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異世界漂流  作者: 英雄騎士
旅をする
12/23

空飛ぶ船

 閉じた瞼の向こうから光を感じ私は目を覚ました。


「あら、ようやくお目覚めね」

「アラーニャ……私もしかして溺れた?」

「そうらしいわね」


 周りを見渡すとどうやらここはギルドの救護室のようだ、首筋に痛みを感じ触ってみる、するとそこには二つの小さな穴が開いていた。


「私の噛み傷よ、貴方の体に後遺症が残らないように私の毒を注入したわ。まあ、体に害はないけどね」


 なるほど、どうやら救われたようだ、だとすれば私を海から助けたのはミル?


「それとしっかりとそこの子にお礼言っときなさいよ」


 そう言ってアラーニャは部屋から出て行った、そこの子?

 アラーニャが指さした方を見るとそこには奇妙な姿の女性が居た、胸や股間、腕と足先が青い魚の鱗のようなもので覆われその手や足の指の間にヒレが生えた女性、話に聞いていた魚人だということは一目で分かった。


「ありがとう、私を助けてくれて」

「当然のことをしただけです、それにあの時ヒュドラに貴方が捕まったのは私の歌のせいでもありますし」

「歌?」

「はい、私の歌は人をリラックスさせてしまうんです、多分そのせいで貴方は……その、左足を」


 私は無くなった左足に目を向ける、足首から先が無くなっており左右の足の長さが変わってしまった、前の義足はもう二度と手に入らないだろうか……いやポータルを手に入れれば取り戻せるな、ただそれまではなかなか不便になりそうだ。

 何か金属の足でもあればナノマシンにより接着できるのだが……まあ、また後で考えよう。


「この程度なら大丈夫だ、それよりもあの時の歌をもう一度聞かせてくれないか?」

「はい、それでよろしければいつまでも歌ってあげます」


 そう言って魚人の少女は美しい歌を奏で始める、先ほどまで酒を飲んで騒いでいた声が止まり歌に聞き入っているのが分かった。

 とても落ち着く曲だ、静かな水辺に響くような美しい歌声が夜のギルドに響いた。



「ごめんなさい」


 次の日の朝、私の前に来たミルが開口一番に言ったのは謝罪の言葉であった。


「遊ぶのに夢中でヒカリの事に気付けなかった……」

「謝らなくていいよ、油断をしたのは私だから。武器を持っていたらあんなことにはならなかった」


 昨日の魚人の少女が持ってきてくれた武器と弾薬を確認しながら私はそう答えた。


「ふむ、この銃身を外せばちょうどいいか……」


 私は電磁投射装置の長い銃身を取り外し左足の断面に着けてみる、すると断面を覆っていたナノマシンが銃身に取り付き足に固定した、立ち上がってみると少し歩きにくいが何とか歩けた、これで暫くは大丈夫だろう。

 銃身の短くなった電磁投射装置は射程こそ短くなるがその威力が落ちるわけでは無い、減っていた弾薬を装填し背中のウェポンラックに装着した。


「それで、海の向こうに行くのはどうなった?」

「おおヒカリ殿、もう大丈夫なようだな。一応ちょうどいい方法が見つかったぞ」

「ちょうどいい?」

「これだ」


 そう言ってエリーヌが取り出したのはあの空中船の乗船許可証であった。


「あの船は客船でありこれから命名式が行われ処女航海に出るらしい、客船ということもあり一般の人を乗せたかったらしいが皆怖がって乗らなかったらしいんだ、行先は海の向こうの国『キサラギの国』だ、普通なら魔物の居る危険な海を何日もかけて船で行くのだがこの空中船はそれを二日ほどで安全に航行可能だそうだ」

「なるほど、急いでいる私たちにとってはうってつけの乗り物だな。それで、何時船は出るんだ?」

「今日の昼だ」

「早!」



 そんなわけで昼、命名式を私たちは見ていた。


「それでは現町長の娘、にしてこの町と同じ名を持つマーレさんより名前を発表していただきましょう」


 式の司会者がそういうと壇上に女性が上がってくる、その姿に私は見覚えがあった。


「昨日の……」


 昨日私を助けてくれた魚人の女性だった、マーレはその手に大きな紙を持っておりそれを大きく広げた。


「アプサラス、この船の名はアプサラスです」


 アプサラス、空に浮かぶ真っ白な空中船に名がついた。


 名前の公開後、船の客が転送魔法の魔方陣の上に案内される、どうやらあの船に転送してくれるようだ。

 魔方陣が輝き一瞬目の前が真っ白になり気付くと私たちはアプサラスの中に移動していた、移動したということが分かるのは目の前の大きな窓から眼下に町が広がりその向こうの山や森が青空が窓を支配していたからだ。

