婚約、回避希望!!
いつもより念入りに髪をとかされ、この日のために作ったと言わんばかりの可愛らしい水色のドレスに袖を通して。
前日の事件さえなければ、私は今頃楽しみで仕方がなかっただろうに、どうも神様はイタズラ好きのようで。
かれこれ1、2時間馬車に揺られていると、少しずつ王城が見えてきた。
前世で友人と行ったテーマパークのちゃっちいお城なんかとは比べ物にならないそれに、本当に転生したんだという実感が今更ながら湧いてくる。
一応、12年間この世界で暮らしてたんだけどなあ。
「……様、……嬢様、お嬢様!どうしたのですか、ボーッとなさって。最近なんだからしくありませんね」
ようやく耳に届いたマリーの声によってようやく現実へと引き戻される。
「緊張、してるのかもね」
なんて微塵も思ってない事を言えば、マリーは納得したように微笑んでいる。
「そろそろ着きそうね」
「ええ、長い間馬車に揺られて大変でしたね。病み上がりだというのに」
少しすると、馬車がゆっくりと速度を落として止まり、マリーが王城に着きましたよ、と知らせてくれる。
そのまま馬車を降りると、先日ぶりの人物がわざわざ御出迎えしてくれる。
「レイニア嬢、遠い所ご苦労だったな。今日は会えて嬉しい」
そう言って微笑む殿下に一瞬気が緩みそうになるも、今日はそんな悠長なことはしていられない。
「はい、イナ殿下。本日はわざわざありがとうございます」
「レイニア嬢の御父上や、陛下はもう中で待っていらっしゃる、私達も行こう」
イナの言葉に素直に頷くことができない。
何度も言うが、私は自由気ままに暮らしたいのだ。
王子との婚約、あっさり「はい、喜んで」などと言う訳には行かないのには理由がある。
なんと言ったってこの国の次期王は、現国王の指名制なのだから
もしこのイナが国王になってみろ、私は王妃だ。国母だぞ。
そんな苦労の絶えない立場に誰がなりたい、少なくとも私はなりたくない。
だが、この婚約を私の勝手で断ってしまえば、大好きなお父様やお母様にまで迷惑がかかってしまう。
だから、彼にはここで証明してもらわなければならない。
王になるつもりなどないことを。
「イナ殿下、歩きながらで構いませんので、少しお聞きしたいことがあるのです」
ああ、いいぞ、と言ってイナは手を差し出し、エスコートしてくれる。
「率直にお聞きします、殿下は国王になるつもりはおありですか?」
その言葉にイナはピタリと歩くのを止め、私の顔をじっと見つめ、瞳の奥まで見透かされそうなほどに真剣な表情で言った。
「ああ、俺は王になる」
ごめんなさい、やっぱり無理です、お父様、お母様。