陸では最強の魔物
現在私たちは砂漠の中を大きなトカゲに引かれた馬車の上で揺られていた。
エリーヌは暑さと揺れで気持ち悪いのか荷台の中で寝転がり同じくアラーニャも暑さで丸まっていた、私は御者台に乗ってトカゲ、サバクトカゲを操り目的地に向かっていた、しかし暑い、今の私の体は熱には強いし汗をかくこともないのだがもう何時間も直射日光に当たっていれば暑くもなる、まあそれを言ったらトカゲの背に乗っているミルが最も暑いはずなのだが火山育ちの彼女にとってはこの程度は大して暑くもないのだろう。
「ヒカリ、前に誰かいる」
「ああ見えた、旅人だな。馬車を止める」
手綱を引いて見えた人影の前で馬車を止めた。
「旅の者か?」
「あ……ああ……」
声をかけてみるとどうも様子がおかしい、窪んだ目に開いたままの口、そこからかすれた声とも言えない空気が漏れていた。
「っ!?」
その時、突然その旅人が地面に吸い込まれ砂が陥没した、激しい衝撃に襲われ馬車が傾く、流砂だ。
突然現れた流砂に馬車が巻き込まれたのだ。
「なんだ!?敵襲か!」
荷台の幌の中からエリーヌが顔を出した。
「後ろ」
「ん?」
「おお、サンドワームの巣だわ、本体が出てくるわよ」
トカゲは本能的に天敵がいるのを知っているのか必死に足をバタつかせるが動けば動くほど流砂に足を奪われてゆく、御者台の上に立ち流砂の中心を見るとそこから出てきたのは巨大なワームだった。
こちらが落ちてくるのを待つように口を開いて待っている。
「虫が邪魔するんじゃないわよ!」
ミルが飛び上がり火炎放射を吐く、だがワームにはさほど効果が無いのか微動だにもしなかった。
「なっ!?」
「無駄ね、あのワーム結構いろんな人間を食べてるようだし、人間のおまじないとかの守護魔法が発動しているわ……不味いわね、これじゃあ私の毒も効くかどうか」
「ヒカリ殿、あのワームを倒せばこの流砂は収まります、この流砂はアイツの発動している魔法ですから」
「そうか、では綱を頼む」
「なに?大規模魔法でもつかうのかしら」
エリーヌに手綱を渡すと私は荷台に移動して反対側の幌から上半身を出し電磁投射装置を構えて引き金を引いた。
音速越えの弾丸がワームの口の中に吸い込まれ胴体を突き破り内臓と血をまき散らした。
「デカすぎるな」
だがワームはそれでも生きていた、デカすぎてすぐに死なないのだ、私はプラズマライフルに持ち替えてフルオートで射撃する、発射されたプラズマ弾はワームを貫通しその巨体を削ってゆく、半分ほど削れると流砂の流れが弱くなりそして止まった、それと同時に陥没した部分から馬車は脱出しトカゲはすさまじい速度でそこから離れていった。
◇
そんな事もありながら私たちは今回の目的地に到着した。
「ここが神の大地?」
「多分そう、お父さ、じゃない、空魔の大将が陸の魔物の大将がここに居るって話してた、外の世界で困ったことがあれば大将に聞きに行けばいいんだって」
神の大地、それは危険な砂漠を越えた先にある広大な樹海である、年中霧が発生し危険な魔物が多いこの場所に近づく人間は少ない。
「行くぞ」
馬車から降りた私たちは樹海の中に入っていった。
「歩きづらいな」
「そうか?」
「この程度の起伏で歩きづらいなんて二足歩行は不便ね」
ミルはアラーニャの細い糸を持って上空へ、エリーヌは森を歩きなれているのかひょいひょいと進んでゆきアラーニャも起伏を気にせずにスイスイと進んでゆく、だが巨大な根や滑る苔の生えた道なき道を歩くのは私も初めての事だ、どんどんと突き放されてゆく。
「仕方が無い、飛ぶか」
足に力を入れて跳躍し二人に追いつく、バッタのようだが今はこうやってついていくしかないだろう。
そんな進み方を続けて五時間程、アラーニャが何かに気付き私たちを止めた。
「こっから先は気を付けた方が良いらしいわ」
「何かあるのか?」
「サイクロプスが通る人を無差別に襲っているらしいわ」
「サイクロプス、巨人か。確かに奴らなら襲うだろうな。で、数は?」
「一匹だそうよ」
「というか誰に聞いたんだ?」
この子よ、そう言ってアラーニャは手のひらの上に乗せた蜘蛛を見せた、どうやら彼女は蜘蛛と会話ができるらしい、まあ当たり前と言えば当たり前だが。
「エリーヌ、サイクロプスの特徴は分かる?」
