巡回
「起床!」
上官の号令で叩き起こされる。見慣れない天井に一瞬戸惑うも、隣のロイを見て気付く。オレはシガーラ城に潜入していたのだ。
「点呼!」
端から数字を連呼していく。オレは六番目だ。出来るだけ声を張り上げる。そしてそれが済むと、上官の訓示が始まる。
「昨晩もまた脱走兵が出たそうだ」
「軍に入ったからには脱走は重罪である」
「肝に銘じて職務に邁進せよ」
(脱走……?)
心当たりがある。昨晩の彼、この軍服の持ち主は、恐らく脱走扱いされているに違いない。彼の境遇を思うと、胸が締め付けられるように感じる。すると突然、上官に手招きされる。オレは困惑しながらおずおずと皆の前に出る。
「そして彼は昨日我が隊に加入したバルジューだ」
「改めましてよろしくお願いします」
軽く一礼する。そして皆と握手を交わす。
「オレはこの分隊を率いているジェーゲルだ、よろしく」
分隊長とも握手する。晴れてこの分隊の仲間入りだ。
「我々の任務は城内の警備、バルジューはロイと組んでもらう」
ロイはこの隊に溶け込むきっかけを作ってくれた良いヤツだ。彼とコンビを組めて素直に嬉しい。
「早朝警備はロイとバルジューだな、しっかり頼むぞ」
そうして解散の運びとなった。
「早速見回りに行こうか!」
朝食を済ませた後、ロイはそう言って城門の方へと向かう。
「ここは北門、シガーラ城の正門だ」
北門の前に立ち、その大きさに驚く。昨日くぐって来たそれとはスケールが違った。振り返ると正面には本殿がある。やはりここはロイの言う通り、この城の正門だ。そして門外に出ると、目の前にはシガーラの街並みが見える。東から差し込む朝日で辺り一面が輝いていた。
「ここから時計回りに巡回するのさ」
そう言って歩き出す。城外に異常がないか、周りを見ながら進む。右手には城壁、左手には城を取り囲むように林が広がっていた。
「バルジュー、お前はどうして軍隊に入ったの?」
にこやかに話しかけられるも、慣れないその名前で呼ばれたため、反応が遅れた。オレは内心焦ったが、それを悟られないように考えている素振りをする。
「そうですね……」
「あっ、敬語じゃなくていいよ! オレも先月入隊したばっかりだから」
ロイは相変わらず笑みを絶やさない。
「そうかい? ありがとう……」
「じゃ、じゃあさ、ロイはなんで軍隊に?」
オレは答えに困り果て、良くないとは思いつつも質問を質問で返した。
「うちは貧しくってさ、父ちゃんは早くに死んでしまって……それなのに兄弟が七人もいるんだ」
「母ちゃんは女手一つでオレたちを育ててくれた、それには感謝し切れないくらい感謝してる。でも家計はいつでも火の車、満足に飯も食えないほどに」
「僕はいいんだよ、僕は……でも下の兄弟たちがな、『ひもじい、ひもじい』って泣くんだよ」
「それが可哀想でさ、せめて飯くらいは腹一杯食べさせてやりたいって思ったの」
「そこで新兵募集の張り紙を見て心に決めたんだ」
「この戦争で武功を挙げて故郷に錦を飾る。そして家族に腹一杯飯を食わせたい……ってね」
「だから頑張らなくちゃ……」
一語一語を噛みしめながら語る彼の姿に、思わず涙腺が緩みそうになった。敵味方問わず様々な思いや野心を抱えて戦っているのだ。そう言うオレも王女を救うため、ここにいる。
「ちょっと湿っぽくしてしまったね、悪かった」
彼はそう言って笑ってみせると、正面を向き直り巡回を続けた。オレは先を行くその背中を見つめながら、痰を絡ませたようなやるせなさに襲われた。




