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プロローグから物語へ

1話完結、と申しましたが…。どうにも世界観?を説明するだけのお話になってしまったような(汗

漂泊されるような白に視界が洗われる。

思わず閉じた瞼の裏まで白い。

触れていた卵の殻が溶け崩れるように輪郭を失っていくのがわかる。

生まれるのだと。

そうして、次に目を開けた時にはきっと自分たちは新しい世界にいるのだろう。

目の前に広がるのは、どんな世界なのだろうか。

優しい世界?甘い世界?苦い世界?脆い世界?心躍る冒険が待ってるのかな?切なく甘酸っぱいような恋物語?それとも想像もつかないような変な生物しかいない世界かな?

はちきれそうなほどの期待が小さな胸に宿る。


ああ、この卵から生まれてくるのはどのような物語(ひな)なのだろう。そうしてどのような結末(おとな)になるのだろう!


まぶたの裏で踊っていた光が徐々におさまってくる。

さあ、目を開けよう。

待っている、私を待っている。世界が、新しい世界が。

ゆっくりとまぶたを持ち上げる。

この昂揚感。失ってしまうのは少し惜しい気がするほど。

目を開けるのがもったいないと感じて、それでも目の前に広がる世界を見たくて。

ゆっくりゆっくり、まぶたを持ち上げて行く。

真白い世界。


「…え?」


魂の抜けたような声が、白い世界に吸い込まれて消えた。

目を開いた赤毛の天使は、ぽかんと周りを見回す。

(なにも、変わっていない?)


白い世界。どこまでも、白く白くなにもない――


ふふっ、と白い空間が羽毛のように軽やかな笑い声をあげた。

驚きに硬直した身体をゆっくりと軋ませて、赤毛の天使は振り返る。

目に飛び込んできたのはまばゆい光をまとった金髪の少年。

「創造主さま!」

傍にかけより、頬を大きく膨らませて少年を見上げる。

「どーゆーこと?どーゆこと!なんで?ここどこ?私たちがいた世界と何も変わらないよっ!」

「本当に変わっていないかい?」

「変ってない!」

「卵がないけれど…それ以外は変わっていませんね」

ようやく我を取り戻したらしい緑の髪の天使も、まだうつろな声で赤毛の天使に加勢する。

困ったような、からかうような、面白がっているような奇妙な表情を浮かべて創造主はそうかな?と周りを見回して見せた。

つられて2人の天使もあたりを見回す。



しろ  しろ   ましろ



地平線も空も地面も全部全部まっ白まっ白。まじりあって溶けあって、そこには何もないようで。

背筋が凍るほどに、ここは美しい世界。

それでいて、胎内をたゆたっているような雲を踏んでいるような夢見心地の気分にさせる。


「ここは、彼女が(わたし)望んだ世界」


幼子に教え諭すように、柔らかな口調で創造主は言葉を紡ぐ。

「きみたちには、多くの世界の主人公となり、または導き手となって物語を見守ってもらうつもりだったけれど、それはまた別のきみたちの役割。彼女(わたし)がきみたちに望んだのはきみたちが紡ぐきみたちの物語」

「わたしたちの?」

「そうだよ」

きょとんと幼子のように見上げる天使たちに、創造主は母親が浮かべるような柔らかい笑みを向ける。

「ここは、わたしときみたち2人しかいない。なにもない世界」

「そんな世界で、私たちはどうすれば…」

「そのための、世界さ。なんでもできる、そう、創造主のわたしとこのペンはそのために在るのだから。この世界は、白紙なのだよ」

「はくし…」

「それは、つまりあなたが私たちの物語を作るということ?」

緑の髪の天使が理知的な翡翠(ひすい)の瞳を創造主に向ける。

創造主は真意のまったく見えない不透明な笑みを浮かべて緑の髪の天使を見た。

果てが見えない、この白い世界と同じ色の笑み。

「どうして、そうなるんだい?」

「あなたが創造主の名前を持っている、から…」

「創造主は、世界を創ったという意味では神様と同じかも知れないね。けれど、きみたちは自分の意思を持って自分で行動しているだろう?」

「それも、あなたが望んだからでは?」

「そう、思うのかい?単にきみたちは結末に向かって走り続けているだけだと。すべては運命に定められていると。たとえば、わたしが『きみはこの創られた世界と操り人形でしかない自分に絶望して死ぬ』と書けば、きみは死ぬのかい?その選択肢がいまのきみにあったかい?」

「そ、創造主さま?!」

たまりかねた赤毛の天使が素っ頓狂な声を上げた。

「そんなことしないよね?しないよね?」

確認というよりは、すがりつくように創造主ともう1人の天使を見やる。

くちびるを真一文字にひいて、緑の髪の天使はジッと創造主を見つめる。

相変わらず創造主の表情から真意は読み取れない。

強固な意志を示す緑の髪の天使に、創造主はふぅと吐息した。

諦めたような、それでもどこか面白がるような吐息。

「世界を創ったのは確かに神様かもしれない。始まりを作るのはね。でも、言っただろう?わたしのペンはきみたちの軌跡を綴るのだと。物語を紡ぐのはきみたちだと。創造主の名をもつわたしは、綴ることできみたちの物語を読者(みんな)の物語にするんだ。きみたちのきみたちだけの物語(せかい)を共有してもらう。そうすることできみたちは生きるんだ。それとも、きみたちの存在だとか世界の在り方だとか、そんな哲学的なことをきみたちは論じたいのかい?ここに在る、だけじゃダメかい?きみたちは今自分の足で立っているだけじゃ納得しないかい?生とはなんだね?死とはなんだね?生きるとは?死ぬとは?物語?人生?きみたちはいちいちそこに理由を求めなくては呼吸をしてもダメなのかね?どうしてきみたちは存在に理由を求めるんだい?……、そうだね、納得いかないというのならば、きみたちの存在理由を一つ、提示しようか。きみたちは酣酔楽の名前を持つ人に望まれて此処に在るのだよ。とりあえずは、これで納得してくれないかい?」

まさしく立て板に水。

怒涛のごとき言葉の氾濫に2人の天使は沈黙を強いられた。

まっ白い沈黙。

ふ、と緑の髪の天使がやわらかく息を吐いた。

「わかりました、創造主さま。私は、私の意志で私の物語を紡ぐ。私の物語に貴方が登場し、貴女が登場する。あの卵から生まれたのは、私たちの世界」

「そう、きみたちの物語。そしてそれはわたしの物語」

にっこりと、創造主と緑の髪の天使がほほ笑みあう。

1人波に乗り遅れた赤毛の天使が、えええ?と2人を交互に見、置いて行かれないように慌てて言葉を紡ぐ。

「で、でもでも!どうやってここで生活するの?なんにもないよここ。真っ白で…」

「言っただろう、わたしは創造主。世界を創る者」

傲慢(ごうまん)とさえ呼べる笑みを浮かべて、創造主は手の中にあるガラス細工のペンをくるりと回転させた。

翡翠色がきらめく。光も、ないのに。




今日の物語はこれでおしまい。



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