旅
私の名はエリーヌ・ウェリンダ、エルフだ、かつてとある王国で反乱を起こし捕まり洗脳されていた。
私の前を歩く半分魔物、そして残りの半分の半分が機械、残りが人間という奇妙な人物は私を救ってくれた恩人ヒカリだ。
そして私の隣を歩くのはドラゴンの特徴を持つ亜人ミル、王国に幽閉されていた亜人たちを救ったこれもまた恩人だ。
私は勇者(自称)を追ってこの二人に同行することとなった、それに助けられた恩もある、だからヒカリの人探しを手伝いながら勇者を探すこととしたのだ。
しかしなんだろうこの……
「なんか喋ろうよ!!」
私の気持ちをミルが代わりに言ってくれた、私が目覚めて自己紹介や目的を話して以降、ヒカリは何も言わずに半日近く歩き続けているのだ、その雰囲気に気おされて何も言えなかったがミルは我慢の限界だったらしい。
「何を喋ることがある?草原が永遠と続いているだけのこの状況で」
「えー……草が綺麗?とか空が綺麗とか?」
「綺麗だな」
会話が終わった、どうやらヒカリは必要以上の会話が苦手……というよりそれ以外の喋り方を知らないように見える、今まで千年近く生きてきてこの性格は見たことがある、戦場だ、それも生まれた時から戦いを見てきてただ戦うことだけを覚えたような、そんな性格だ。
「ヒカリ殿、少し休憩をしませんか?疲れてはいないかもしれませんが息抜きは大切ですよ」
「……分かった」
道から外れ私たちは近くに見つけた川に向かった、というのも私の今着ている鎧、何時から着ていたのかかなり臭いがきつかったからだ。
「やっと解放されたー!」
私が鎧を外しているとミルが川に飛び込んだ、ヒカリは川の前で甲殻を外そうとしたのか隙間に指を入れて何度か引っ張ると諦めたように肩を落として川の中に座った、外れるわけが無いだろうに……しかし彼女もあんな反応をするのだな、無感情というわけでは無いようだ。
鎧の内側を空に向けて置き私も川に入ってゆく、だいぶ大きい川だ、深いところなら私も足がつかなさそうだ。
「じー」
「ん?」
誰かの視線を感じる、そちらを見るとミルが顔の半分だけを出してこちらを見ていた。
「え、なに?」
「大きい」
「はい?」
確かに私の身長は三人の中では一番高くミルは一番小さいが翼を広げれば誰よりも大きいのは彼女だろうに。
そんな事を考えているとミルが水中に消えすさまじい速度で私の背後に移動し浮上した。
これが陸海空、全てに適応したドラゴンの力か、などと感心していると
「ひゃあ!?」
「こんなもの浮かべて嫌味かぁぁ!!」
ミルの顔程もある柔らかい山が二つ思いきり掴まれる、爪を畳んだミルの手は冷たい鱗に覆われており不思議な感触が広がる、冷たく、少しヌルヌルして私の肌を滑ってゆく。
「ちょ!やめ!変な声でちゃ……ひゃあ!あっ!ん!!」
なんでこの子こんなに上手いの、ダメッ!それ以上されたら私、私……
「ふふっ……」
「あ、笑った」
へ?ミルの手が止まる、見るとヒカリが笑っていた。
「にひっ」
そしてそれを見たと同時に背後にゾクリと寒気が走った。
「優しくお願いします……」
◇
結局あの後十分以上たっぷりと胸を揉まれた。
「はぁ、はぁ……」
「ヒカリ、エリーヌはね、マシュマロ」
なんの報告だ、というか休憩の筈が余計に疲れた。
しかし良い息抜きにはなった、ヒカリも少しは楽しめたようだし、これで少しは旅もマシになるだろう。
鎧についていた虫を払い落とし装着し私たちは再び道を歩き出した。
そして夜、草原を抜けた私たちは森の中に居た、前に誰かが使ったであろう焚火の後を見つけミルの魔法で火を点ける、燃やせる薪なら探せばいくらでも見つかるので私たちはここで一晩過ごすことにしたのだ。
「結局あの後喋ることが無かったな」
「ヒカリが無口すぎるのよ、暇じゃないの?」
「屍の中を片足を失って一人歩いたこともある、暇なだけなら特に苦痛ではない」
重たい、彼女の過去を詮索するつもりはないがどれほど過酷な世界から来たのだろうか?異世界の人間とはどれもこんな過去を持っているのか?
