友情
「ロイ、分かるか!? しっかりしろっ!」
オレは短剣をそのままに瀕死のロイを抱き上げる。しかし彼はただ笑っているだけで何も答えない。そうしている間にも流血は止まらず、彼は弱っているようだった。
「早く治療しないと死んでしまうぞ……」
マドレー王女もその様子を心配そうに見つめる。オレはどうしたらいいのか分からずにひたすら彼の名を呼び続けた。
「ユウト……!」
王女はどうにかしろと言わんばかりにオレの肩を揺らしてみせる。何とかしてやりたいのは山々だ。しかしその術が見当たらない。オレは自らの無力さをまざまざと感じさせられた。
「ユウト……?」
オレはドキッとした。ロイにその名で呼ばれたのは初めてのことだった。
「どうした、ロイ! 死なないでくれ……」
切実な思いだった。まだ君を見送りたくはない。
「そうか、君は……ユウトって言うんだね……」
オレは何度も頷く。その度に滴り落ちる涙を拭うのも忘れて、彼の顔を見、そして彼の言葉に耳を傾けた。そして堪らなくなり、遂に内心を打ち明かす。
「ごめん……今まで君を騙してた」
「オレは王女を救い出すべくこの城に送り込まれた内通者、君たちの敵だったんだ」
「今回の騒ぎも全部、オレのせいなんだ……!」
「だから……オレがいなければ……こんなことには……」
ロイは目を瞑り、黙って聞いていた。彼はオレを責めることも、詰なじることもしない。そのことが一番苦しかった。そして次の言葉で友情に対する背信を告白しようと考えた。そうでもしなければ、胸の内に鬱積したこのヘドロのような罪悪感は、強烈な悪臭を伴ってオレを苦しめ続けるに決まっている。それにはどうしても耐えられない、オレは彼に救いを求めるかの如く、縋るように言葉を捻り出した。
「ロイ……実はな……」
言い切るのを待たずして彼は言葉を吐く。
「そうか……そうだったんだね……君は僕を騙していたのか……」
「そうだ、そうなんだよ……ごめん、ごめん……」
「最期に一つだけ、聞いてもいいかい……?」
オレはその言葉に大きく頷いた。何を聞かれるのか、皆目見当もつかない。だがオレは彼の問いに対して、誠心誠意答えることを静かに誓った。
「僕は……君の友達……だったかい……?」
「何を今更……そうさ、そうだとも! 君はオレの大事な友達さ……!」
一筋の涙が彼の頬を伝う。そして消え入るような声で言う。
「良かった……なら良いんだ……それなら……」
彼はそう言い残し、息絶えた。オレは亡骸を抱き、項垂れる。結局、彼に対する背信を告白するには至らなかった。オレは最期まで彼に嘘をつき続けたのだ。それは彼との思い出と共に、消えない十字架として心の中に残り続けるだろう。そしてその贖罪はこれからずっと、恐らく死ぬまで続けなければならない。すると突然、王女が前に進み出た。
「ユウト、先を急ぐぞ」
彼女の非情とも取れる行動に遂げるべき役割を思い出す。オレは亡き友人を石畳に横たえると、顔に布を被せ、永遠の別れを告げた。そして涙を拭い、一歩踏み出す。さらば友よ、東門はすぐそこに迫っていた。




