好機
シガーラ城に潜入して四日目になる。オレはじりじりと炙られるような焦りを感じていた。なぜならば作戦決行日まで後二日に迫りながら、何も出来ていないのだ。オレは朝と晩に城外警備を、昼間に雑用をこなしている。業務内容はさほど大したことはなく、隙を見て件の酒場に行けなくもなかった。しかし入隊して間もない新人であるため、勝手な行動が憚られる状況に加え、上手いこと城外に抜け出せたとしても戻って来られる保証はない。最悪の場合、脱走兵と見なされ、軍法会議に掛けられた挙句、処刑される可能性だってある。城内でカムフィーを見つけるか、一か八か件の酒場に繰り出すか、オレは難しい選択を強いられていた。
一方で城内外の実情は何となく掴めてきた。まずシガーラ城は小高い丘の上に建っており、その周囲は林で覆われている。次に城門は全部で八つ、特に南北には大門を構え、大抵の出入りはそこからだ。そして兵士の士気や規律意識、これらは決して高いとは言えない。地域性なのか、戦勝ムードのせいなのか定かではないが、勤務をサボったり、人目を憚ることなく酒を飲む者も散見されるなど、実例を挙げれば枚挙にいとまがない。
「正門周りの掃除はなかなか大変だね……」
箒で地面を掃きながらロイは呟く。いま現在、オレたちは正門の清掃に駆り出されていた。こうしていると、テンエイでの馬屋番を思い出し、郷愁にも駆られる。
「夕方までに終わるかな……?」
「さあ、どうだろうね。でも終わらせないと分隊長に叱られちゃうな」
ロイは笑ってみせる。だが時間は刻一刻と過ぎていく。このままだと今日も行動することなく終わってしまう。それはまずい、何か打開策を見出す必要があった。しかし焦って考えれば考えるほど、決断から遠ざかっていくように感じる。
(どうすればいい……)
いよいよ行き詰まってきたその時、やおら正門が開く。そして入城する馬に跨った軍人たち、オレはその中にあの男を見つけた。書簡を渡すべき張本人・カムフィーだ。突然の出来事に気持ちが落ち着かない。今から渡しに行くべきか、でもどういう口実で渡すべきか、様々に考えてしまい、あと一歩踏み出せないでいた。そうこうしている内にカムフィーは通り過ぎていく。
(こうなったら……行くしかない!)
思い切って憂いを投げ捨て、そちらの方に歩き出そうとした瞬間、向こうから怒鳴り声が聞こえた。
「何度言ったら分かるんだ!」
「お前が失敗すれば上司である私の評判に関わるんだぞ!」
「また私の顔に泥を塗るつもりか!」
何か不手際があったのだろうか、カムフィーは急に怒り出した。一方、叱責を受けている部下はしどろもどろになっている。
「……くそっ!」
吐き捨てるようにそう言ってその場を去ってしまった。だがこの一部始終を見てオレは確信する。
(あいつは今晩、件の酒場に現れる……!)
そのための口実を探しながら、相変わらず地面を掃いている。いつもと同じ昼下がり、 燦々と降り注ぐ日の光、その中に一筋の光明を見出した。後はオレの立ち振る舞い次第、一世一代の勝負がすぐそこにある。




