囚われの身
《前回までのあらすじ》
自身を医者であると主張する「異形」に「死神」の存在を教えられるも、主人公・高橋勇翔は保安所に連れて行かれる羽目になった。
「やめろって……! なにすんだっ!」
「大人しくしろっ!」
保安官は二人がかりで、容赦なくオレを殴りつける。そして建物の外にある柱にオレを堅く縛り付けた。その縛り方に加減はなく、腕に縄が食い込んで涙の出るほどに痛かった。
「では聞く、お前は誰だ? どこから来た?」
「オレは……勇翔だ! 遠くから来た」
彼らは互いの顔を見合わせる。半ば呆れているようだ。
「遠くってどこだ?」
「……」
オレは口ごもる。他の世界から来た、とは言えない。言ってはいけない気がした。
「やっぱりこいつ、奴隷ですよ。どこからか逃げて来たんだ」
「そうかもな……明日奴隷商の所に持って行こう」
「違う! オレは奴隷じゃない!」
「うるさい!」
また殴られる。これで何度目だろう。
「そこで大人しくしていろ」
そう言って彼らは部屋に戻った。
「くそっ! なんでオレがこんな目に……」
悔しさ、無力さ、情けなさ……様々な感情が結晶となり頬を伝う。誰の助けも望めず、どうにもならない現状に絶望感すら覚えた。オレはこれからどうなってしまうのか、自問自答は果てしなく続き、今晩は眠れない夜になりそうだった。
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「おい奴隷、起きろ! 早く行くぞ、立て!」
最悪の寝起きだ。そして気付く。
(オレはまだ『異世界』にいる――)
「お前はこれから奴隷商の元に連れて行く」
「上手いこと脱走できたのに、残念だったな」
(奴隷商――オレは奴隷になったのか?)
あんなに探し求めていた奴隷市、そこにオレが並ぶことになるなんて思ってもみなかった。明日は我が身――その言葉の意味を全身で体感する。相変わらず身体は縛られたまま、うつむき加減でしばらく歩くと、監獄のような屋敷の前に着く。そして中から出てきた男と保安官の一人が手短に会話する。
「ではよろしくお願いします」
そう言ってオレを奴隷商の部下と思しき男に引き渡す。
「お前は妙な格好をしているな、そして肌の色も珍しい。これは高値で売れるぞ……」
気色の悪い笑い声を漏らしながら屋敷の奥に入って行く。それを見届けると、縄を持つ部下が口を開く。
「お前は今日から人間ではない、いいな?」
オレは地下に引かれて行く。ひたすら蒸し暑く、悪臭漂う地下牢、その中から十数個の瞳がこちらに向く。オレは足に冷たく重い鉄球をくくりつけられると、乱暴に縄を解かれ、檻の中にぶち込まれた。暗く閉ざされた地下牢――そう、今日からオレの居場所は、ここだ――。