援軍
大きな黒筒から放たれた砲弾はピューと高い音を立て、瞬く間にシガーラの街へと降り注ぐ。オレは耳をつんざくような発射音の下、その放物線の行方を眺めながら、重責からの解放感と難題を克服した達成感に駆られていた。まだ作戦が成功したとは限らないが、与えられた役割を果たすことが出来た。人に任され、成し遂げる――生まれて初めての経験、この持つ意味は大きい。オレは我ながら誇らしく思った。そしてこれから行動に出る仲間の無事を祈った。
「デッドリーさん、そろそろ打ち終わりますよ!」
村人の一人が傍に寄って来て、大声で叫ぶ。少々大げさに聞こえるだろうが、そうでもしないと砲音にかき消されてしまう。
「おうよ、ご苦労さん!」
何十発放っただろうか、定かではない。ただシガーラに混乱をもたらすには十分な量に違いなかった。やがて轟音は止み、砲撃は終了した。辺りに漂う火薬の臭いがひたすら鼻を刺した。
「これからどうします?」
その問いを投げかけられるまで考えもしなかった。砲撃後、オレたちはどう振る舞えばいいのか――兄貴に渡された書簡には何も記載されてなかったはずだ。
「……どうする……?」
小さく呟くと、しばし考え込む。やるべきことはやった、今更死地に向かう必要はない――生まれたばかりの達成感が弱気を伴い、オレにそう諭す。夜を徹しての運搬作業、そして砲撃の完遂、一連の大仕事で仲間の疲労はピークに達しているように思えた。そして何より、手持ちの貧弱な武装では、正規の軍隊と渡り合うことは不可能だった。オレは冷静に考えた結果、その場に留まり、仲間の帰還を待つという選択肢を取りかけた。そして皆にその旨を伝えようとしたその時、背後から地鳴りのような蹄音に襲われる。
(これは……まさか……)
咄嗟に後ろを振り返ると、それは幾十騎の集団、アルバート騎士団のお出ましだ。彼らは砲撃後、城下に突撃する算段となっていた。そしてシガーラ目指して止まることなく進む騎の中で、一騎だけ立ち止まり、オレに向かって声を掛けた。
「さっきの砲撃、見事だった。ここからはオレたちに任せろ!」
声の主はアルバート本人だった。彼はそれだけを言い残すと、再び仲間と同じ方向に馬を走らせた。土煙を上げて進む騎兵の姿は壮観そのもので、こちらの戦意を多分に刺激した。オレもその例外ではなく、彼らに追随し、共に戦いたいという願望が芽生えたのもまた事実であった。
「デッドリーさん、オレたちも行きましょう」
「そうですよ! 加勢しましょう!」
「「「そうだ、そうだ!」」」
どうやら戦いを続けるという意見が賛成多数のようだ。一度火のついた戦意は導火線を辿り続ける。この期に及んでは爆発させるしかあるまい。オレは再度気持ちを引き締め直すと、彼らに向かって叫ぶ。
「これからシガーラ市街に向かう! 有志よ、ついて来い!」
そう言って陣頭に立ち、かの地へと駆けた。敵と戦う上での戦略はない。ただただアルバート騎士団に追随し、束の間の勝ち戦に身を投じるだけだ。
「……もう始まっているようですね……隊長」
「ああ、その様子だな」
「我々はどこから近付きましょう……?」
「そうだな……ここからだと一番近いのは東門……か」
「方角的にそのようですね」
「ならば決まりだ、我々はこれから東門に向かう! 行くぞ!」
(マドレー王女様、いま参ります故、どうかご無事で……)
次は命に代えてでも――悲壮なまでの覚悟を胸に秘め、我々は東門に向かった。
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