新たな仲間
私の名前はミル、空の魔物の大将ジズに育てられた竜人よ。
ヒカリとエリーヌの二人と一緒に私は今『霧の村』という名の場所に馬車で来たわ。
「霧が濃いわね」
「霧の村という名の通りということだろう」
「固まって警戒しつつ前進、何かあったら知らせて」
ヒカリはプラズマライフルだったかな、それを手に持って歩き出した、私とエリーヌもそれに続く、エリーヌは何時でも戦えるように剣を抜いていた。
何もなければいいんだけど……
「霧が濃くなってきたな」
歩き出して数分、そう言ってヒカリが左手で私の右手を掴んだ。
「ひゃ!?何!」
「はぐれない様にだ」
「あ、そうか……」
目の前も見えないほどに霧が濃くなってきたからだろう、私も尻尾の先をエリーヌの鎧に引っ掛けた。
そんな状態で数十分、霧が突然薄くなり目の前に巨大な建造物が見えた、立派な教会だ、パッと見ただけでも数百人が入れるような大きさだ。
「入るぞ」
ヒカリは手を離すと扉に手を掛けプラズマライフルの先端を隙間に差し込む。
それで反応が無いのを確認すると一気に扉を蹴り開けた。
「これは……」
「酷いな」
「これ人間だよね?」
扉の中、礼拝堂、その中は大量の蜘蛛の巣で埋まっていた、足下や壁、天井には人間ほどの大きさの糸の袋が大量に存在しており血生臭さが満ちていた。
『また人間か』
そんな声が天井から聞こえた、顔を上に向けると全長二十メートルはある巨大な蜘蛛が天井に張り付いていた。
「何者だ?」
『我が名はアラーネア、我が住処を守る者だ』
「ならば話をしよう、私たちは魔物を倒しに来たわけではない」
アラーネアは名乗ると天井から下りてくる。
不気味な複眼と人間を一呑みに出来そうな口が目の前に迫る、しばらくその目が私たちを見ていたが特に何もせずに礼拝堂の奥へと移動していった、そういえばお父様もこんな風に人間を見ていた気がする、たぶん長寿の魔物はこうやって人間の嘘を見抜けるのだろう。
『倒しに来たのではないのなら去れ、ここは人間の土地ではない。我が子たちも腹を空かせているのだ』
「どうしたのダーリン?今日の獲物は捕まえないのかしら?」
その時礼拝堂の奥、祭壇の床が開いてそこから上半身が人間、下半身が蜘蛛の女性が出てきた、その下半身には小さなといっても手のひらより大きいがが大量に張り付いており彼女の出てきた穴からは一メートル程の巨大な蜘蛛があふれ出してきた。
『この者たちは敵ではない、魔物に理解のあるものだ』
「へえ……」
カカカカ!と蜘蛛の女性が三人の前に移動してくる、その速度はヒカリに勝るとも劣らないすさまじい速度だった。
「貴方、人間でもあるし亜人でもある、だけどこの匂い……魔物の血も混じっているわね、何貴方?」
ヒカリの顎に手を置いてその目を女性はのぞき込んでいた、吐息がかかるほどの距離である。
『止めろアラーニェ、手を出すな』
「ダーリン、これはチャンスですわよ、この子たちなら魔物の頼みを聞いてくれるかもしれませんわよ」
「頼み?悪いが、私たちには目的がある。面倒ごとは断る」
「あら?この状況でそんな事言えるのかしら?」
それを聞いて私は周囲を見渡す、エリーヌも自分たちの状況に気付いたようだ、足下の床、木の床の隙間から出てきた小さな蜘蛛の群れが足下に集まっている、小さいとはいえ魔物の蜘蛛、その毒は強力だろう、多少の毒なら体内で解毒できるがこの小さい蜘蛛以外にも目の前のアラーニェ、そして一メートルの蜘蛛とアラーニェの体についた蜘蛛が襲い掛かってくる、流石にこの数の蜘蛛の毒はどうしようもない、その事はヒカリも重々承知しているだろう、これでは頼みでは無く脅迫だ。
「……一応何をすればいいのか聞かせてくれ」
「うんうん、状況を分かってくれて嬉しいわ。貴方たちに同行させてほしいのよ」
「な!?」
「え!?」
『えええ!!??』
アラーネアお前が一番驚いてどうする、この言葉にはヒカリも驚いたようで目を見開いている、アラーニェの顔は真剣そのものだった。
『え?ちょっと、儂そんなの聞いてないけど!』
「今決めたもの、聞いてなくて当然ですわ。で?返事はどうなのかしら?」
「先ほども言ったが私たちには目的がある、何の意図があってついてくるんだ?」
「私たちが生きるため、いいわ、説明してあげる」
アラーニェはヒカリから離れると口笛を吹く、すると一匹の大きな蜘蛛が本を背にアラーニェの前に移動してきた。
「この本はこの世界の神話、かつてこの世界に現れた勇者と大天使、そしてそれと戦った魔王の話が書かれているわ」
勇者と魔王の話……それはもしかして
「太古の昔、人間と亜人が住んでいたこの世界に魔王が現れた、魔王は魔物と呼ばれる邪悪な生命を作り出し人類と亜人を苦しめた、そんなある時、人々の前に大天使が現れお告げをした『人々を救う勇者異界より現る』と、そしてほどなくして勇者がこの世界に現れ様々な道具や魔法を駆使して魔王を打倒した」
お父様に聞いたことがある、エリーヌもこの神話を知っているようでうなずいている。
「この勇者の使ったとされる道具、その中にポータルという道具があったらしいわ、どんなものでも必要なものを出せる未知の道具、それを手に入れれば私たちは飢えることは無い、私たちは移動する危険を冒さずにこの村で過ごせるようになるのよ、それを手に入れるのに協力してほしいわ」
そういうことか、彼女たちも空の魔物と同じく追いやられた魔物なのだ、お父様の所にいる魔物は石を食べて生きれるが彼女たちは違う、肉食の彼らは周囲の生き物を食べ尽くせば獲物のいる別の場所に移動しなくてはいけない、だがそれには天敵の魔物や冒険者に襲われる危険を孕んでいる、この霧の村は霧に守られた彼女たちが見つけた安住の地なのだ。
「ヒカリ、手伝ってあげようよ、可哀想だよ……」
「……一つ聞いてもいいか?」
「何かしら?」
「そのポータルという代物は人間もだせるのか?」
「ええ、望む物なら何でも取り出せるわ」
「「よし協力しよう!」」
ヒカリとエリーヌの声が重なった、見事すぎてアラーニェもビックリ私もビックリしている。
「よかったわ~、じゃあダーリン、留守をよろしくね」
『……お前は言い出したら聞かんからなぁ、分かった、だが必ず帰ってこい、危なくなったらそいつらを見捨てて逃げてこい、絶対に生きて帰ってくるのだぞ』
「ええ、必ず帰ってくるわ」
アラーニェが「もういいわよ」と言うと私たちの足下に集まっていた蜘蛛たちが文字通り蜘蛛の子を散らすように床下に消えてゆく、それと同時に奇妙な服を乗せた蜘蛛がアラーニェの所に歩いてきた。
「着物って言う衣服らしいわ、ちょっと前に港町から来た商人を襲った時に手に入れたの」
アラーニャが着物を着る、どうやって着たのか分からないほど複雑な着かただったがとても綺麗だった、黒い布に赤い帯、張り付いた蜘蛛の巣が模様のようになっていた。
「さ、行きましょうか」
こうして旅をする者が一人と目的が一つ増えた。