最期の審判
「オレは……何と言われても……賊には下らん……!」
一途な眼差しを玉座に向ける親方、オレは意思の強さに圧倒される一方、内心では恥を偲んででも生きて欲しいと願った。
(親方……もうやめて下さい……)
言葉にならない思いが脳裏を駆け巡る。
「ゴスホーク、自分の立場が分かっているのか?」
「お前に選択肢は一つしかないんだよ!」
グルーキーは親方の傍に立ち、今にも振り下ろしそうな勢いで大剣を構えている。しかし口では威勢の良いことを言っているが、それを持つ手は小刻みに震えていた。手足を縛られ、抵抗出来ないはずなのに、そこから放たれる威圧感は大男さえもたじろがせてしまう。
「ゴスホークよ、もう一度言う。生きたければ臣従せよ、さもなくば……」
ヴァフォードはさっきの調子から一転、低い声で命じるように言い放った。
「何度も同じことを言わせるな……オレは……お前の臣下にはならない……」
「生きて……お前らに奪われたものを全て取り戻す……!」
オレはその意固地さに辟易としていた。そんな親方を直視出来ずに下ばかり見ていた。気を付けないと涙が滴りそうになる。
(いい加減にしてくれ……)
「ヴァフォード様、処刑の許可を!」
グルーキーが叫ぶ。すると親方はグッとそちらを睨み付けて制すると、
「最期に一つだけ言わせてもらおう……オレの希望だ、遺言として聞いてくれ……」
(やめてくれ……)
「近い将来、オレの遺志を継いだ者たちによって、『それ』は成されるだろう……」
(もういいって……)
「賊を討ち果たし、南北に平和と安寧の日々が訪れるその時……」
(本当に……!)
「人々の心の片隅で生き続けられれば……それが本望だ……!」
(親方……!)
(こっちを……こっちを向いてくれ……!)
オレはスッと親方の方を向く。そして涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになった自分の顔を臆面もなく晒した。しかし親方は一切こちらを見ない。本音を言えば今すぐにでも駆け寄って説得したい。でもそうしなかったのは、大願を成し遂げるためと諭す理性が辛うじてオレをその場に留めたからだ。
「こいつに臣従の意思はありません! さあ!」
グルーキーは処刑の命令を下すよう、ヴァフォードを促した。
「う、うむ……ならば仕方あるまいな……」
そう言って手を挙げかけたその時、
「グルーキー、一振りで決めろよ?」
「これからお前はこのゴスホークを殺すのだ」
親方は笑った。ふと見せたその笑顔は平素と変わらないものだった。死地に立ってなお、笑う余裕を見せられる精神力は計り知れない。
「やかましいわい!」
処刑人は怒りに任せて大剣を振り上げる。
(やめろぉぉぉぉぉー!!!)
親方は最期の最後にこちらへ視線を寄越した。
「……あばよ」
大剣が一振り、その首元に落ちた。頭一つ、身体一つ、辺りは血の海、オレはその様を呆然と見ていた。だがその瞬間、自分の中でも何かが切れ落ちたのを感じた。作戦は失敗出来ないものになった、無情な理性の囁きが聞こえたような気がした。




