謁見
すれ違う人のいぶかしげな視線を全身に浴びながら、深紅の絨毯の上を行く。オレはシガーラ城の本殿にいた。妙にかしこまって前を歩く分隊長と離れないようにして周りを窺う。目を見張るほど美しい絵画やいかにも高そうな花瓶など、その豪華絢爛な内装に現実感を奪われていく。そしてしばらく進むと、荘厳な扉の前にカムフィーの姿を見つけた。
「昨日はどうも、貴君の情報提供に感謝する」
そう言うと大佐は頭を下げた。オレもそれに合わせて軽く会釈する。
「これからヴァフォード様に謁見する」
「あの書簡について話してもらいたい」
「ヴァフォード」――オレはその名前を聞いて、ようやく事の重大さに気付いた。これから面会する相手は南ファランク王国の国王・ヴァフォード、親方の憎き仇で、マドレー王女誘拐の黒幕だ。知略、謀計を駆使し、王国の南半分を手中に収めた男、舌先三寸で言い包めることはまず不可能だろう。しかしここで粗を出すと全てが水泡に帰してしまう。
(……よしっ!)
腹を括るも、足腰はガタガタと震えっ放しだ。今からオレは最強の敵と対峙する。ここが本当の正念場だ。すると眼前にそびえる重厚な扉は軋むようにゆっくりと開いていく。やがてその一直線上に玉座を捉えた。一歩、また一歩と徐々に近づいていく。両脇には家臣団を侍らせ、大変な緊張感を醸し出している。そしてある程度の所で立ち止まり、跪くように命じられた。
「お主がバルジューとやらか?」
「ははっ~!」
おもむろに言葉を発する国王、血色は悪いが、切れ者の顔つきをしており、何とも言えない様子でこちらを見下ろす。決して猜疑の視線ではない。だがオレは内心を見透かされているのではないかと不安になる。
「お主の働き、カムフィーから聞いておる」
「敵から書簡を奪い取ったそうな」
若干事実に齟齬はあったものの、改めて否定することはしなかった。オレはゆっくり頷いて肯定する。それを見た国王は満足げに笑った。そして一連の流れを隣で静観していたカムフィーが口を開く。
「国王様、恐れながら申し上げます。今回の一件、私にお任せ下さいませ」
深々と頭を下げる。ここまで親方の思惑通りに進んでいた。しかし一人の男が横槍を入れる。
「待ってください、ここは私にお任せ下さい」
その大男は一歩前に出て、国王に願いを請う。大佐がエリートの理論派とするならば、こちらは叩き上げの武闘派といった様子だ。
「グルーキー、出すぎた真似をするな! ここは私がっ!」
「ゴスホークとの戦績は五分と五分、天下の強者はどっちか、ここで決着をつけたいのです!」
必死に懇願する彼らを目の当たりにし、国王は一瞬困ったような表情を見せた。だが決断は思いの外、早かった。
「今回は書簡を持って来たカムフィーに任せる。しっかり頼んだぞ」
「ははっ! ご期待に添えるよう、精一杯尽力いたします!」
大勢は決した……かに思えたが、大男はさらに食い下がる。
「国王様、お待ちください!」
「グルーキー! いい加減にしないか!」
大佐は大男を叱責する。しかしその男は引き下がらない。
「その書簡、敵の罠かもしれません」
「何を言うか! この国璽を見よ! これは本物だ!」
人は見た目ではないと改めて実感させられる。この男、意外と鋭い。
「そもそも入りたての新兵など信用できるか! あいつはきっと敵の内通者だ!」
その指摘を受けた瞬間、図星を突かれてドキッとした。オレは内心の動揺を悟られないよう、じっと下を向いていた。しかし大佐は上手く切り返す。
「その根拠は何だ?」
「それは……オレの勘だ……!」
それを聞くや否や、大佐は大笑いした。釣られて周りの家臣も笑う。少し赤面したその男は大声を張り上げて言う。
「しかし……狂言ではないとも言い切れません……だからこいつを明日の敵襲まで幽閉しましょう!」
「もし敵が来なければ……大佐は偽情報を掴まされた愚か者ということになってしまいます」
「その時は……こいつに自分の命を以って償わせましょう!」
オレは飛んだとばっちりにひどく慌てた。しかも大佐はそれを一蹴せず、
「なるほどな……良かろう、好きにするがいい」
「これから迎撃準備に入りますので失礼します」
そう言って一礼すると、足早にその場を去った。
(おい、ちょっと待て!)
「よしっ、そいつを牢屋にぶち込んでおけ!」
すると突然兵士に両脇を抱えられ、城の上層階まで連行された。オレは勝手に命を賭けられた挙句、再び囚われの身になってしまったのだ。そしてあっと言う間に朝、昼、晩と移り変わる。その時は刻一刻と近づいていた。オレは何も出来ないもどかしさを抱えながら、東方に祈りを込めた。
(皆、頼んだぞ……!)
一番鶏の鳴く頃まで眠れない夜は続く――。