 空の旅は特に初めてということは無いむしろ海に荷電粒子を発射してくる敵がいないというだけでかなりの安心感がある。

 まあ、この空の上で安心しきっているのは私とミルだけなのだが。


「お、おおお……た、高い……」

「凄いわね……正直言ってちょっと怖いんだけど……」


 基本陸に住んでいるエリーヌとアラーニェにとってこの高さは少し高すぎたようだ、窓から離れてしゃがんでいた。

アプサラスが音もなく動き出し町がどんどんと離れてゆく、推進力を生み出すような動力は見当たらないがそこはおそらく魔法なのだろう、端末で確認してみると明らかにおかしな風の流れが空中船を包んでいた。


「ようこそアプサラスへ、到着までゆったりとお過ごしください」

「貴方は……町長の娘がそんな事していいの?」

「ただ乗っているだけなので暇ですから、なんなら案内しましょうか?」

「では頼む、あの二人を窓のない部屋に行かせたいしな」

「はい、お任せください」


 座り込んでいた二人を窓のない客室に案内してもらい私とミルも窓のある客室に案内された、部屋の鍵を受け取り私はミームにこの空中船の案内を頼んだ。 


「このアプサラスは私の町ミールと海の向こうの国キサラギとの共同によって開発された空中客船なのです、海の上は危険が多く客船と呼べるものはことごとく海の魔物に沈められました、なので私たちは魔物の

少ない空の上を航行することにより安全で素早く移動できるようにしたのです」 

「そうか、安全と言っているがこれが初の航海なんだろう、本当に大丈夫なのか?」

「この船の上、大きな袋があったでしょ、あの内側に大規模な魔方陣を大量に描いているの、風の魔法よ、その力を使ってこの船を浮かせているわ、もしもの時に落ちたりしないようにこの船が浮かぶ以上に大量にね」


 ガスでは無かったか、つまりこの船は浮いているというよりは風で吹き上げられているということだろう。


「下の客室や操縦部は私たち、上の袋はキサラギ製なのよ、文字が書きやすくて軽くて動物の皮じゃない紙でできていてどうやってつなぎ合わせているのか分かってないんだけどね……まあ燃えやすいんだけど」


 ミームが何か最後に呟いたがよく聞こえなかった、しかし動物の皮ではない紙、おそらく和紙だろう、和紙を糊で繋いでいるのだろう。

 島国ゆえに独自の文化を持っているのかもしれない。


「ここが展望室です、トイレや水浴び室もありますので自由にお使いください。これで大体の案内は終わりです」

「案内してくれてありがとう」


 しかしなんだろうか、ギルドであった時に比べて今の彼女はどこか表情が硬い、何か不安なことでもあるのだろうか。


「案内のお返しと言ってはなんだが、何か悩んでいるなら話を聞かせてほしい。命を救われた礼もまだして無いしな」

「それは……」


 それを聞いて微笑んでいたミームの顔から表情が消えて俯いた。


「ただの愚痴ですが聞いてくれますか?」

「構わない」


 私たちは展望室の椅子に座りオレンジ色に輝きながら沈んでゆく太陽に照らされた。


「実は私本当の町長の娘では無いのです」

「そうか」

「驚かないんですね」

「別に珍しいことでは無いからな」


 親を失って別の大人に育てられた子を私はたくさん見てきた、今更親が違う人を見たところで驚きなどない。


「町長はあの砂浜で子供だった私を見つけて今まで育ててくれました、それは良かったんです、こんなに大きくなるまで育ててくれたことには感謝もしています。だけど海が私に語り掛けてくるのです、他の人にそんなことはできません、私は物心ついた時から海の声が聞こえていました」

「海の声?」

「はい、深く遠いところから響いてくる声、確かに私は町長に育てられました、でも私に物事を教えてくれたのはいつもその声です、だから私は町長の事を父親とはあまり思えないのです、海から聞こえる声……それが私の親の気がするのです」

「うん、それで?」

「……それが、最近その声が苦しそうなの」

「最近?」

「二百年ぐらい前から」


 時間の感覚が長い、どうやら魚人というのかなりの長寿のようだ。


「その頃から海は『食べ物が無い』『もう私には止められない』『我らは滅びへと向かっている』それと同じころ魔物が人間をよく襲うようになってついに海岸に居る人まで襲うように……」


 オレンジ色の太陽が消えてミームの顔が影に隠れその表情が見えなくなった。


「もうそろそろ夜の食事が用意されます、行きましょうか」


 決まった時間で発動する火の魔法がランタンで発動し火が点き部屋を明るくし、ミームは笑顔でそう言った。

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