配属
オレは行く当てもなく城の周りを漂っていた。新兵に成り済ますまではよかったが、その後のことを何も考えておらず、ほとほと困り果てる。闇夜に浮かぶ満月が相も変わらずオレを照らす。頼る方もなく、その場に佇んで物言わぬそれに問うてしまう。
(なぁ、オレはこれからどうすればいい?)
しかし大きな黄白色はただそこにあるだけだ。
(自分で考えろ、ということか……)
先ほど親方に言われた言葉を思い出す。とにかく自然な形で城内に潜入しなければならない。様々に思案しながらしばらく城壁沿いを歩いていると、前方に松明が見えた。
「誰だっ!」
松明の持ち主はこちらに気付いたらしく、すっ飛んで来た。
「その帽子……お前は新兵だな?」
オレが被っていた緑帽、これは新兵の証のようだ。
「こんな所で何をしているっ!」
「はっ! 用を足していたら道に迷ってしまいました!」
もっともらしい嘘でこの場を乗り切る算段だ。目の前の男はオレを見据えたまま、視線を外さない。
「所属はっ!」
「さっき入隊したばかりで何も分かりません!」
本当にこれでいいのかとは思いながらも、即答を続ける。
「ならば我が隊に編入する。名前は何だっ!」
「高橋です! たかはしゆ……」
しまった――咄嗟に思う。あろうことか本名を名乗ってしまったのだ。こういう場合、偽名で潜入するのが世の常、オレは初っ端からミスを犯した。
「ターカ、バルジュー? 聞こえない! もう一度大きな声で!」
「そうです、バルジューです! ターカ・バルジュー!」
「よしっ、バルジュー! ついて来い」
「はいっ!」
早口で名乗ったのが幸いした。オレは今日からバルジューだ。そしてその上官らしき男の後をついて行く。すると難なく城内に潜入することが出来た。
(よしっ、上手くいった……)
心の中で大きくガッツポーズをする。何はともあれ城内に入り込めた。程なくして詰所のような場所に辿り着いた。
「ここで待機しておれ」
そう言い残すと、その男は持ち場に戻って行ってしまった。オレは恐る恐る小屋の中に入る。するとそこには緑帽の男が五人ほど座っていた。
「こんばんは……」
力なく挨拶する。しかし彼らは何も言わない。突然の来訪者を奇異の目で見ているだけだ。
(どうしたらいい……)
オレはその場に立ち尽くしたまま、対処に難儀した。オレと彼らの間に微妙な空気が流れる。次第に居た堪れなさを感じるようになり、小屋の外へと飛び出そうと思った矢先、扉が開く。
「配給貰って来たぞ~」
栗色の髪の毛をした男だった。背丈はさほど変わらないが、青年らしい若さをまとっていた。
「えっと、新入りの人……?」
排他的な響きを持たないその言葉、その態度、彼だけは違った。目の前の彼となら打ち解けられる、瞬時に確信した。
「そうです……ゆう、いやバルジューと言います」
伏し目がちに話すオレを見て、ニッコリと笑う。
「僕はロイって言うんだ! よろしくね!」
そう言うと彼は手を差し伸べる。オレもそれに応えて手を握り返す。
「お前たち、新人のバルジューだ! 仲良くしてやってくれ」
それからオレたちは輪になって食事をした。最初は警戒心をむき出しにしていた他の五人とも話していく内に打ち解けることが出来た。オレはしばらくの間、内通者という立場を忘れて団欒の時を過ごした。




