みんなで行こう理想郷 上
今は二月、空を見上げると真っ白な雪の結晶が舞っている。
美しかった緑の山々はその姿を白く変え、気持ちよさそうに泳いでいた魚たちは透き通った川の中で今か今かと春を待っているようだ。
そんなゴールデンウィークの時と違う景色を前に、僕と充と柿本……それに三人のロリ達が集まっていた。
「ここに来るのは久しぶりですね拓海さん♪」
あの時と同じように軽やかなスキップをする愛莉。
他の二組もみんながみんな楽しそうな表情を浮かべている。
そんな中、ふと愛莉はスキップを止めて振り返る。
「……でも愛優さん達も来れなかったのが残念ですね」
「ん、そうだね」
愛莉は本当に残念そうに言う。
この場にはあの時はいた愛優さんと紗奈さんはいない。
別に二人に何かあった訳では無い。ただ二人とも急な私用が入ったためお暇をいただいただけだ。
……まぁ僕としてはその私用ってのが、こっそりと僕達を盗撮することだと思っているけど。
なので例えば少し目を凝らして観察していると……。
「……やっぱりいたよ」
うまく一般人に紛れているが、あの高級そうなカメラとそれを手にする人物を見逃すはずがない。
あえて声をかけようか悩んでいると、その人物は必死にお願いしますとジェスチャーで頼み込んでくる。
十中八九あの人のことだから「私がいないおふたりだけの時の愛莉様の姿を撮りたいんです!!」とかそんな理由なんだろう。
ふとスマホが振動する。見れば愛優さんからメッセージが届いていた。
『湊様、取引をしませんか?』
珍しくあちらから良い提案をしてきた。
僕は周りにバレないよう気を配りながらこっそりと返信をする。
『取引?』
『はい。実は優里様から最近二人に会えていないから近況を知りたい、とのご依頼を受けまして。そのうえ出来るだけ自然な形の二人を……ということでこのような形になりました』
『……なるほど。つまり僕は出来るだけ自然に愛莉とイチャイチャしなくてはいけない、ということですね』
『つまるところそういうことです』
『……ちなみにですが、具体的に何をすればいいんですか?』
『私としてはセックスが一番なのですが……』
『…………』
『冗談ですよ。普通に恋人のように手を繋いだりキスをしたりしてくれればいいです』
『……わかりました』
『おや、即決されるのですね。もしかして湊様もイチャイチャが……』
『僕だって健全な男子ですから。とにかくお話はわかりました僕の方もなんとかしてみます』
と、半ば強引に終わらせスマホをしまう。
バレないようにと思っていても、流石に隣を歩く愛莉には隠せない。僕がわざわざスマホをしまうのを待っていてくれたらしい。
「拓海さん、どうかされたんですか?」
「ん、愛優さんから仲良くやってるかって」
「くすくすっ、本当に愛優さんは心配性ですね。……でもそうですね」
「……愛莉?」
愛莉は自分の指を僕の指に絡ませる。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
「……ふふっ♪」
愛莉は思わず頬をほころばせたようだ。
ただこうして指と指を絡ませながら手を繋いでいるだけなのにこうして幸せな気持ちになれるのだから凄いと思う。
……まあ一つだけ問題があるとしたら、時折この繋ぎ方に気がついた人達から妙な視線を向けられることくらい。
*
最寄りの駅から歩いて一時間ほどのところに僕達が目指した旅館がある。
中に入ると、そこにはあの時と変わらない光景。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「すみません、予約をした星川ですが……」
出迎えてくれた女将は前回とは違う人みたいで、辻褄が合わない……なんてことが起こらなかったのはラッキーだ。
ちなみに幼子の楽園として動く時は基本的に充が予約などをするので、そこら辺の対応はいつも通り全て充に任せる形になる。
手続きを済ませ、僕達は女将に連れられて、五階建ての旅館の最上階にある部屋に案内される。
ここの階は完全なる貸切となっており、僕達以外と鉢合わせることはまずない。
女将に部屋に案内されると、それぞれやりたいことの準備を始める。
そんななか愛莉は窓の外をうっとりと眺めていたので僕もその隣に立って愛莉と同じ景色を見る。
「やっぱりここは冬もいい景色ですね……」
「愛優さんは残念だったけど。でもこうしてまたみんなで来れて良かったよ」
「はいっ♪」
「……ところでなんだけどさ」
「……はい」
そうして僕達は揃って振り返る。
しかしそこには先程までカバンを漁っていた面々は消えていた。
もちろんただ単に温泉に行ったり下の階にある娯楽施設に行ってるだけだけど。
「くすくすっ、やっぱりみなさん行動早いですね」
それを見て愛莉は楽しそうにくすりと笑う。
確か初めてここに来た時も似たようなことになっていたことを思い出したのだろう。
とはいえ、せっかくここに来たのだからというみんなの気持ちもわからなくはない。
それに僕自身、愛莉とここの露天風呂に入りたいというのもあったからだ。
「それじゃあ僕達は温泉に行こうか」
「はいっ♪」
こうして僕達はまず温泉に入ることになった。
✱
場所が変わりここは男湯。
本来であれば女子禁制のようなこの場所で女の子の甘い艶かしい声が響いていた。
「はぁはぁ……た、たくみふぁん……んっ……」
「どうかな愛莉」
「はい、とても気持ちッ! いいれふ。はふぅ……」
「ふふふ、愛莉の弱いところは全て把握してるからね」
「ひゃう!? た、たくみひゃんそこはらめっ!」
僕が指を少し動かすだけでその度に愛莉は色っぽい声を漏らす。
……今思えばここまで来るのに中々に苦労した。
毎日のように共にお風呂へ入り、キチンと愛莉の許可を得たうえでつきたてのお餅のような肌に触れ、他でもないこの手で経験を積んだ。
そしてようやく手に入れたこの境地!
