婚約、回避希望
翌日、マリーに髪を梳いてもらっているときに、思いもよらぬことを聞いた。
「お嬢様、イナ殿下とのご婚約のお話が進んでいるようでなによりです。
正式に決まれば王城に行かねばなりませんから、どんな衣装にしましょうか」
は、一体何の話をしてるんだ。
私には一切そんな話は届いていないとマリーに言うも、そのうち正式に決まるだろうといった事を返される。
「ちょっとマリー、冗談はよしてよ」
「冗談なんかじゃありませんよ、昨日旦那様と殿下と一緒に参られた王城からの遣いの方がその事をお話されてましたもの」
まさか、こんなにも早く婚約の話が決まるとは。
そんなものは少なくとも社交界にデビューしてからの事だとばかり思っていた自分の浅はかさに少し情けなくなる。
貴族、しかも公爵令嬢ともなれば政略結婚などは覚悟していたが、殿下妃など以ての外だ。
私は社交界とかで知り合った地方貴族にでも嫁いでのんびり暮らそう、そう思っていたのに。
「旦那様のような綺麗な金髪に王族特有の硝子のような藤色の瞳、まるで小説の中の王子様が抜け出してきたかのようではありませんか」
違う、違うのよマリー。
人は見た目じゃないの、中身よ中身。
彼が野心家で王座を狙っていでもすれば、私の悠々自適ライフの夢は砕け散ったも同然になる。
「マリー、そのお話って、今からではどうにもならないのかしら?」
「どうにかって、まさかお断りするつもりですか!?
しかし……相手は王族ですし、今回の件をお断りするとなれば旦那様にも少なからず影響があるでしょう。
まだお嬢様はお若いですから心中お察し致しますが、これは仕方の無いことです。
きっとお嬢様にとって将来的にも良い話ではありませんか。未来の王妃様だって夢じゃありません!」
その可能性が一番嫌なのよ、マリー。
とは流石にキラキラと目を輝かせる彼女に言うことは出来なかった。
再び髪を梳くマリーをよそに、昨日、イナに言われたことを思い返す。
「ああ、レイニア嬢とは上手くやっていけそうで安心した。
これからもよろしく頼む」
これからってそういうことだったのね。
なんとかしてお父様達に迷惑をかけずにこの婚約話を無かったことにしなければ。
そう心に固く誓い、私はあと4日安静に過ごすことにした。
次は色んな人を出したい