呼び出し
「おはよう」
清々しい朝を迎える。カムフィーに書簡を渡せたことで肩の荷が下りたのだろうか、昨日は久しぶりにぐっすりと眠れた。朝食を済ませると、今朝の見回りに向かう。気力、体力の両面で充足した状態にあり、足取りもすこぶる軽い。
そして隣を歩くロイを見て、昨晩のことを思い出した。結局あの後、麓で待っていたロイと落ち合って城に戻ったのだが、街での出来事について彼は何も聞かなかった。それは実際にオレが酔っている様子であったので、彼の見立て通りということかもしれないが、本当のところは分からない。
「今日も平和でいいね」
突然、彼は呟く。そして神妙な面持ちで続けた。
「こんなに天気が良いと、戦争なんて止めちゃえばって思うの」
その言葉は鋭利な刃先を向け、オレの胸に目がけて飛んで来た。
「この前、武功を挙げたいとか言っただろう?」
「それってつまりは敵をたくさん殺すってことだ」
「敵と一口に言ってしまえば、自分たちとは違う異物で排除されるべき対象だと思われがちだけど……」
「彼らも同じ人間なんだ。僕らと同じ人間、大切にしている仲間がいて、帰りを待つ家族がいる」
「出会う場所が違えば無二の親友にだってなれるかもしれない」
「なのに戦場では『敵』である彼らに弓を引き、剣を振わなくちゃいけない」
「そこで生き残るために仕方ないとは言え……」
「それってとても虚しいことだと思わないか?」
オレはただただ頷くことしか出来ない。その主張に反論の余地はなかった。なぜならオレたちの関係そのものが敵味方同士でも分かり合えることを証明してしまっているからだ。
「軍人として人を殺さずに出世する、なんか良い方法はないかなぁ~」
最後に彼は笑った。でもそれは心からの笑みではない。そんな彼を見て、初めて罪悪感を覚えた。明日この場所は戦場と化す。多かれ少なかれ敵味方問わずに命が失われる。オレはその片棒を担いだ。そのことを見透かしたような彼の言葉は相も変わらず心に突き刺さったままだ。
「おい! バルジュー!」
巡回を終え、北門に辿り着いたその時、分隊長のジェーゲルに呼び止められた。彼はとても急いでいたらしく、呼吸が乱れている。
「カムフィー大佐がお呼びだ、すぐに来てくれ」
突然の呼び出しに胸がざわつく。良い知らせなのか、はたまたそうではないのか、分隊長の表情からそれを読み取ることは出来なかった。




