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アンチ転生論  作者: 金王丸
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決着


 「……ちっ、邪魔しやがって!」


 オレの懐で苦しむ茶髪の新兵、その顔を見た途端、傷一つ負っていないはずの胸が切り裂かれるように痛む。


 「……ロイ? ロイ! しっかりしろっ!」


 彼はオレを庇うような格好でグルーキーとの間に割って入り、その背中に裂傷を負った。止めどなく流れる出血は確実に彼の命を削っており、現に息も絶え絶えの様子だ。


 「大丈夫……かい……?」


 彼は声を震わせながら問いかける。オレは咄嗟に抱き寄せた。


 「……なんで……どうして……」


 聞きたいことは様々にあったが、言葉にならない。ただ内心で自問を繰り返すばかり、オレは束の間、グルーキーとの死闘も忘れて涙を流した。こんな事態になるのなら、昨晩引っ張り出してでも彼をこの城から追い出すべきだった、そうしなかった昨日の自分を恨む。そして死に往く友人を目の前に何をすることも出来ない今の自分を憎む。


 「ユウト! まだ戦いは終わってないぞ!」


 その言葉でふと我に返る。


 「次は外さんっ!」


 そう言って再び大剣を振り上げた。オレは反射的にそれを交わそうとする。だがタイミングとしては一歩踏み遅れた形に思えた。


 (マズい……遅れたか……?)


 この一撃で裂傷を負うことは確実、ただただ致命傷にならないことを祈るだけだ。カーン、石畳と大剣のかち合う音が轟く。しかしどうしたことか、結果としてその攻撃は狙いを外した。


 「この野郎、また邪魔しやがって!」


 翻って見てみると、そこにはグルーキーの足首にしがみつくロイの姿があった。攻撃を妨害された男は彼を何度も足蹴にする。仮にも同じ国旗・軍旗の元に集う同士のはずなのに……オレはその行為に心底怒りを感じた。そして友人に対するその仕打ちを許すわけにはいかなかった。オレは再度自分の剣を拾い上げると、今度はこちらから男に襲い掛かった。


 「お前……ふざけんなよ……」


 互いの剣が交差する。相変わらずのパワーだったが、力負けしないように必死で食らいつく。


 「何をそんなに怒ってるんだ?」


 「ロイは……お前らの仲間だろっ! それを……あんな風に……」


 「仲間? 笑わせるな、あいつはオレの邪魔をした」


 そう言うとまた剣を振るい、かち合わせる。そして何かに納得したようにこちらを見た。


 「なるほど、分かったぞ! あいつもお前と同じ内通者だろう!」

 「オレの勘は冴えている、きっとそうに違いない!」

 「お前を内通者だと疑ったのも、今日ここに来ると踏んだのも、全部当たっていた」

 「だからあいつはお前の仲間、間違いない……!」


 ロイはオレを裏切ってはいなかったのだ。その言葉にどこか気持ちが吹っ切れた。オレは一刻も早く、彼をほんの少しでも疑ってしまった、そのことを詫びなければならない。そのためにやるべきことは一つだった。


 「うらぁ!」


 内に秘めた闘志を前面に押し出して、彼との間を隔てる大男に剣を振るった。こんなところで負けるわけにはいかない。様々な思いを一振りごとに込める。


 「なにっ……!」


 急な豹変ぶりに戸惑うグルーキーをオレは勢いそのままにさっきの突き当たりまで押し返した。足元にロイを見ながらもなお、攻勢を緩めることはない。そして一進一退の攻防はしばらく続き、


 「黙って付き合ってりゃいい気になりやがって……」


 オレはパワー不足を手数で誤魔化してきたが、やがてそれも限界を迎えた。一瞬の隙を突かれると、男は渾身の一撃を繰り出してきた。


 (……重いっ!)


 今までになく重い打撃を真っ向から受けに掛かる。そして次の瞬間、耳元で異音が鳴ったと思えば、肩透かしのように虚空を切る。


 (……剣が……折れた……?)


 男がそれを見逃すはずはない。返す刀でオレに切り掛かる。今度こそ絶体絶命か、オレは覚悟を決め、目を切らさずにその一挙手一投足を見続けた。とその時、男の身体が宙を舞い、後ろに仰け反った。足元に広がった血糊を蹴り上げて床に沈む。そうか、男は血だまりに足を滑らせたのだ。千載一遇の好機、これを逃すわけにはいかない。すぐさまオレは手持ちの剣をその場に捨てる。そして懐に隠し持っていた「それ」を抜く。


 ~親方の処刑後~

 『ヴァフォード様、僭越ながらもう一つ……』

 『何が欲しいのだ? 申してみよ』

 『戦利品としてゴスホーク殿の短剣を頂きたく存じまず』

 『戦利品……短剣か……いいぞ、お前にくれてやる』

 『ははっ、有り難き幸せ!』


 オレはその「形見」で男の胸を突いた。たった一突き、それで勝負は決した。男はもがき苦しみ、やがて息絶えた。


 「……親方、やりましたよ」


 苦闘の末に掴み取った勝利、それなのに正の感情ははまるで湧かない。ふと顔に付着した血液を拭う。やけに赤々としたヘモグロビン色、その色に現実を思い知らされる。アドレナリンの過剰分泌、激しさを増す動悸の他に残るのは、心臓を捉えた人殺しの感覚と苦虫を噛み潰したような後味の悪さだった。



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