「話題を変えよう、ずっと気になっていたのだがヒカリ殿が背負っているのは何なのだ?ボウガンにも似ているが構造が全く分からない」
「電磁投射装置とプラズマライフル」
そう言ってヒカリは電磁投射装置を構え引き金を引いた、閃光と共に一筋の光が駆け抜け木々を砕き夜空に消えていった、そしてもう一つ、プラズマライフルを構え引き金を引くと狙った木に穴が開いた、超高温で一瞬にして溶かしたのだろう、開いた穴から煙が出ていた。
「こんな武器だ」
言葉ではなく実際に使用してくれたおかげでとても分かりやすい、これが彼女の異世界の技術なのだろう、千年生きてきてこれほど強力な武器は初めて見た。
「凄まじいな……だが、森に向けたのは間違いだったな」
周囲に生き物気配が集まってくる、ヴヴヴヴ……と不気味な羽音が私たちを包んでいた。
二人も気づいたようでヒカリは武器を、ミルは翼を広げていた、おそらくスティンガーの巣に直撃したのだろう。
一抱え程の大きさの羽虫、強力な毒針をもっており過去に群れが町を襲い壊滅させたことがあるほどの凶暴な魔物だ。
「スティンガーの巣に直撃したのだろう、かなりの数だ」
「木の間に見えた、大きなスズメバチか……」
「うわぁ、森ごと燃やした方が良いかも」
暗闇の中からスティンガーが飛来する、剣で縦に切り裂くとそれを合図のように次々と飛んできた、私は剣を片手で持ちスティンガーを切り裂きながら反対の手で炎を起こす魔方陣を宙に描く。
「炎の精よ、私の力となれ」
左手から火が出てそれが左腕を包み込んだ、そして剣を左手に持ち替えるとその炎が広がり剣に纏われる。
スティンガーの目は火をよく認識する、こうして炎を上げれば向こうからその中に突っ込んでくるのだ、ちらりと後ろを見るとミルは両手に炎を纏い口から火炎放射を噴いていた、そしてその隣では短剣のような刃物で頭を狙ってくるスティンガーを切り裂いているヒカリの姿があった。
「数が多い!」
「エリーヌ、森に火を点けて逃げた方がいいと思うわ!」
「同感だ、数で圧倒される」
あまり森を焼きたくはないが生きるためには仕方が無い、剣を大きく振るい一際大きな炎を上げる、それに合わせてミルも大きく炎を噴いて森に火が点いた。
「走れ!」
「ごめん多分あんたが一番遅い!」
「は?」
「先に行く」
私の体がふわりと浮きヒカリが瞬間移動に見えるほどの速さで走り出した。
燃えた森がどんどんと足下になってゆく、ミルに抱えられて私は空を飛んでいたのだ。
確かにこれなら私が一番遅い、一瞬なら私もヒカリのような速さは出せるがそれを維持するなど不可能だ、眼下では燃えた森の中に大量のスティンガーの影が見えた。
「森の出口を目指すわ、ヒカリもそこに向かったはずだし」
「分かった、落とさないようにしてくれよ」
森の出口、ミルの言ったとおりヒカリはもう既にそこで待っていた。
どんな速度だ、フェンリルでもその速度は難しいぞ。
「速いな、いったいどんな魔法なんだ?それともそれも未知の技術か?」
「私の世界なら普通、この世界なら未知」
やはりそうか、どうやら彼女は精霊を生体活動の為だけに使いそれ以外は自力のようだ。
結局燃える森を背にして私たちは夜通し町に向かって歩くことになった、先ほど空を飛んだ時に明かりが見えたからだ。
「ところでヒカリ殿は何を食べているのですか?」
「さっきの蜂」
よく食えるな、確かに毒針と毒腺以外は食べれるが生で食べる人間は初めて見た。というか初めて見るものばかりだな。
次回からダンジョンとか魔物とか出していく。かも