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アンチ転生論  作者: 金王丸
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異形

《前回までのあらすじ》

不気味な集団「異形」を敵と定め、それらを倒すことで、この世界での成功を思い描く主人公・高橋勇翔はコショウを売った縁から通りすがりのアルバートに王都・テンエイまで送ってもらうこととなった。


 「着いたぞ」


 そこはまるで中世ヨーロッパ、城郭を取り囲むように街が広がっていた。石畳の街路を両脇から家屋、商店、酒場など様々な建物が立ち並ぶ。当然、街路灯もない時代だが、建物の外に漏れる明かりと所々に設置してある松明(たいまつ)のおかげで、不安を覚えるほどの暗さはない。そして皆、時間を忘れたように飲めや歌えやの大騒ぎで、街の楽しい雰囲気が伝わってくる。時代、場所は違えど、人間は変わらないのだなとしみじみ思った。


 「アルバート、ありがとう。急ぐんだろ? 早く行ってくれ」

 「ああ、お前にはなんてお礼をしたらいいか……」

 「気にするなって。弁当のコショウくらい安い……」


 そう言い終わる前にアルバートは布製の小袋をオレに渡した。


 「本当にありがとう。そこには手持ちの全財産が入ってる。散財しなければ一ヶ月は過ごせるはずだ。受け取ってくれ」


 (おっ、重っ!!!)


 腕の中でずっしりと沈み込む手応えがその言葉に説得力を持たせた。一枚一枚の価値は分からないが、とにかく大金なのは間違いなさそうだ。


 「じゃあ、オレは行くぞ!」


 アルバートは馬に跨って言う。そしてゆっくりと歩き出す。


 「じゃあな! 息子さんによろしく伝えといてくれ!」


 それを聞くと、糸を引かれるように馬の歩みを止める。


 「ユウト! 最後に一つだけ!」


 「くれぐれも『死神』と踊るなよ、達者でな」


そう言い残し、足早に去って行った。


 (死神と踊る……? なんじゃそりゃ?)


 随分と気障な言い回しだな、この時はそうとだけしか思わなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「さあて、どうしようか」


 また一人になってしまった。ガラガラとキャリーバッグを引くオレを街の人は不審そうに眺めていく。


 (とりあえず『異世界』と言えば……半獣の奴隷女でしょう!)


 と言うのは、街のどこかに奴隷市、そこには半獣の美少女が叩き売りされているに違いない。そこでオレは彼女を買い取り、仲間にし、優しく接してあげる。生来、半獣として忌避され続けてきた彼女はオレの優しさに惚れ、そして終いには……という算段だ。


 早速オレは奴隷市を探す。


 (一体、どこにあるんだ……?)


 歩いても歩いても見つからない。


 (きっと夜だからやっていないのかも……)


 そう思うと、妙に合点がいった。奴隷市探しは徒労に終わった。


 (そろそろ宿でも探すかな……)


 ふと我に返ると、溜まっていた疲労が湯水のように噴き出した。ここは「異世界」だが、ゲームの世界ではない。動きっぱなしではとても身体が持たない。とにかく足腰が限界だ。宿を、宿を探さなければ……フラフラになりながら目についた建物に入る。


 「いらっしゃい」


 入ってみると、火薬の臭いが鼻をつく。そして目の前には所狭しと鎧、盾、剣など、ありとあらゆる武器が揃えられていた。


 (ここは……武器屋?)


 様々な武器をまじまじと見る。そして思い出す。


 (そうだ、そうだった!)


 当初の目的、それはあの「異形の民」を討ち果たすこと、そしてこの街に寄ったのは武器を揃えるためだった。欲にほだされて忘れていた初志が蘇る。


 「マスター、武器をくれ」

 「……カネはあるのか?」


 オレはニヤリと笑って、老人の前に小袋を置く。ドンっと鈍い音を立てた。


老人はチラッと中を確認するなり、


 「好きなもの持っていきな」


とポツリ言った。


そしてオレは間髪を入れずに、


 「じゃあ、エクスカリバーはあるか、ないならデュランダルでもいい――」

 「とにかく伝説の、最強の武器を売ってくれ!オレはこの世界を救うんだ!」


 「ホッホッホッホ!」


老人は腹を抱えて笑い出す。


 「そんなもんここにありゃしないよ、ホホッ」


そして傍らの武器を手に取り、


 「これ、持ってみな」


 (おっ、重っ!!!)


渡されたのは何の変哲もない剣、でもとにかく重い、重すぎる。


 「一振りやってみな」

 「えぃ!」


 その剣を虚空に振り下ろす。するとオレはその反動でひどくよろめいた。


 「ダメじゃな、お前さんに剣は使えない。買うのはよしときな」


 剣がこんなに重いだなんて思ってもみなかった。


 「剣がダメなら、銃!銃はあるか?」

 「ああ、あるぞ。ちょっと待っとれ」


 そう言うと、老人は店の奥に入って行った。


 (銃か……)


 冷静に考えたら、魔法使いに剣で挑むのは無謀すぎる。なぜなら攻撃範囲内に入るまでにこっちがやられてしまうからだ。しかし銃なら遠くから狙撃できる。加えてオレはこう見えても銃の扱いは上手い。シューティングゲームは得意だったからだ。ゲーセンで鍛えたオレの腕前を発揮する時が来た。老人を待つ手持無沙汰、不意に窓の外を見やる。そして気付く。


――「異形」――


 (ヤツらが街に来ているではないか!)


 しかも街路を何食わぬ顔で闊歩している。そして驚くべきは、道行く人が皆、ヤツらに対して頭を下げていくことだ。


 (これは……もう手遅れなのか……)


 この街、いやこの国全体は既にヤツらの手の内にある、そうに違いない。そう思うと居ても立ってもいられない。功名心と正義心から気持ちが高ぶる。いま通りかかった数体だけでもオレが始末してやる。そして王国解放のため、反撃の狼煙(のろし)を上げよう。


 「おい、オヤジ! 早くしてくれ!」

 「どうした急に大声上げて。ほらよ、マスケット銃じゃ」


 差し出されたモノを奪うように受け取ると、


 「ありがとな、オヤジ! また戻って来る!」

 「おい、待て! 説明を……」


 オレは飛び出すように店を出た。手には銃一丁、荷物も持たず、「異形」を追った。するとヤツらは路地裏の方へと入って行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 (あそこがアジトに違いない……)


 オレも後に続く。すると急に得体の知れない腐敗臭が鼻をつんざく。


 (うぅ……)


 余りに臭いに涙が零れそうになる。そして何やらうめき声が聞こえてきた。しかも一人ではない、数人だ。


 (まさか……ヤツらはあの建物で人間に何かをやっている……?)


 建物の外から中を窺う。


 「うっ…ううっ……!」


 苦悶の声を上げる人間を杖でつつき回しているのが見えた。


 (許せん……!)


 敵は四人、幸いにもその全員がこちらに背を向けている。今がチャンスだ。


 「おっ、おい! 『異形』! かっ、覚悟~!」


 そう叫ぶや否や、オレは引き金に震える指を引き金にかけ、そして引いた――。



*エクスカリバー、デュランダル…伝説の宝刀の一種。街の武器屋ではとても取り扱えない代物。

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