先遣隊
「……これでいいだろう」
馬車に積み込まれた大量の酒樽を見て、納得するように頷いた。この作業を以って、先遣隊の出発準備は整った。これからモライザ、パットンを陣頭にシガーラへと送り込む先遣隊は、本作戦上極めて重要な任を負っている。オレは兄貴分として一抹の不安を感じながらも、それを表に出さないようにして一行を見送る。
「兄貴、そろそろ出発します」
いつになく畏まったモライザの声に彼の緊張を悟る。しかしその一方で、二人から注がれる決意の視線に思わず胸が熱くなった。
(大丈夫……大丈夫だ……)
半ば祈りに似た気持ちで反復するその言葉は作戦の成功に向けられたものではない。口には出せないが、それは子分の無事を願って繰り返した言葉だった。オレたちはいつも三人だった。どこへ行くにも、何をするにも、三人一緒――幼い頃に両親を亡くし、肉親を持たないオレにとって、二人は家族同然の存在だった。そしてこんなしょうもない男を「兄貴」と呼んで慕ってくれた。だからオレは傍にいて二人を守る義務がある。今までそう思って生きてきた。
だが今回ばかりはそうもいかない。オレたちはこれから別々に行動する。仮初めに別れの言葉を交わすのだ。しかしその言葉に再び生きて会えるという保証はない。もしかすると……最悪の事態も十分に考えられる。
(生きて帰ってくれさえすれば……)
この期に及んで弱気な自分が顔を出す。作戦よりも身内の無事を願うオレは親方、兄貴、そして仲間を裏切ろうとしている。本音と建前、せめぎ合う内心の闘争状態に収拾をつけられないでいた。すると何かを察したのか、パットンが口を開く。
「兄貴、また生きて……会いましょう」
本当に突然のことだった。その言葉を聞くや否や、今まで必死で抑えていた感情が、いとも簡単に一筋の滴となって頬を伝った。
(……マズい!)
子分の前で涙を見せることなどあってはならない、すぐさま袖でそれを拭い去ると、後ろを振り向いた。そして咄嗟に言い放つ。
「お前ら、約束しろっ! 必ず生きて帰れ……! でないと……」
「ぶっ殺すからな!」
ハイッ、二人の威勢の良い返事を聞くと、一度も振り返ることなくその場から離れた。
「……またな」
面と向かって言えなかった別れの言葉、だがそのことに後悔はない。二人はもうすぐ敵地へと旅立つ、次はオレの番だ――いつまでもくよくよしてはいられない。たとえ二人の目に触れなくとも「兄貴」としての意地を見せる必要がある。オレは上からトンカチで叩くように気持ちを切り替えると、夕方に迫った出陣に備えるべく行動を開始した。




