊に覆われている、大きな肉塊、小さな肉塊、あまりの数に星々の光が見えない程ギチギチと宇宙に詰め込まれた肉塊だ。
「はい、これまで正式に登録されている暗黒生命体の現出記録の中でも断トツの数ですね、数字確認しますか?」
「あんまり聞きたくないけど、何匹?」
「端数切り捨てして、5084兆の暗黒生命体となります」
「はすっ、なんだって?」
「端数切り捨てで、5084兆の暗黒生命体の大群となります、と申しました」
タタタとパネルをタッチしてアークコクピットのメインモニターに映し出された暗黒生命体の数に絶句した。
5084兆匹、端数が数千億っておかしくないかな、せめて万の桁を切り上げにしよう?
そういう問題じゃないか・・・、すごくおおい!とってもおおいよ!って感じで知能指数が著しく下がった気がするね。
漆黒の宇宙が全て赤黒い肉塊に覆われていて、超望遠の映像なのにSAN値もぐんぐん下がっていくよ。
「なんか、合体して新しい生命体誕生しそう」
「おいおいおい、やめてくれよノワ! そういうのは言葉にすると現実になるんだよ!」
「え、いやいや、そんな事ないでしょ、暗黒生命体が集まったら進化したなんて話、これまで記録されてないよねシェフィ」
「一応、正式な記録では、そういった存在は確認されていませんが・・・」
「が? が、って、ニーナさん、正式じゃない記録にはそういうのあるの?」
「・・・可能性の話として、人の細胞の異常増殖病として癌が存在致します」
奥歯に物が詰まった言い方をニーナさんがして、その疑問にシェフィが答えた。
数万人の人口でさえ癌に掛かる人は一定数居る、数千億、いや数千兆の数の肉塊の中に変異した個体が存在しても不思議じゃないよね、可能性とはそういう話だ。
「追記として敵対勢力の増援が2万程」
「2万って数字、数として考えると相当多いのに少なく感じるね」
「いやまさか、シェフィその2万は」
「はい、キャプテンが御推察の通り、対象宙域に潜んでいたとされる賊艦が暗黒生命体と同化されたモノです」
「うへ」
「死んでも迷惑掛けるねえ、宇宙海賊共は」
暗黒生命体に接触されると無機物と有機物が融合したバケモノが誕生する、基本的に数が多いだけの暗黒生命体が航宙艦の速度と火力を取り込んでしまうのだ。
肉と艦が融合した姿は醜悪のひと言に尽きる、搭乗員は、・・・言うまでも無い。
まあ宇宙海賊、生死不問の賞金首だからその点は大したことじゃない、問題は暗黒同化体が2万も居ることだ。
強いんだよね、暗黒生命体自体は数だけ脅威、宇宙海賊はレーザー砲とミサイルが脅威、どちらも単体での脅威度はそこまででは無いんだけど、この2つが合わさると猫級傭兵並には強くなる。
私達傭兵が宇宙海賊を一方的に蹂躙出来る理由は、艦の性能による所が大きくて、宇宙海賊は民間航宙艦を改造した程度で相手にならない、それが暗黒生命体と同化する事で火力と機動力が高まるのだ。
そんなのが2万、帝国航宙艦隊は兎も角、傭兵が当たるには獅子級以上じゃないと被害が増えるだろうなぁ。
・・・私、最近獅子級に上がっちゃったから、絶対配置される宙域は暗黒同化体の所になると思われる。
暗黒生命体の大群は帝国航宙艦隊、同化体は帝国軍の小型戦闘艦と傭兵の戦闘艦で対処することになるよねコレ。
「詳細はまだですが、私達の配置は激戦区と予想される宙域ですね」
「ノワさん悪い報せが」
「悪い報せ?」
「はい、軍の顔見知りからの情報で、主要な航路上にも暗黒生命体のワープアウトが確認されています」
「え、それって、コロニーから避難出来ないんじゃ」
「はい、一般人のパニックが怒らないよう情報統制が入っていますが、既に軍によって港湾と航路の封鎖を終えてるようです」
