表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチ転生論  作者: 金王丸
46/85

巡回


 「起床!」


 上官の号令で叩き起こされる。見慣れない天井に一瞬戸惑うも、隣のロイを見て気付く。オレはシガーラ城に潜入していたのだ。


 「点呼!」


 端から数字を連呼していく。オレは六番目だ。出来るだけ声を張り上げる。そしてそれが済むと、上官の訓示が始まる。


 「昨晩もまた脱走兵が出たそうだ」

 「軍に入ったからには脱走は重罪である」

 「肝に銘じて職務に邁進せよ」


 (脱走……?)


 心当たりがある。昨晩の彼、この軍服の持ち主は、恐らく脱走扱いされているに違いない。彼の境遇を思うと、胸が締め付けられるように感じる。すると突然、上官に手招きされる。オレは困惑しながらおずおずと皆の前に出る。


 「そして彼は昨日我が隊に加入したバルジューだ」

 「改めましてよろしくお願いします」


 軽く一礼する。そして皆と握手を交わす。


 「オレはこの分隊を率いているジェーゲルだ、よろしく」


 分隊長とも握手する。晴れてこの分隊の仲間入りだ。


 「我々の任務は城内の警備、バルジューはロイと組んでもらう」


 ロイはこの隊に溶け込むきっかけを作ってくれた良いヤツだ。彼とコンビを組めて素直に嬉しい。


 「早朝警備はロイとバルジューだな、しっかり頼むぞ」


 そうして解散の運びとなった。


 「早速見回りに行こうか!」


 朝食を済ませた後、ロイはそう言って城門の方へと向かう。


 「ここは北門、シガーラ城の正門だ」


 北門の前に立ち、その大きさに驚く。昨日くぐって来たそれとはスケールが違った。振り返ると正面には本殿がある。やはりここはロイの言う通り、この城の正門だ。そして門外に出ると、目の前にはシガーラの街並みが見える。東から差し込む朝日で辺り一面が輝いていた。


 「ここから時計回りに巡回するのさ」


 そう言って歩き出す。城外に異常がないか、周りを見ながら進む。右手には城壁、左手には城を取り囲むように林が広がっていた。


 「バルジュー、お前はどうして軍隊に入ったの?」


 にこやかに話しかけられるも、慣れないその名前で呼ばれたため、反応が遅れた。オレは内心焦ったが、それを悟られないように考えている素振りをする。


 「そうですね……」

 「あっ、敬語じゃなくていいよ! オレも先月入隊したばっかりだから」


 ロイは相変わらず笑みを絶やさない。


 「そうかい? ありがとう……」

 「じゃ、じゃあさ、ロイはなんで軍隊に?」


 オレは答えに困り果て、良くないとは思いつつも質問を質問で返した。


 「うちは貧しくってさ、父ちゃんは早くに死んでしまって……それなのに兄弟が七人もいるんだ」


 「母ちゃんは女手一つでオレたちを育ててくれた、それには感謝し切れないくらい感謝してる。でも家計はいつでも火の車、満足に飯も食えないほどに」


 「僕はいいんだよ、僕は……でも下の兄弟たちがな、『ひもじい、ひもじい』って泣くんだよ」


 「それが可哀想でさ、せめて飯くらいは腹一杯食べさせてやりたいって思ったの」


 「そこで新兵募集の張り紙を見て心に決めたんだ」


 「この戦争で武功を挙げて故郷に錦を飾る。そして家族に腹一杯飯を食わせたい……ってね」


 「だから頑張らなくちゃ……」


 一語一語を噛みしめながら語る彼の姿に、思わず涙腺が緩みそうになった。敵味方問わず様々な思いや野心を抱えて戦っているのだ。そう言うオレも王女を救うため、ここにいる。


 「ちょっと湿っぽくしてしまったね、悪かった」


 彼はそう言って笑ってみせると、正面を向き直り巡回を続けた。オレは先を行くその背中を見つめながら、痰を絡ませたようなやるせなさに襲われた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