「凶暴性が高く知能は低くて一つ目で巨人だな、実際に見たことは無いからそれ以上は分からない」
「倒して進もう」
私はそう言って電磁投射装置を構えて前に進んでゆく、知能が低いと言っていたのは確かなようでその巨人はすぐに見つかった、そしてその目が私を捉えた。
「デカいな、十メートル程か」
私はサイクロプスの頭部に狙いを定めて引き金を引いた、頭部が吹き飛びサイクロプスはよろめく。
「さて、先に……!?」
その時信じられない事が起きた、よろめいたサイクロプスが踏ん張りその頭部が再び生えてきたのである。
「ほう、不死の魔法か。持っているエルフを知ってはいるが魔物は初めて見たな。奴は何をしても死なない、氷の魔法で凍らせて進むぞ」
エリーヌはそう言って空中に魔方陣を描く。
「氷の精よ、凍てつく風となって私のもとに現れ……」
「そんな事しなくても進めるわよ」
「!?」
アラーニャのそんな声が正面のサイクロプスから聞こえた、見るといつの間に移動したのかサイクロプスの背中からアラーニャが上がってきた。
「麻痺毒を注入しといたからしばらくは動けないわ。さ、行きましょう」
そう言ってアラーニャはサイクロプスから飛び降りる。
「よし行こう」
三人は再び樹海の中を歩き出した、そしてそれは目の前に現れた。
「崖だ」
「崖ですね」
目の前にそそり立つ崖が壁のように現れそこでミルは待っていた。
「もう!遅いよ!どれだけ待ったと思ってるの!」
地面にかなり大量の落書きが見えた、尖った指先でしゃがんで絵を描きながら何時間も待っていたんだろう。
「それで、陸の魔物の大将は見つけたのか?」
「ええ見つけたわ。ベヒモスさん!来たわよ!!」
『分かっている、この樹海で起きる事全てを儂は知っている』
ミルが声をかけるとそんな声が返ってきた、そしてそれに続いて突然地面が揺れ始める、立っていられないほどの揺れにしゃがむと目の前の崖に変化が起きた、断層のように動き出し巨大な目が現れたのだ、それを見て私は気付いた、これは崖では無い、このあたりの地形そのものがこの魔物だということに、なんて出鱈目な大きさだ。
『ふう、動くのはあまり好きではない……それで、お前たちか、勇者の遺物を探しているのは?』
「勇者の遺物?」
『そうだ、過去、魔王がこの世界に現れた時に勇者が使用した道具だ、我らはそれを勇者の遺物と呼んでいる。まあ最も、人間は神具と呼んでいるらしいがな』
「その勇者の遺物、ポータルと呼ばれるものを探しています」
『ポータル……ああ、奴らがポーチと呼んでいた物か……私の知る限りでは海の向こうの国にそんなものがあると聞いたことがある。まあ五千年ほど前の話だ、今もそこにあるのかは分からんがな』
「そうか、教えてくれてありがとう」
『いや、待て魔物の血を持つ者よ』
必要な情報は手に入った、私はそう言ってその場を離れようとする、その時ベヒモスに呼び止められた。
「魔物の血?」
『この匂いはジズの匂いだな、亜人の姿にはなっているが儂には分かる、お主は魔物の血が流れている、だがそれだけではない、そこに人間の血……いや、それによく似たものが流れているな、小さな虫のようなものだ、だが意志は無い、その血がお主を生かしている』
虫のような血、おそらくナノマシンの事だろう、そんな表現ができる物はそれぐらいしか流れていない、少ない栄養を確実に全身に届け傷を修復し病気菌を駆逐する、ということは魔物の血とそれが私の中で混ざっているということなのだろう。
「知っている」
『そうか、一つ忠告しておこう。このまま人間の側でいればいずれお前は排除される、いやお主だけではない、お主の仲間は全員駆逐されるだろう、人間は自分とは違う者を嫌う、いずれ奴らは自らをこの世界の頂点を名乗りお主たちを排除するだろう、我らの王、魔王は世界がそうなるのを恐れ我ら魔物を生み出した、だがその均衡は我らの減少という形で崩れ始めている。ただ、それを知っておいてほしい……それと、海で海の魔物の大将、リヴァイアサンに会ったら私はまだ生きていると伝えといてくれ。我が名はベヒモス、かつて魔王第一軍司令バハムートと呼ばれた老いぼれだ……』
そう言ってベヒモスの目は再び地面の中に戻っていった。