恐らくこんな事が出来るのは世界でも僕と愛優さんくらいだろう。
それにしても……。
「愛莉って本当に綺麗な背中してるよね」
彼女の小さな背中を優しく手で洗いながらそんなことを呟く。
「そ、そうれすか?」
「うん。ここ最近ずっと洗わせてもらっているけど、毎回のように見惚れてる」
「そんな褒めすぎですよ……。それに拓海さんの背中も私好きです♪」
「あはは、ありがとう愛莉。それじゃ流すよ」
「はいっ」
一度シャワーを手に当てて温度調節、そして愛莉の背中に着いている泡を洗い流す。
何かを期待していたのかもしれないけど、僕達はまだそんなことはしない。
確かにあの日……愛莉の誕生日を迎えてから可能な限り毎日いっしょにお風呂に入ってはいるが節度は守っている。
……血の繋がっていない女子小学生とお風呂に入っている時点で節度がどうとか言っても説得力は無さそうだが、あくまでもこれはお互いに同意の上……つまり合法なのだ!
それに僕は愛莉のことを性的な目で見ているわけではない、とも付け加えておこう。
「──ところで」
「ん?」
顔だけ振り返りながらやや上目遣いで尋ねる。
「本当に良かったんでしょうか……。ここは一応男の方専用のですし」
「小学生なら一般的な銭湯でも男湯に入ってくる時もあるから大丈夫だよ。それにあっちは今柿本達が使ってるうえに僕が女湯に入るわけにはいかないからね」
「確かにそう、ですね」
言いながら困り笑顔を浮かべるが、何かに気がついたようですぐにジト目を向けていた。
「な、なに、かな?」
「さっき拓海さん他の小学生も入ってくるって言ってましたよね?」
「…………あっ」
そこで僕は自分が失言をしてしまったのだと知る。
「つまり拓海さんは私以外の女の子の裸を見たことがあるってことですか? 私のでさえまだキチンと見てもらってないのに……」
「あ、いや、それは……」
別にやましいことはない。ないはずだ。
確かに充と一緒に行った時にそういうことがあったが、あくまでも僕達は変態紳士と書いてロリコンと読む紳士だ。
ついうっかり視界に入ってしまうことはあっても決して自ら見ようとしたりしていないことは神に誓える。
しかしそれはそれ、これはこれ。
そんな誓いなど彼女にとっては些細なことなのだ。
「拓海さん」
「……はい」
「私はですね、別に他の女の子の裸を見たことに怒っているんじゃないんです」
「……はい?」
「私が恥ずかしがっているというのもありますが、それでも拓海さんは決して見たがらないのに、その、他の方だけ見ているなんて……なんだか負けた気がします」
ぷいっとそっぽを向いてしまう愛莉。
こうして長い付き合いになってくると新しい一面を見ることが出来る。
例えば今みたいに実は嫉妬深いところもあったり、本当は普通の家族に憧れていたりと……。
僕はそっと膨らんだ愛莉の頬に触れ、
「その顔も好きだけど、僕はいつもの愛莉の方が大好きだよ」
「……もぅ」
「確かに視界に入っていたのは認めるけど、それでも僕が心の底から裸を見たいと思っているのは愛莉だけだから」
「た、拓海さん、はっ、恥ずかしいですっ!!」
今度は完全に振り返って胸板をぽんぽんと叩く。
勢いこそあれど、そこはやはり小学生ということもあって痛みは全くない。
しかし別の問題がある。タオルによって隠されているため前の方は見えないようになっているが、そんなに激しくしていたら……。
「あっ……」「ふぇっ……?」
それに気がついたのはほぼ同時だった。
叩くことに夢中になってしまったが故に、抑えていた手さえも離してしまい愛莉の前面を守っていた一枚の布がひらりと音もなく落ちた。
……眼前に広がっていたのは真っ白い緩やかな二つの丘だった。
膨らみかけの小さな丘はダメだとわかっていても視線を逸らすことはできず、むしろ引き寄せられていた。
穢れを知らぬそれはとても美しく魅惑的で……僕なんかが拝んでいいものなのかと本気で考えてしまうくらいに。
ごくりと生唾を飲む。
それが合図だったかのように、愛莉の顔はみるみるうちに赤くなり、
「きゃあああああああああ!!!」
「うわあああああああああ!」
男湯に響き渡る一組の男女の悲鳴。
次の瞬間にはお互いに背を向けあっていた。
「どうして拓海さんが悲鳴を上げるんですかぁ!」
「ご、ごめんつい……」
「そりゃ私もびっくりして声を上げてしまいましたが……。うぅ……」
余程恥ずかしかったのか、こうしていても今の愛莉が顔を隠しているのがわかる。
「本当にごめん! その、言い訳になるけど、愛莉のそこがあまりにも綺麗だったから……」