ということは誰も此処から逃げ出せない、ただでさえ敵の数が多いから避難の為に軍は割けない、軍を使わないとセンターコロニーの人員は捌けない、つまり帝国航宙艦隊の増援が到着するまでセンターコロニー・グラッドストンを死守しなければならない、という事になるね。
これはかなり気合い入れて掛からないといけないね、グラッドストンにはミュウちゃん達が居る、当然だけど生身で暗黒生命体に接触したら終わりなので、コロニーには触手1本さえ取り付かせてはならない。
一応、コロニーにだって迎撃設備とシールド機構は組み込まれているけど、5000兆もの暗黒生命体に取り付かれては絶対に保たないだろう。
「退けない、逃げられない、戦うしかない・・・、と」
「そういうこったな、まあ帝国航宙艦隊のお出ましまで死なないようにやるしかないねえ」
「戦線の維持と主力艦隊の到着、暗黒生命体がコロニーまで到達するまでの時間差は数時間です」
シェフィがコクピット中央に最大でホロギャラクシーマップを表示した、帝国軍によって予想された侵攻経路上は敵対勢力の赤点で染まり、何もしなければ今から38時間後にはセンターコロニー・グラッドストンに到達するホロが再現された。
「出撃時間は26時間後、当該宙域にて帝国軍と傭兵ギルド艦、民間武力を結集再編成して待ち受ける計画となっています」
「軍の試算ですと十分持ち堪えられる、と聞けたので戦力差程の絶望的状況では無いようです」
「つまり、いつもの様に出撃して受け持ち宙域を保たせりゃあ言い訳だ、艦長」
「そうだね、取り敢えず解散!24時間後コクピット集合で軽いミーティング後に出航って事で、各個人鋭気を養って下さい」
「ノワ様、念の為にお出掛けの際は2人以上で、民間へは情報統制されていますが航宙艦メーカーには戦闘艦の供出が依頼されている可能性があり、情報漏洩からの治安の悪化も考えられます」
「オッケー、じゃあ出来るだけ外には行かない、行く場合は十分身の安全を考慮する様に!」
「アイアイ!」
「イエスマム」
「はい、ノワ様」
艦長としてクルーに指示を出して一先ず解散とした、突発的な大規模作戦の場合、昼も夜も関係無いので睡眠時間はしっかり管理しないといけないからね。
最悪は戦闘直前に治療ポッドに入って身体のリセットを掛けられるけど、実際の睡眠と比較するとあまり身体に良いとは言えない、パフォーマンスの低下は生存率に直結するので皆健康が1番だ、まあキャプテンはベテラン、ニーナさんは軍人、シェフィは人造機械なので、アークの中では私が最も健康について気を付けないといけない。
メインパイロット兼艦長が寝不足で実力を発揮出来ずに爆散、なんて笑い話にもならないからね。
「ノワ様、私は今からメンテナンスポッドに入ります」
「分かった、任せて」
「はい、お願い致します」
アークへのコンタクトは全てシェフィが担っている、基本的に睡眠を必要としないシェフィなら24時間体制で受けられるからだ。
定期的にメンテナンスポッドに入らなければならない時だけ、アークの通信関係をキャプテンか私の情報端末に紐付けして対応している。
定期メンテナンスにはまだ余裕があるけど、これから休みなく活動する事を考えるとシェフィの申告通り今メンテナンスポッドに入るのが1番良いだろう。
シェフィを見送ると私は部屋に戻ってソファーに身を預けた、まだ時間はあるのでホロムービー何本か観られる、今から気を張っても疲れるだけだからね、細々と手続きも仕事あるしいつも通りに過ごしてグッスリ眠って出航する事を心掛けよう。
「・・・お姉様」
———数時間後、気落ちした様子のミュウちゃんからコールが来た事で事態は動き出した。




