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アンチ転生論  作者: 金王丸
45/85

戦支度


 「ゴスホークさん、これでどうですかね……」


 ある村人が服を手渡す。その胸の部分には下手くそな刺繍が施されていた。


 「これは双頭のガチョウだな……もう少し何とかなんねえか?」

 「やっぱりそうですよね……」

 「お前たち、北王国のシンボルは『双頭の鷹』だぞ! それっぽくしてくれ」


 周囲からは笑いが起きる。オレたちはいま来るべき戦いに向けて準備をしている。それは大きく分けて三つ、一つ目は目下行っている服への刺繍だ。これは陽動部隊を北王国軍だと偽装、相手に誤認させるため、その象徴である「双頭の鷹」を胸につけて攻撃するというものである。刺繍をほとんどしたことがない野郎連中は四苦八苦して、一行に進む気配がない。自分で縫うことで忠誠心を持たせようと考えてやらせたが、いくら時間があっても足りなさそうだ。


 (村の女衆に頼んでやってもらうか……)


 そう思い、立ち上がろうとすると、外の方からオレを呼ぶ声がする。


 「ゴスホークさん!」

 「どうした?」


 外に出てみるとオレは驚いた。なんとそこには大量の弓矢が置かれていたのだ。


 「これ、どうしたんだ……?」

 「憲兵に見つからないように村外れの洞窟に隠しておいたんです」

 「定期的に手入れをしていたから使えると思うんですが……」

 「まだ武器商人から買い付けている分もありますので、要望通りの数は揃えられそうです」


 オレは喜びを隠し切れず、よくやったと言わんばかりにその男の手を握る。弓矢による長距離攻撃はこちらの被害を少なくするためには欠かせない。幸いこの村は弓達者な者が多く、攻撃の主軸になり得た。これだけあれば戦える、ふつふつと確信めいたものが湧き上がって来た。準備の二つ目、弓矢の充実は叶いそうだ。


 「親方……」


 トーンの低い声で呼ばれる。振り返ってみると、そこにはしょんぼりとしている赤髪デッドリーがいた。


 「どうした、元気ないじゃないか」

 「近隣の村々を駆け回ったのですが……どこも馬を出したがりません」


 準備の三つ目は馬の調達だ。機動力は戦争の要であると同時に、勢いのある騎馬攻撃は相手の恐怖を煽り、反撃の意思を挫く。今回の作戦ではいかに敵を倒すかではなく、いかに犠牲を減らすか、そこに主眼を置いて準備をする必要があった。それを成すためにもある程度の騎馬を確保したいというところが本音だ。


 「カネを掴ませてもダメか?」

 「足元も見られて交渉になりません……」


 オレは悪知恵を働かす。そしてすぐさま閃いた。


 「よしっ、ちょっとついて来い」


 そう言ってオレは憲兵のところに向かった。集会所に隣接する小屋、憲兵たちはここに監禁されている。勿論食事は与えているし、風呂やトイレも認めている。ただ逃げられて報告されると困るので、仕方なくこうしているのだ。


 「おう、元気にしてるか?」

小屋の扉を開くなり、挨拶をする。しかし返事は返って来ない。


 「つれないじゃねえか、返事の一つぐらいしてくれてもいいだろうに」

 「何の用だ」


 憲兵隊の中で上官に当たるであろう男が静かに口を開く。


 「あんたこの中で一番偉いのか?」

 「……」


 その男は口をつぐんだまま話さなくなる。恐らくこいつが上官なのだろう。


 「まあいいや、オレはあんたと取引をしたい」

 「オレの要求を飲めば、その縄を解いて自由にしてやる」


 伏し目がちな眼がわずかにこちらを向いた。ヒットマーク、押せば通る。


 「あんたの氏名、そして命令書に押す印鑑を渡してもらおうか」

 「そ、それは……出来ない!」


 慌てた様子で要求を突っぱねる。この期に及んで忠義なことだ。


 「ならば……酒も旨い飯もつける。他のヤツでも知っていれば教えろ、オレと取引だ」

 「こんな狭苦しい所に押し込められるのは辛かろう……早い者勝ちだ。さあ、早く!」


 欲に目が眩んだのか、時を待たずして憲兵の一人が口を割る。


 「ペンタトニック憲兵隊長……」

 「おい、お前っ!!」


 消え入るように小さな声だったが、確かに聞こえた。そしてこの男の狼狽ぶり、情報は確かだ。


 「ほう、お前さん、ペンタトニックって言うんだな……?」

 「次に印鑑はどこだ?」

 「……それだけは言えぬ」


 なかなか一筋縄では行かない男だ。


 「お前、印鑑の在処は知らねえのか?」

 「それは隊長しか……」


 やはり隊長(こいつ)を落とさない限り、埒が開かない。オレは一席ぶつことにした。


 「憲兵隊は民衆に規律を徹底し、治安を維持するために存在するもの……」


 「その担い手たるお前たちがあろうことか、宴会中に襲撃を受け、監禁されるような事態を引き起こすととは……はっきり言って言語道断だ」


 「この失態は許されない……なんせあのヴァフォードだぞ? お前にも分かるよな?」


 「ここでいくら意固地になって忠誠を誓ってもお前の失敗は取り返せない」


 「だからせめて束の間の自由だけでも享受しないか?」


 「印鑑の場所さえ教えてくれたらいいんだ、そうすればここにいる全員の縄を解いてやる、どうだ?」


 葛藤の見える表情、手応えはあった。


 「隊長……」


 他の隊員は既に折れている。そして皆で無言の圧力をかけているようにも見えた。しばらく黙っていると、


 「……集会所の床下、私が座っていた場所の真下だ」


 「……あそこだな、行くぞ!」


 オレたちは集会所に入る。そして指定された場所の床板を外すと、印鑑が出てきた。


 「これをどうするんですか……?」

 「偽造の命令書を発行するために使う。そして周囲の村から馬を徴発するんだ」


 それを聞いた赤髪は目を丸くした。人を騙すようで悪い気しかしないが、状況が状況だ。致し方ない。


 「文面はオレに任せろ、お前はそれを持って頭数揃えて来い!」

 「はいっ!」


 オレは数枚の命令書を書き上げると、それらを赤髪に託した。これであらかたの用意は出来た。


 (ユウト、上手くやってくれよ……)


 後は内通者(ユウト)がカムフィーに接触して、作戦命令書を手渡すだけだ。この段取りをどうこなすかで作戦の成否がはっきりと分かれる。どうか上手く行きますように、遠くの空に祈りを込めた。



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