003.ノワの方舟3
サイエンスフィクション×
スペースファンタジー〇
「信っじらんない!普通、護衛が護衛対象を盾にする!?」
「ハッハッハ、そんなカリカリするんじゃないよノワール、生きてるじゃないか、それに撃つなって言ってたから大丈夫に決まってるさね!」
「・・・」
イラッとした私はママの熱線銃を取り出してセーフティを外した。
「いや悪い悪い!でもねノワール、アンタの確保が目的なんだから本当にアチラさんは撃てないんだよ」
だからって蹴っ飛ばすかな!
しかもキャプテンは大して悪いと思っていなさそうだから余計に腹が立つ。
敵を排除した私達は別の船を目指して移動していた。
キャプテンの船は爆散したので、私の、・・・ママから貰った船へと急ぐ、流石に民間船は人を巻き込みかねないので選択肢は他に無い。
コロニー内は大混乱で、何ヶ所かで事件が起こりコロニーポリスの手が足りていない、更には港湾内でも航宙艦攻撃による爆散事件もあって、銃撃され襲われていると通報したけど返事も何も未だにない。
どうやら私を攫うためにあちらこちらへ目を散らしているらしい。
先程港湾ターミナルで敵を排除した直後、ママからメッセージが届いた。
それはママが死んでから届く様に手配されていた時限式遺言サービスで、私に渡した航宙艦の保管場所や遺産を自動的に相続する旨の内容だ。
幸い、ママの航宙艦のドックは色んな船が乗り入れするパブリックドックではなく、貸切り専用のパーソナルドックだった。
近くにセキュリティゲートがあったので、そこを通った今、簡単には追っ手は入って来れない。
「それで、なんでママは殺されたの、ママはメカロイド機械生命体じゃなくて、アンドロイドだし・・・」
「あん? あー、掻い摘んで説明するとだな・・・」
ひと息つけたと言える状況なので早速聞く、ママは殺された、母親だと思っていた存在はアンドロイド、私を狙う敵。
歩きながらぽつりぽつりとキャプテンは話し始めた。
ママ、マリアスティーネはエル・アトランディア主星に住まう男爵家、貴族の1人。
身篭った16年前、とある事情から秘密裡に私を出産した。
そして当時の主星の情勢だと私の命が危ういとの判断で、未登録艦である船を使って出奔した。
「だけどね、たかだか男爵家令嬢と言っても姿を消しては帝国の捜索が掛かる、そこで白素体の家政メイドロイドにマリアスティーネの記憶をそっくり複製したのさ」
「じゃあママは・・・」
「ああ、アンドロイドだけど正真正銘、ノワール、アンタの母親だよ、産みの親では無いけど、あのマリーも間違いなくね」
「そう、なんだ」
歩きながらボロボロと涙が溢れる
良かった、ママはママだった。ううん、違う、アンドロイドだ人だなんて関係無い。
ママが殺されて、しかも本当のママじゃないなんて思ってしまったけど、キャプテンの話を聞けて胸のつかえが取れた。
ただ、それでも育てのママに二度と会えない事が寂しくて溢れる涙は止まらなかった。
キャプテンは何も言わずに前を歩いて行く。
***
程なくして狭い通路から拓けたドックに到着する、そこには白銀色の小型戦闘艦が鎮座していた。
あらゆる艦のデータが入っているシムでも見たことの無い航宙艦だ。
「綺麗・・・」
美しい流線形を持つフォルム
装甲は傷ひとつ無く、見える範囲では無骨な武装も確認出来ない。
15年前にママと私が乗ってきた機体にしては型落ち感がないどころか、最新の艦と言われても不思議じゃない雰囲気がある。
「ほれ、ボケっとしてないで行くよ」
「あ、うん」
機体に見蕩れて惚けていた私は、キャプテンに言われて慌ててタラップを上がった。
私が近くに寄るとハッチが音も無く浮き上がる。
「お待ちしておりました、マイ レディ」
艦内では、所々が焼け焦げた給仕服を身にまとったメイドロイドが待ち構えていた。
「えっと、マイ、レディって事は私がオーナー登録されてるの?」
「はい、家政メイド型式SXMD-classical、製造番号H-022569、どうぞシェフィとお呼びください」
「えっと、シェフィ、さん?」
「はい、いいえ、シェフィと、敬称は不要ですノワール様」
「あ、じゃあ私の事もノワって呼んで、シェフィ?」
「はい、ノワ様」
メイドロイドの名前はシェフィと言うらしい、自己紹介をすると僅かに口元が緩んだ、感情レベルが希薄なタイプだ。
金色の真っ直ぐな髪と紅い瞳が印象的で、身長は大柄なキャプテンと小柄な私との中間くらい。
キャプテンもそうだけど胸が大きい・・・
私はついつい自分の胸を見下ろした。
「無事だったかいシェフィ」
「はい、いいえ、我が誇り、メイド服が焦げてしまいました」
キャプテンは気やすげに声を掛けた。
シェフィはキャプテンの無くなった左腕をチラリと見て、次に私を見て頷いた。
「まあ、ノワール様が無事なら良いでしょう」
「アタシ腕無くしたんだが!?」
