代価
親方は死んだ――眼前には凄惨な光景が広がっており、地を這う鮮血は現実感を持ってその事実を事実たらしめる。泣いてはいけないはずだった。しかしオレは衆目を憚ることなく、涙を流していた。
「お主、なぜ泣いている?」
さすがの国王も尋常ではないその姿を訝しく思い、問い質す。オレはふと我に返ると、
(マズいことになった……)
このままでは親方との関係を疑われる――そうなっては親方の死を無駄にすることばかりか、オレの命すら危うい。そこで咄嗟の機転を利かせた。
「こうして賊を一人成敗することが叶い、ヴァフォード様のお役に立てたと思うと嬉しくて……」
そう言って大げさに目元を拭い、鼻をすすった。まるで大根役者の駆け出し時代のような演技に、それと悟られないか一抹の不安を感じたが、国王は思いの外、真に受けた様子だった。
「そうか、そうか……お前は新兵ながら立派な忠誠心を持っておる」
「褒美を取らせよう、何が良いか?」
オレはこの質問を待っていた。そしてその最適解を事前に用意していた。王女救出の足掛かりだと踏んだ「褒美」に関する要望、完璧に返してみせる。
「私は……ヴァフォード様の一番大事なものを守りたく存じます」
その言葉を聞いた途端、国王の表情はますます晴れやかなものとなった。ここまではオレの思惑通りに事が運んでいる。さてどう切り返してくるか、運命の一瞬、
「お主、なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか……」
「わしの一番大事なもの……それは――」
ここで突然、カムフィー大佐が口を挟む。
「北王国の『婚約者』ですか……?」
「婚約者」――マドレー王女のことだ。
胸の内は分かっていた。オレに厄介事を押し付けようって魂胆だろうが、それで一向に構わない。オレはそこに利害の一致を見たわけだから。
「むむむっ……ならばバルジューよ、お主にマドレー王女の世話係を任せよう」
「ただし、婚礼の儀はカムフィー、貴君が取り仕切るのだ」
「その後にテンエイ攻略戦への参加を認める」
「ははっ、有り難き幸せ!」
オレも大佐に続いて頭を深々と下げた。しかしオレはもう一つだけ欲しい物があった。この場で更なる褒美を要求することに抵抗はあったが、気持ちが収まらずに口走る。
「ヴァフォード様、僭越ながらもう一つ……」
「何が欲しいのだ? 申してみよ」
こうしてオレは王女の世話係を任されることになった。朝晩はいつものように城外の警備を担当し、日中は王女の世話人として様々な業務をこなす。ここに至る代償は計り知れないが、無理矢理にでも前を向くことを決めた。オレは必ずや王女を救い出してみせる、そう亡骸に誓って、親方と永遠に別れた――。
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