回顧
暮れの街並みを眺めながら物思いに耽る。二日後に控えた婚礼の儀はシガーラの街をにわかに活気付かせた。そして城内でも着々と準備が進められている。その様子はマドレー王女の出立前を思い出させるようで、妙な懐かしさすら感じられた。
X-DAYまで二日を切った。デッドリーは上手く皆を説得することが出来ただろうか、そしてちゃんと作戦を計画通りに実行してくれるだろうか、皆のことを信用していないわけではないのだが、どうしても不安になってしまう。予定通りならば、二日後の早朝、シガーラ城とその城下町は戦火に見舞われる。オレたちはこの平和な街を戦場に変えてしまうのだ。茜色に染められた街の姿がやけに意味深長な趣を持つ。
侵略者ヴァフォードとそれに対抗する正義の有志たち、この構図は絶対の真理であり、この先ずっと変わらないものだと思っていた。しかしこの街に住む人々にとってはどうか、立ち返って考えてみる。戦火をもたらすオレたちは彼らの目から見ても絶対の正義であると言えるだろうか、いや恐らくそれは違う。彼らにとってすれば、オレたちはこの街の平和を脅かす侵略者でしかないのだ。二日後、敵味方問わずたくさんの人が傷付き、斃れる。その中には当然、無関係の一般市民も含まれることだろう。無用な犠牲――ふと頭を過ぎったその存在はオレに作戦の決行をためらわせる。
そもそも全ての原因はヴァフォードにある、ヤツが王女を誘拐して娶ろうなどと画策しなければ――どこからか聞こえてくる弁明は全くと言っていいほど心に響かない。これから引き起こされる不幸の責任を他人に転嫁するわけにはいかない。どんなに重くてもその十字架は一人で背負わなければならないものだ。オレは握り拳を解かないまま、グッと遠くを見つめる。
「バルジュー、どうしたんだい?」
すると突然、背後からロイの声がした。オレはハッと我に返ると、変に動揺した。
「いや……ちょっと考え事を……」
「大丈夫かい……?」
「本当に何でもないんだ! 心配してくれてありがとう」
彼の厚意は嬉しかったが、この問題を相談することは誰にも出来ない。しかし一方で判然としない表情を浮かべているロイに対し、オレはこれ以上、心配を掛けないように空元気を出す。
「そろそろ夕食だなぁ! 今日のメニューは何だろうか!」
いやに明るくそう言うと、宿舎の方へ駆け出した。余計なことを考えるのはもうやめよう、オレは自身に纏わりつく迷いを振り払うように走った。泣いても笑ってもあと二日、賽は投げられたのだ。とにかく自分のやるべきことをやるだけだ、念仏を唱えるが如く心の中で何度も繰り返した。




