伺候
コツ、コツ、コツ――階段を一段上る度にそこは近づいていた。全く以って実感はないが、この一歩は彼女との絶対距離を確実に縮めている。そう考えると、今までの労がほんのちょっとだけでも報われたような感慨に襲われる。そしていよいよ王女のいる部屋の前に至る。
(この先に王女がいる……)
そう思うだけで変なところに力が入る。オレはこれから、というかこの城にいる間は「バルジュー」として振る舞わなければならない。その外見から「ユウト」であることを隠せはしないが、何としてでも他人の空似で突き通す必要があると勝手に感じていた。オレは給仕係の「バルジュー」だ、そう言い聞かせながら、遂にその扉を叩いた。
「入っていいぞ」
懐かしさすら覚えるその冷たい響きに思わず息を飲んだ。この中に追い求めていた貴女がいる。オレは「ユウト」だと気付かれないように顔をしかめて見せながら、恐る恐る部屋の中に入る。すると目の前にはやはり彼女がいた。入り口に背を向け、その美しい金髪をベッドに散らかしたような格好で寝転がっている。その姿を見るや否や、オレは一言だけでもいいから会話をしたいという欲求に駆られた。しかしそれと同時に理性がオレを咎める。内心で起こる一進一退の葛藤、その末に何とか我慢を選択し得た。
(とにかく今は目立たないようにしなくては)
いつか彼女に言われた言葉を思い出すと、オレはそこに置かれた食器の片付けを始めた。慎重かつ迅速に事を進める。そして最後の一枚を重ねて全体を持ち上げようとした瞬間、彼女は唐突に振り返って口走る。
「読みたい本がある。後で――」
そこで言葉は途切れた。目を大きく見開き、今までに見たことのない表情でこちらを凝視する彼女に、オレはひどく狼狽した。
(マズい……勘付かれたか……)
その懸念は即座に現実のものとなる。
「前にどこかで会ったことはないか?」
「い、いや……」
歯切れの悪い返事を残しながら、扉に向かう。だがそれでは収まりがつかず、
「私は生まれも育ちも南部、生粋の南部人です」
「北の土地は踏んだこともありません」
「それ故、人違いかと……」
早口でつく必要のない嘘を並べる。
「そうか……悪かったな……」
オレは再び振り返ることなく、そのまま部屋を後にした。最期の言葉に尾を引く、ひどく寂しそうな余韻に後ろ髪を引かれる思いがする。今日から作戦決行の六日間、彼女といかに接するべきか、あれやこれやと考えながら、重い足取りで階段を下った。
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