「それを言うならば私は新造艦の爆破に巻き込まれましたが? どうせ爆散するブラックダイヤモンド号に気を取られて奇襲でも受けたのでしょう?」
「あ、すごい、当たりですシェフィ、でもあの爆発に巻き込まれて無事(?)で良かった」
「ありがとうございます、それと即時発艦の提言をさせていただきます、現在サジタリウス港湾は一時的に閉鎖されておりますので今が好機かと思われます」
「ならすぐに出てしまおうかねえ、何処かしらで待ち伏せは有るだろうが、追手を引き連れて待ち伏せされるより遥かにマシだ」
私は2人の話に頷いた。パブリックドックが閉鎖されていてもパーソナルドックはまだ大丈夫だ、元々身元のしっかりした者にしか与えられないドックなので、後日星系軍やコロニーポリスから事情聴取を受けるかもしれないけど、この様な騒ぎの中でも着艦発艦は自由だ。
先を往くキャプテンの後をついて行く。
コクピットはキャプテンシートを中央に、扇状の左右に2席のオペレーターシート、中央寄りにサブパイロットシートと全部で4席。
オーソドックスな小型の戦闘艦の構成となっていた。
「キャプテンはノワ、アンタだよ」
「えっ、私!!?」
「何を驚いているんだい、アクセス権限もオーナー権限もアンタだよ、それにアタシは片腕だ、ライセンス持ってるだろう?」
「あ、そ、そっか」
幾らオートメーションが進んで来ているとは言っても片手が無いと操艦は大変だ。
民間機なら兎も角これは戦闘艦、しかもよく見るとシングルスティックじゃなくてデュアルスティックタイプのコントローラだった。
私は1度深呼吸をして気を落ち着けてからシートに座り、今朝貰ったばかりのアクセスキーを差し込んだ。
メインシステム起動、セルフチェックプログラム・・・・・・問題無し。
『DRLE - 0000 - Ark Prototype』
アーク プロトタイプ、試作機?
システムを起動すると正面モニタに艦の型式が表示された。
それを流し見ながら各モニタや計測値をHUD上に見易く配置していく。
操縦桿とペダルの位置も調整してポジションを決める。
メインジェネレーター、シールド安定、出力問題無し。
生命維持装置、空調、その他オールグリーン。
メイン・サブ両スラスター、バランサー、姿勢制御スラスター動作良し。
「熱感、重力波、振動、光学センサー、他レーダー問題無し、通信もオールオッケーだ!」
「物資の確認は済んでおります、水食料品が3か月分程」
サブシートに座ったキャプテンとオペレーターシートに座ったシェフィからも報告が挙がる。
15年間動かしていないと思われる航宙艦なので、ひとつひとつ丁寧にシステムを確認していく。
物資の量を考えるとあまり遠くへは行けない、3か月分なんて広大な宇宙ではあってないようなものだ。
星系間移動は無理、余裕を持つなら数コロニー先で補給はしたい。
艦の兵装はチャフ、フレア、ECMと攻撃回避の為の欺瞞装置に、シールドが減衰した時に急速チャージする為のシールドセルが4。
ウエポンスロットは6つ全てがNONE、ん? 特殊兵装が1?
『DRLE - MURAMASA BLADE type II』
「えっ、この艦、ブレード積んでるの?」
「あん? ああ、Drレオナルドの発明品だな、確か分子分解ブレードだった筈だ」
つい口に出た疑問にキャプテンが答えてくれた。
分子分解ブレードなんて聞いた事がない、対艦ブレードは分かるけど、あれは超高周波振動ブレードで分子間結合を緩くして切り裂くものだ、決して分子を分解する仕組みでは無い。
て言うかブレードなんてそもそも貴族の決闘くらいでしか使われないネタ兵装だ。
今時の航宙艦戦闘は高速化が進み、光の速度でほぼ確実に当たるレーザー兵器と追従性能が高いミサイル兵器を併せて、シールドの剥がし合いをするのが主流だ。
ブレードを使用したクロスファイトなんて通常は有り得ない。
と、取り敢えず、まともな武装は積んでいないと、そういう事だ。
幸いジェネレーターとスラスター出力が高いスペックを誇っているので足は速い、最悪追手や待ち伏せに遭遇しても回避に専念して逃げる事にしよう。
外部ロックを解除、ゆっくりとパーソナルドックから発艦する。
ホロギャラクシーマップを開いて、行き先は3つ隣の交易コロニーをマーク。
人も艦も物も多くが行き交うので追手が来ても簡単には特定されない筈だ。
「まあ、いいんじゃないかい」
「じゃあ光速ドライブ起動」
「はい、光速ドライブ起動、カウントダウン入ります、4、3、2、1・・・」
基本的に進路や方針はキャプテンシートに座る人間が決断する、行き先候補は他にもあるけど反対意見が出ることもなかったので私は光速ドライブを起動させた。
シェフィのカウントダウンが終わると同時に、視界を埋めつくす星の光が線を引き全て後方へと流れ出した。
さよなら、ママ。
「いってらっしゃい」も「おかえり」も、応えてくれる優しい声はもう聴こえなかった。
三世も好きだけど、二世も好きです。