仇敵
迷路のように作られている城内、入り組んだ通路をジグザグと進む。初見殺しの行程ではあったが、事前に下見していたことが功を奏し、迷いなく東門へと向かえた。やがて目の前には突き当たりが見えてきた。これを曲がると出口はすぐそこだ。
「もう少しですよ……!」
オレは王女に声を掛ける。弾むような二人の足音が通路に忙せわしくこだまする。あと少し、もう少し――。自由につながるゴールは無条件に開けている……はずだった。
「……やっぱり来たか、この裏切者……!」
突き当たりを曲がったところで急に足を止める。東門へと続く最後の直線、そこにはオレたちの行く手を阻むように立っている巨漢の姿があった。手には大剣を握り締め、鋭い眼光を放っている。
「グルーキー……!」
オレは王女を庇う格好で一歩後ずさりした。グルーキーの登場――予想外の展開にそれ以上の言葉は出ない。オレは身構えながら、ゆっくりと腰元の剣に手を伸ばす。こうなったからには戦うしかないのか、額に脂汗が滲む。
「お前はやはり内通者だな……? 騒ぎに乗じて逃げようって魂胆か」
得意気に笑うグルーキーを見て、オレはとんでもなく動揺した。そうと構わず、男は畳み掛ける。
「そもそもこの騒ぎもお前が引き起こしたんだろう!」
(まさか……作戦は事前にバレていた……? もしそうであるならば、どこから……?)
作戦の漏洩を示唆するその発言、オレは様々に逡巡した。しかしその答えは見つからない。自分に心当たりも……ないと断言する手前、ハッと思い至る。
(もしや……ロイなのか……?)
カムフィー大佐に書簡を渡したあの夜、オレは明らかに不審な動きをした。しかしそれを目撃していたロイはその行動について問い詰めることも、他言することもなかった。彼は酒場に向かったオレをただ待っていた。そしてその後も変わらずに接してくれた。彼は新米のオレに優しくしてくれたとても良いヤツだ。そんな彼を邪推すること自体、友情に悖る行為だと重々承知の上で、オレは彼に疑念を抱いてしまった。
(……今まで泳がされていた……?)
彼は功名心に駆られてオレを売ったのだ。昨晩、金を受け取らずに留まったのもそういう理由からだ。合理的な悪魔のささやきが聞こえる。そうではないと首を振る良心を抑えて、納得しそうな自分に気付く。
「なぜ……それを知っている……?」
恐る恐るオレはグルーキーに問いかける。お願いだ、ロイから聞いたと言わないでくれ、わずかに残る良心の抵抗、そこから出た叫びのような言葉だった。
「それは……言えねえなぁ!」
「まあ聞いても無駄だろう、なぜなら――」
「お前を生きて帰すつもりはないからな!」
大声でそう言い放つと、威嚇するように大剣を振るってみせた。マズいことになった、オレは内心戦うことに臆病だった。なぜなら相手は大男・グルーキー――親方と対等に渡り合っていたと言われる男だ。勝てる自信も、その見込みも薄い。しかし背を向けて逃げるわけにはいかない、オレは王女をここから救い出し、母国に帰すという使命を負っているのだ。様々な思いを胸に覚悟を固めようとした次の瞬間、大男は唸りを上げて襲い掛かって来た。オレもそれに合わせて応戦する。カーン――剣同士がかち合うのをゴングに、戦いの火蓋は切って落とされた。