「……うぅ。拓海さんは卑怯です。そうやってすぐに私を喜ばせるんですから! 私だって自分がちょろいと奈穂さんや紗々さんに言われて自覚し始めましたが……」
「……愛莉?」
どうやら少し様子がおかしいと思い振り返ろうとするが、
「まだダメです!」
「は、はいっ!」
あっさりと止められてしまった。
しかしこれは困ったことになった。せっかくの旅行で亀裂を作ることになるとは。
僕たちはこうして一緒に入ることは日常的だが、線引きはしてあった。お互いの大切な部分は隠すという線だ。
当たり前のことを言っているかもしれないが、これは本当に大切なことで、一度でもこれを解いてしまえば危機管理が薄くなりそのまま……なんて話も聞いたことがある。
これが18歳以上であればまだ問題は小さいのだが、僕の場合は相手は小学生なのだ。
習慣になってしまっている今では不思議には思わないが、一年前の僕であれば『二人きりで一緒にお風呂なんて変態紳士の風上にも置けない!』と言っていただろう。
……もちろん完全な本心ではなく、嫉妬も混ざってはいるが。
今にして思えばあの頃の僕は少し夢見がちだったけれど。
そんなことを考えていると、今度は背中をポンと軽く叩かれる。
「……これはさっき私の胸を見た分です」
「もっと本気でやってもよかったのに」
「それだと痛そうですし、何より半分は私のせいでもあるので」
「ありがとう」
「どうしてお礼なんて……」
「僕たちの業界ではこんな言葉があるんだ。『我々の業界ではご褒美です!』って」
「くすくすっ、なんですかそれっ」
「世の中にはたたかれて喜んじゃう変態がいるってこと」
「では私の婚約者さんはその変態だったと?」
「試してみr──」
「えいっ!」
浴場の中にパァンと聞くだけでそこをさすってしまいそうなほど良い音が響く。
さっきはあんなことを言ったけれど、僕はあくまでもノーマルであってそんな趣味はないので返る反応は、
「いってええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
「た、拓海さん!?」
その場で思わずジャンプをしてしまった。
グーパンは腕力とかの関係上、愛莉に本気で殴られても痛くはなかった(体験談)が、今回のようにパーでこられると、とても痛い。
そして僕はこの痛みの次に現れるものをよく知っている。
きっと小学生男子なら一度はやったことがあるだろうから。
「す、すみません、背中に手の跡が……」
「あはは、気にしないで。予想していたのより強く来たからびっくりしたのと、手の跡なんてすぐに消えるから」
「そ、そうなんですか?」
「愛莉たち……というより女の子はやらないけれど、男は基本バカだからさ、小学生のころプールのときに『紅葉だー』とか言いながらよくやってたから」
「こんなにも赤くなってしまっているのにですか?」
「うん。だからあんまり気にしないで、それに僕からお願いしたようなものだったし」
なんて強がってはみるものの、やはり痛いものは痛い。
しかし愛莉の生乳を見てしまったのだからこれくらいは甘んじて受けないと、僕の心がもたない。
(まだ昼間のうちだったのが幸いかな)
これですぐに寝ろと言われても痛みでうまく眠れなかっただろう。
と、ほっと胸をなでおろした時だった、不意にたたかれた場所に柔らかくて小さな手が触れる。
「痛いの痛いのとんでゆけ……で、いいんでしたっけ」
「愛莉?」
「……私ダメですね。久しぶりの旅行で浮かれてそれでこんなことになるなんて……」
「そんなことないよ。僕だって浮かれているし、こうなったのは単なる事故なんだからさ。それにまだ旅行はまだ始まったばかりなんだからこれから思いっきり、それこそ今回のことなんて忘れちゃうくらいにたのしもうよ!」
「そう、ですね……まだ始まったばかりですもんね!」
「前はあんまり観光とかできなかったし、温泉から出たら愛優さんとお義母さんのお土産でも見よっか」
「それってつまりデートのお誘いと受け取っても……」
「もちろん。今年に入って初めての旅行だし、いっぱいいっぱい思い出を作ろうね」
「はいっ♪」
愛しい婚約者の笑顔は見てるこちらまで笑顔になる。
そう、僕たちの旅行はまだ始まったばかりなのだ。
「……ところで」
「ん?」
「男湯にはカメラが付いているんですね。初めて知りました」
「……」
そういって指した先には恐らく愛優さんが仕掛けたのであろうカメラが。
つまり今までのことがすべてあそこに保存されているわけで。
「……誰かの忘れ物かもしれないからあとで僕が旅館の人にわたしておくね」
「は、はい」
手に取り愛優さんのだと確認すると、申し訳ないと思いつつもこのお風呂場でのデータを消して、後程返却したのだった。




