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8話 散歩中の出来事②

 雑草だらけの田んぼを横目に歩き続け、振り向けば私たちの家は小石ぐらいの大きさになっていた。


 もうしばらく歩けば新興住宅地が見えてくる。引き返すにはちょうどいい頃合いだ。



「歌恋の胸を揉み続けていれば、そのうち手のひらから吸収されてあたしの胸が膨らんだりしないかしら」



「なにバカなことを言ってるんですか」



 私の胸が育ち始めた頃――確か小5ぐらい――から、彩愛先輩は私の胸を頻繁に揉んでいる。


 そして、彩愛先輩の胸は小学生の頃から少しも膨らんでいない。


 先ほどの突飛な考えが机上の空論にすら成り得ないことを、他ならぬ本人が一番理解しているはずだ。



「ズルいズルい! 歌恋ばっかりおっぱいおっきくなってズルい! あたしもおっぱい揺らしながら歩きたい!」



 彩愛先輩はピタリと立ち止まると、手をぶんぶん振り回しながら激しく地団駄を踏んで喚き散らし始めた。


 こんなのを姉と呼んで慕っていたのだと思うと、悲しくて泣けてくる。


 まぁ、幼なじみとして放置したまま一人で帰るわけにもいかない。


 辺りに誰もいないことが唯一の救いだ。



「先輩、落ち着いてください。人目がないとはいえ、高校生にもなって往来で騒ぐなんて恥ずかしいですよ」



「うっさい! どうせあんたには分からないわよ! もう帰る! 家まで競走よ! 負けたらアイス奢りだからね! よーいドン!」



 一方的にまくし立てて勢いよく踵を返した瞬間、思いっきり足をひねってしまう彩愛先輩。


 もはや不憫すぎて同情の念を抱かされる。



「だ、大丈夫ですか?」



「大丈夫よ、ちょっとひねっただけだから。仕切り直して、家まで競そ――痛っ」



「無理しないでください。ほら、家までおんぶしてあげます」



 私は彩愛先輩の前で身を屈め、背中に抱き着くよう促す。



「ぐぬぬっ……くっ……あ、ありがと、この借りはいずれ返すわ」



 葛藤に苛まれつつも私の提案を受け入れ、背中に体を預けてくれた。



「気にしないでください。こういう時はお互い様ですから」



 幼い頃から、彩愛先輩には何度も助けられている。


 このぐらい、恩返しのうちにも入らない。



「どうでもいいけど、歌恋の髪ってすごくいい匂いよね。高いシャンプーでも使ってるの? くんくん……この芳醇にして爽やかな甘い香り、ただいい匂いなだけじゃなく、そこはかとない安心感をも与えてくれるわ」



「近所のドラッグストアで売ってる安いやつですけど――って恥ずかしいから嗅がないでくださいよ!」



「いいじゃない、別に減るもんじゃないし。あ、そうだ。おんぶしてもらってるお礼に、胸を支えてあげるわ。これで少しは歩きやすくなるわよね」



 彩愛先輩は私の肩から前面に垂らした腕を動かし、言葉通りに胸を持ち上げた。



「ひぁんっ。きゅ、急に触らないでください!」



「あと、あんたの手汗で太ももがビチャビチャなんだけど――」



「ああもうっ、少し黙っててくださいっ!」



 あまりに余裕がなくて、つい怒鳴ってしまった。



 顔が熱い。きっと耳まで真っ赤になっている。


 彩愛先輩は完全に無自覚なんだろうけど、今回ばかりは私の完敗だと認めざるを得ない。

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