人間の罪
「海の魔物の大将か」
『レヴィアタン、今はそう名乗っている』
「リヴァイアサンではないのか?」
『昔の名前だ、忘れてくれ』
「私たちを食うのか?」
『いや、もういらない。それにお前を食えば娘が悲しむのでな』
「そうか。ベヒモスから伝言を預かっている」
『バハムートから?まだ生きていたのかあの爺』
「まだ生きている。だそうだ」
『ははは、そんな報告いらないのだがな。しかしこの匂い、お前ジズの血が流れているな』
「ベヒモスに同じことを言われた、この血のおかげで私は今も生きていられる」
『相変わらず人にやさしいのだなジズは……私に乗れ、キサラギまで連れて行ってやる、話したいこともあるしな』
「ふむ」
「お父様の知り合いなら嘘は言ってないと思うな私」
「ではお言葉に甘えて」
私たちはまるで小島のようなリヴァイアサンの頭部に降り立った、鎧のように頑丈な鱗に覆われた頭部は意外にも揺れが少なく快適だった、不快なのはせいぜい海水でべとべとしているぐらいだろう。
『人間の居ない冒険者の集まりか、あまり見ない組み合わせだ。それに私への敵対心も感じない、魔物に理解のある人と考えてもよろしいか?』
「話ができるのなら敵対する理由は無い、その質問に意味はあるのか?」
『成程、人間の匂いもしたので確認しただけだ。お前達になら話してもよさそうだな』
「何を?」
『我ら魔物の存在意義だ』
「魔王が人間の数を減らすために魔物を生み出したという話か?」
『バハムートに聞いたようだな、そうだ。そして今また我らの力が必要な時が来たという話だ』
「人間が増えすぎたと?」
『いや、魔物が減りすぎた。過去、人間はその勇気と知恵を振り絞り力で勝る我らと戦った、そして勇者を中心に人間は我らの魔王を打ち倒し勝利したのだ、我らは魔王の最後の命令である魔物の住処を守り世界を維持する、それを実行した、人間に魔物の恐怖を忘れさせないために、人間がこの世界の支配者ではないと伝えるために、だが人間は我らが思った以上に』
「馬鹿で愚かだった」
その時私たちの背後にミームが現れた。全身が濡れているのを見る限りリヴァイアサンの口の中から出てきたのだろう。
「人間たちは土地を広げ魔物の住処を奪いはじめた」
『まだ魔物だけが倒されるのであればよかった、だが次に彼らが狙ったのは魔物の血を引いた人間だ、昔は亜人と言えばエルフぐらいしか存在しなかったが魔物の持ち込んだ細菌や毒によって一部の人間やエルフが突然変異を起こした、何千年もかけてそれは多種多様に広がり亜人の種類は随分と増えたのだ。だが最近そこに問題が起き始めた、お前たちのように魔物の特徴を色濃く受け継いだ一部の亜人が排除され始めたのだ、そこの蜘蛛のお嬢さんは分かるのではないか?』
「確かに、私を受け入れる土地なんてほとんど無いわね」
「私もそう、あの町はもともと魚人が集まって作られた村だったから私は受け入れられたけど」
何となくこの世界の事情が見えて気がする、だがそれでも不思議な事はある。
「何故人間は数が増えたわけでも無いのにそんな事を?」
そこが不思議なのだ、数が増えた者が少ないものを排除する、それならまだ理解できるが数も増えていないのになぜ人間は魔物を駆逐し亜人の排除を始めたのだろう。
『勇者だ』
「勇者は魔王を倒していなくなったのでは?」
『いや、最初の勇者ではない。魔王軍の残党が一度国を襲ったことがあった、その時に滅びゆくその国で一つの魔法が発動したのだ、異世界転移魔法、国一つを魔方陣にした大規模魔法だ、それにより召喚された人間が居た、そいつは圧倒的な力を持ち魔王軍の残党をいとも簡単に蹴散らしたのだ、その活躍からかつての勇者の称号をその人間は与えられた、勇者は今後このような事が起きないように人々を先導し魔物の駆逐にのりだした、こうして魔物は大きくその数を減らしたのだ。先ほどから言うようにそれだけならまだ我らが存在しているので問題は無かった、だがその勇者は意味不明な思想を持っていてな』
「人間離れした亜人が嫌いだったのよ、ケモノは認めないとか体の半分が虫は気持ち悪いとか、正直言って意味不明だったわ」
「最近の話なのか……」
「八百年ぐらい前だから私が子供の頃ね」
「……それなら私も聞いたことがあるな、エルフや獣の耳を持つ者をえらく好んだとか聞いたことがある。不埒だ」
この世界の勇者は基本的にクズなのだろうか、ロクな人間では無いな。
『その勇者は寿命で死んだのだが彼の残した言葉は時間をかけて広がりいつの間にか亜人排除の方向へ動き始めた、死んでも迷惑な奴だ』
「お気の毒です」
『まだ表立った行動は起きていないが水面下ではもう既にその動きは日に日に強くなっている、これからお前たちの向かうキサラギにはこの事、いや、世界の動きが分かる者がいるので話を聞いてみるといい、奴の名はキサラギ、国を作った張本人だ。私の名を出せばすぐに会えるだろう。我が名はレヴィアタン魔王第二軍司令だ』
それから程なくして島が見えてきた、大きな港が見えるがそこに居る人々は慌ただしく走り回っており沿岸に黒い筒が並べられてゆく、とても嫌な予感がしてきた。
『突っ込むから好きなタイミングで飛び降りろ』
ただの強襲だった。
沿岸に並んでいた黒い筒、大砲が火を噴きリヴァイアサンの表皮が爆発する、だがその程度はダメージにならないのか口を大きく開き更に加速した。
「他に方法は無かったのか」
ズガガガガッ!!!と港を破壊し数メートル、ぶつかった衝撃で私たちは空に投げ出され、港町を飛び越え森の中に墜落した。




