矜持
「隠れていてください!」
オレはマドレー王女を茂みに隠すや、敵兵と対峙した。手前と後方に五人ずつ、前者は剣を持ち、後者は弓を構えている。多勢に無勢、正攻法で臨めば勝ち目のない戦いだった。しかし彼らに背を向け、逃げたところで振り切れたとも思えない。徒に王女を危険に晒すのであれば、ここらで決着を付けた方が良いと考えたのである。
(取り敢えず手前の五人を片付けなければ……)
オレは冷静に敵を見る。手前にいる五人の内、オレより階級の高い者は二人だけで、その他は新兵だった。ということは手練れと見えた二人を先に始末すれば、残りの三人は戦意を失い、戦わずに済むかもしれない。オレは囲まれないようにじっと間合いを詰める。幸いにもここは道幅の狭い林道であるため、一気に襲い掛かることは出来ず、同時に五人を相手にする事態は避けられそうだった。
「死ねぇ~!」
するといきなり古参兵が剣を振りかざした。オレは敵を弓兵の射線に入れながら応戦する。だがその剣を横に交わしたり、敵に背後を取らせたりすることは出来ない。ただ自分の前でのみ受け続けた。そして手数の多い打撃を凌ぎ切った後、そこに生まれた一瞬の隙を見逃さなかった。オレはすかさず脇腹を切りつける。
「ぐっ……」
まずは一人目を地面に沈めた。
そして古参の二人目、次は呆気なかった。彼は後方の援護射撃に斃れた。流れ矢に当たってしまったのだ。これで厄介な敵は片付いた。
残るは新兵、慣れない手つきで剣を構える姿に初々しさすら感じる。恐らく初めての戦いなのだろう、その表情に緊張はあれど、殺気走ったような雰囲気はなかった。そんな彼らを目の前に、オレは猿芝居を打ってみた。突然、手に持った剣を地に突き刺すと、
「死にたいヤツは向かって来い、死にたくなきゃ……さっさと失せな」
そう言って凄んでみせた。オレはこれほどまでに気障な言い回しを恥ずかし気もなく言えたことに驚いた。しかし意外と効果があったようで、彼らは恐れをなしたのか、一目散に退却してしまった。
最後に後方の五人、彼らに対して近付くわけにはいかなかったので、弓を打ち尽くすまで動く的として振る舞った。頃合いを図って林道に姿を現し、攻撃の構えに出る。彼らはそれを好機と見て、射かけてくる。その射撃を確認するや、再び道端に身を伏せる。これを何度か繰り返していると、弓矢は尽きた様子で彼らも城の方に戻って行った。
(どうにかなった……みたいだな……)
何はともあれ目の前から敵を一掃することに成功した。相変わらず左腕は痛むが、無事に王女を守り切った。一先ずホッと胸を撫で下ろすが、うかうかもしてはいられない。再度追手が来ないとも限らないからだ。早くこの地を離れなければ――そう思い、振り返って見ると、朝日の方角に騎兵のシルエットを捉えた。そして正体不明のそれは武器を片手にこちらへと向かって来る。
(騎兵……ウソだろう……)
歩兵ならまだしも騎兵となれば……その勝算は限りなく薄い。しかし逃げるという選択肢はまるでなかった。王女を守るため、どんな敵をも討ち果たす。たとえ勝ち目がなくともその姿勢は変わらない。これもまた守るべき矜持の一つだろう。そして再び剣を構えると、目前の敵に備えた。一撃で決める――オレはこの一突きに全身全霊を込めた。




