敗走
足を引き摺るようにして歩く者、頭や腕を抱えるようにして歩く者、肩を貸して歩く者……帰路を辿る様子は人それぞれだが、皆何かしらの怪我を負っていた。重苦しい敗北感を背にただ黙って進む葬列のような一行、その頭数は行きの半分にも満たない。そしてその中に親方の姿はなかった。
『親方!』
オレは咄嗟に叫んだ。その声はたしかに届いていたはずだ。しかし一度もこちらを振り返ることなく、単騎で敵陣に突っ込んで行った。敵の中に消えていくその背中、それが最後に見た親方の姿だった。
(あの時、身を挺してでも止めていれば……)
オレは後悔しなければいけないはずだった。でも素直にそうは思えない複雑な心境にあった。実際、親方の突撃によって、わずかの間ではあるが追撃の手が緩んだのも事実であった。そのおかげでオレたちはこうして逃げ遂せることが出来た。もしあの判断がなければ全滅という最悪の事態も起こり得た。そう考えると、ただただやるせなさが募るばかりだ。
その後しばらく緩やかな丘陵地帯を上っていると、地面を叩くような蹄音を立てて、向こうから一騎駆け下りて来た。
「おい、お前たち! 大丈夫か!」
それは村の者ではなかった。しかしどこかで見たことのある軍装だ。
「アルバートさん! 見つけました!」
大声を張り上げて、遠くの仲間に伝える。
(アルバート……!)
その言葉を聞いてハッと思い出す。バーンスタインへと向かっている途中に国境付近で出会った騎士団の団長・アルバート、その名が呼ばれるいうことは近くに騎士団がいる。するとその声を辿って、数騎がこちらへ向かって来た。目の前に現れた彼は馬上から一行を見渡すと、苦々しい表情を浮かべてオレに言う。
「その赤髪……デッドリーか」
「状況を詳しく知りたい。ゴスホークさんはどこだ?」
オレは何も言わず首を横に振る。
「そうか……遅かったか……」
悔しそうに舌を噛むアルバートにオレは言う。
「でも手紙を読んで来てくれたんだろう? ありがとう」
「いいや、礼には及ばない。もうちょっとだけ早く来ていたら……」
少し間を置いてから、
「騎士団には次の作戦から参加してもらうつもりだったみたいだし」
「たしかに……受け取った書簡にもそのようなことが書かれていた」
アルバートは続け様に言う。
「次の作戦はあるのか?」
「あるにはあるらしいけど……親方はユウトに託したって……」
「それなら早いところ聞き出さないとな……」
そこでふと親方の言葉を思い出す。
『万が一の話だ。オレがこの戦いで斃れるようなことがあれば……』
『シガーラ城のユウトに接触しろ。次の作戦はヤツに託してある』
再びシガーラへと向かい、兄貴に接触する――オレは親方の遺言を遂行しようと決心した。
「アルバート、一行を頼む。オレは行かなきゃならねぇ……」
「お前、その身体では無茶だ! 日を改めてから……」
「大丈夫さ、それより時間が惜しい。皆を頼んだぞ」
アルバートは少し考えるような素振りを見せた後、
「……取り敢えず応急手当をしてからだ」
親方の安否と作戦の詳細――その二つを知るために再びシガーラへと向かう。兄貴と接触出来るかは神のみぞ知る所だが、やらなければこれから先の道はない。オレは応急処置を受けるとすぐに、新しい馬、そしてアルバート配下の団員二人を借りてかの地に駆け出した。




