難題
あれから中々解放されず、気付けば夕方になっていた。オレは急いで宿舎に戻る。やがてその扉の前に至り、ふと思う。オレは昨日からまる一日牢屋に囚われていた。見方を変えれば姿を消していたということになる。同僚に対しその事情をどう説明するべきか、全く考えていなかった。上手く言い包める術を探して、しばらくその場に立ち止まっていると、
「バルジュー? バルジューなのかい?」
唐突に声を掛けられる。
「ロイ……」
振り返るとそこにはロイがいた。心配そうな面持ちでこちらを見つめている。
「一体どこで何をしていたんだい? 分隊長に聞いても教えてくれなかったし……」
やはり気になってしまうようだ。しかし正直に答えてもいいことなのか、判断に迷う。
「聞かない方がいいのか……?」
少し考えた後、オレは誤魔化すことにした。
「色々あってな……詳しいことは言えないんだ……」
「そうか……ごめん……」
互いに沈黙し、微妙な空気が流れる。このままではまずい、話を逸らさないと、そう思い、話を変える。
「そう言えば警備の仕事は……?」
「ああ、気にしなくていいよ! 今朝は立て込んでいたけど、大丈夫だった」
「今晩は休んでいてくれ、オレが一人で行く」
「ええっ、気を遣わないでくれよ」
「いや、このままじゃ悪いから……」
そうやってしばらく押し問答が続いた後、
「そこまで言うのなら……」
こうしてオレは一人で警備をすることになった。
日が暮れ、夕食を終えると、オレは北門へと向かう。一日ぶりの警備はそれ以上のブランクを感じさせた。どうしてもついて来ようとするロイを言いなだめて、一人松明を持ち暗闇に入って行く。何もないだろうと心の中では思いながらも、その不気味な雰囲気に歩みが自然と早くなる。
(何も起こらないでくれよ……)
半ば祈るような気持ちで東門の方に向かっていると、突然背中に何か当たるのを感じた。
(気のせいだろう……)
一瞬立ち止まったが、そう思うに留めて再び歩き出すと、バシッ、次ははっきりと分かるレベルで何かを当てられた。
(誰か……いる……!)
何者かの存在を確信に近い形で認める。一人で回っている時に限って……間の悪さに辟易とした。しかしこうなった以上、その正体を突き止めなければならない。オレは意を決して振り返る。
「だっ、誰だっ!」
上擦ったような声で威嚇し、そちらに松明の明かりを向ける。すると見覚えのある赤髪が照らし出された。
「兄貴! オレですよ、オレ!」
「デッドリーか? どうしてここに……?」
ある種の驚きはあったが、ひとまず何事もなく、ホッと胸を撫で下ろした。
「それより親方は……親方はどうなりましたか!?」
その問いかけに虚を突かれる思いになる。親方はこの世にもういない、その事実を改めて突き付けられた。オレは軽く俯き加減になると、首を横に振った。
「そんな……」
途端に言葉を失う。
「……最期まで立派だったぞ」
在りし日の姿を思い浮かべ、意図せず涙腺が緩みそうになる。そして自問する。オレはあのように自分を貫き通すことが出来るだろうか、いや出来ない。しかしあの出来事によってオレの死生観は大きく変わった。死に際にこそ、その人間の度量がはっきりと表れる。親方は立派だった、オレは果たして――。
「デッドリー、落ち着いてくれ」
目の前で涙を拭う赤髪をなだめる。その一方で冷静な自分もいた。立場上、あまり長居は出来ない――そう考えると心苦しくはあったが、早く用件を聞き出さなければならない。
「どうしてここに?」
「親方が……次の作戦を……兄貴に……」
(……どういうことだ……?)
オレは軽く混乱した。次の作戦など知る由もなかったからだ。
「……ということは次の作戦を聞きに来たと?」
赤髪は深く頷く。
(そんなこと、一言も聞いていないぞ……)
ここに来て親方の真意を図りかねた。重要な作戦を丸投げするなんて無茶ぶりが過ぎる、オレは少し眉をしかめた。ただ無用な動揺を与えないように、知ったような体で話を合わせた。
「作戦か……確かに預かっている」
「しかし今は持ち合わせていないんだ」
「だから明日の晩にまた来てくれ。そこで渡すから」
その言葉を最後にオレたちは解散した。最終作戦の立案、タイムリミットは明日の晩、突然降ってかかった無理難題に立ち向かわなければならない。オレは警備の仕事を忘れて、周りには目もくれずに帰路を急いだ。




