酩酊
明日に控えた婚礼の儀を前に、城内外問わず飲めや歌えやのお祭り騒ぎで賑わっている。絶えることなく燃え続ける松明の明かりによってシガーラの街は文字通り不夜城の様相を呈していた。その異様な光景を傍目に、オレはロイと共に城外を一周し、警備の日課をこなしていた。
「今晩はどこもかしこもすごいことになってるね……」
果たしてこの城内に素面の者がどれだけいるのだろうかと首をかしげたくなるほど、兵士や役人、そして末端の使用人に至るまで、国王から振る舞われた酒を片手に浮かれ惚けていた。そこに緊張感の居場所はない。ただ胡坐をかいて存在するのは慶事の前夜であるという油断と明日の事変に対する無警戒、そしてオレたちの付け入る大きな隙だった。やがて東門に差し掛かる。作戦上、重要な意味を持つこの門の周囲、その様子にオレは作戦の進行を悟る。
「お~い、お前たち、何してんだ?」
すると突然、酔っ払った門番に絡まれた。いつもは起立した状態で門番の職に従事している彼らだが、今晩は違う。顔を赤らめるだけ赤らめて、そこらに転がる酒樽を抱きかかえるように座っていた。オレはその典型的な酔っ払いの醜態を見て、思わず吹き出しそうになる。
「何って……夜の警備だよ。それよりもそっちこそ大丈夫か? 随分酔ってるみたいだけど」
それを聞くと男は問題ないと言わんばかりに手を横に振った。そして手に持った杯をこちらに寄越して言う。
「お前らも一杯どうだ? 親切な旅人が置いていった酒なんだ、旨いぞ!」
「いやいや、仕事中だから……」
オレはやんわりと断る。
「つれないなぁ……仕事なんて……誰もしちゃいないぞ!」
しどろもどろになりながらも更に酒を掻き込む。
「まだまだあるんだ! 飲まなきゃ損だぞ~!」
このままでは埒が空かない、オレたちは酔っ払いを振り切るようにその場を立ち去ると、急ぎ警備に戻った。その後、南門、西門と通過するも状況は似たり寄ったりで、もはや門番はいないも同然だった。やがて任務を終え、北門に帰って来た。そしてオレはハッと気付く。出発した頃にはなかった酒樽が複数個、辺りに置かれていたのだ。
「お前らも飲むか~? 親切な旅人が……」
「ありがとう、オレはいいから皆で飲んでくれ」
続けて周囲に向け、大声で叫ぶ。
「酒だ~! 酒が届いたぞ~!」
するとその言葉を聞きつけて、どこからとなく人が集まって来た。皆一様に千鳥足で歩くその様はさながらゾンビ映画のようで面白い。その姿を見ながら、オレは内心でほくそ笑む。「親切な旅人」の振る舞った酒は兵士を酔い潰すだけに止まらず、果てには城の防御力をも揺るがすものになる。オレは酔いどれゾンビにそれを実感した。
「バルジュー、早く戻ろう」
酔っ払いの群れを見て不安な表情を浮かべるロイに促され、オレたちは宿舎へ帰った。その足取りはやけに軽い。そしてふと夜空を見上げると、西の空に宵の明星を見つけた。素面眼に映るその星は変わらずそこにある。今まで生きてきた中で最も長く感じるだろう夜はまだ始まったばかりだった。




