切れ者
翌朝、日の出と同時にオレたちはシガーラを出発した。前日の疲れも眠気もまだ取れていない。馬上から落ちないようにだけ気を付けながら帰路に就く。結局、昨晩は宿に入るとすぐに寝てしまい、聞きたいことを聞けなかった。そう思うと、気になり出す。知的好奇心がくすぐられる。前を行く親方の背中を見ながら、どう切り出すべきか迷っていると、
「ユウト、昨日の男の顔、覚えておけよ」
降って湧いたようなそのセリフに、はいと短く答える。そしてオレはこれを好機と捉え、色々な疑問を解決しようと考えた。
「あの男は知り合いなんですか?」
「ああ、オレの元部下だ」
何気なくその答えを受け入れるも、冷静に考えたらとんでもないことだと思い至る。相手は元部下、それなのに素性がバレる危険を冒してあのやり取りを行っていたのだから大したものだ。
「でも髭を剃っていたとは言え、オレに気付かないなんてな……おかげで事なきを得たが――」
少し寂しそうに言ってのけた。そして今まで黙っていたデッドリーも口を開いた。
「結婚式のことはどこで知ったんですか?」
「あれはハッタリだ。鎌をかけてみた」
ええっ、オレたち二人は思わず驚嘆の声を上げた。愚直な武人のイメージが脆くも崩壊する。あの場面でこの気転、親方は肝の据わった切れ者だ。
「カムフィー、ヤツは他より優秀だが、その分出世欲も人一倍だ」
「そしてヤツがあの酒場にやって来るのは大抵上手くいっていない時――」
「そこを突いてやれば何でもぶちまける」
「あいつはそういうヤツだ」
全ては親方の手のひらで踊らされていた、ここまで来ると畏怖の念を禁じ得ない。
「それなら昨日大佐があの酒場を訪れることも……?」
「いいや、全く確証はなかった。ただ運が良かっただけだ。」
そう言って親方は笑みをこぼした。
「とにかく王女様はシガーラにいて、二週間後に結婚式が執り行われることは確かだ」
「それまでに何とかして救出しなければ……時間はないぞ」
タッタッタッ、馬に気合をつけると勢いよく駆け出した。目の前にある大きな背中、きっと親方は何とかしてくれる。その優秀な頭脳でこちらの考えも及ばないような作戦を立ててくれるはずだ。二週間後に笑っていられるよう、オレは言われた通りのことをやるだけだ。




