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アンチ転生論  作者: 金王丸
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はじまりの街

《前回までのあらすじ》

主人公・高橋勇翔は中世ヨーロッパに転生した。「これからどうする……?」そう思案する彼に早速黒い影が迫って来る。


 どれほど時間が経ったのか、定かではない。だた見上げる空は透き通るほどの青で、頬を撫でる風は汚れなく心地良い。辺りに漂う草の匂い、全身に感じる土の感触、恐らくここは草原だ。


 「本当に来てしまった……のか……?」


 起き上がって周りを見渡す。まだここが本当に「異世界」かどうかは分からない。ただ明らかに日本ではないことは確かだ。


 「どうしよう……おい、アイル! どこにいる! アイル!」


 あの女の名前を呼び続ける。ふと心に現れたブラックホールは見る見るうちに広がり、オレを不安のどん底に叩き落とした。


 「うるさいなぁ~なんだもう三つ目のお願いか?」

 「アイル! ここはどこだ!」

 「どこって……『異世界』に決まっているだろう」

 「え、えぇー!?」


 オレは素っ頓狂な声を上げた。自分で望んだこととは言え、信じられない気持ちで一杯になる。


 「それで……オレはどうしたらいい?」

 「どうって……それはお前の好きなようにしてくれ。勇者にでも、英雄にでもなればいいさ」

 「それがお前の望みだろう?」


 オレは正論を前に押し黙ったまま、返す言葉がない。


 「そして今後は不用意に私を呼ぶな。次に現れるのは、最後の望みを叶える時だ」

 「それなら! オレをこの世界の支配者にしてくれ、頼むっ! この世界を統べる王に!」


アイルはオレの言動を安直だと言わんばかりに嘲笑う。


 「今の言葉は聞かなかったことにしてやる。さあ、進め!」


人差し指を草原に走る一本道に向ける。


 「あ、あの道を行けばいいんだな?」


返答はない。振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 歩けど歩けど進んでいる気がしない。周りは相も変わらず黄緑一色で、何の変わり映えもない風景が続いている。


 「一体どこまで行けばいいんだよ……」


 行く末を案じながらもしばらく歩いていると、大きな岩がポツンと草原に横たわっていた。


 (そろそろ休憩にするか……)


 オレは岩陰に腰を下ろすと、リュックサックから弁当を取り出す。


 「これだけは先に食べておかないと」


 取り出したのは唐揚げ弁当、オレの好物だ。消費期限が迫っているので早く食べなければならない。早速弁当を開くと、付属のマヨネーズを波打つようにかける。オレはマヨネーズ派だ。コショウはかけない。


 そして一口目を食べようとしたその時、向こうから人がやってくるのに気付いた。しかし様子がおかしい。思わず岩陰に身を屈める。彼らは異形であった。二足歩行である点は人間であるが、特筆すべきはその容姿だ。全身を黒色の布で覆い、木製の杖を持っている、それだけでも不審である。だが本当に恐ろしいのはその容貌、鳥と見紛うような嘴が生えているのだ。見ているだけで不安な気持ちになる「異形の民」、まさにそう形容するに相応しい。


 (あれは……魔法属性だな……)


 オレの経験上、ヤツらは魔法使い、間接攻撃を得意とし、厄介な敵だ。だが物理攻撃には弱い。そうと相場は決まっている。人間を困らせ惑わしている魔法使い、きっとこの世界の人間と敵対しているはずだ。もしオレがヤツらを倒し、その首を持ち帰ることができれば……


 (オレはこの世界の勇者になれる……!)


 そう思うと、居ても立ってもいられない。早急に街へ向かい、武器を調達しよう。そしてヤツらの後を追うのだ。弁当の中身を掻き込むように食べる。熱き血潮がたぎる。オレはいま、猛烈に燃えている!燃えているのだ!


 ドタドタドタドタ、遠くから蹄音が聞こえる。誰か近づいてくるようだ。あちらもオレを見止めると、馬を制して立ち止まる。


 「おい! お前、さては吟遊詩人だな?」


 馬上から男が降りてきた。


 「だっ、誰だ! お前は!」


 この世界の住民と初めて会話する。言葉が通じる設定にしておいて本当に良かったと、今更ながらに思う。


 「なあ、それよりもお前はどこから来た?」


 どこって……オレだってよく分からない。転生してきただなんて信じてもらえるはずもなく、言葉に詰まり口ごもる。


 「息子が大変なんだ……黒死病に罹ってな……香辛料が必要なんだっ!」

 「香辛料?」

 「そうだ! 隣町に行ってもなくてな……このままでは……息子が……」


 涙ぐむ男を見て、只事ではないと感じた。何とかして彼の力になりたいとも思った。


 (香辛料……? コショウのことか……?)


 「こ、これか?」


 オレは弁当に付いていたコショウの小袋を取り出した。


 「それはコショウ……なのか……?」

 「そっ、そうだ……! 量は少ないが――」


 そう聞くと、男は跪き、地に額を擦りつけながら懇願する。


 「頼む! それを、それを、オレに譲ってくれ! カネならいくらでも払うから……!」

 「わかった……わかったから! 顔を上げてくれ!」


 男の顔は泥と涙でぐちゃぐちゃだった。しかしその顔は嬉しさを隠しきれていなかった。


 「ありがとう……!」


 男が飛び掛かって来た。身体が食い込むほど抱擁される。


 「分かった……分かったって……!」


 オレは男を制する。


 「そう言えば名乗ってなかったな、オレはアルバート! よろしくな!」

 「オレは勇翔って言うんだ、よろしく!」


 名乗り合うや否や、お互いにガッチリと握手を交わす。


 「ユウト、お前はこれからどこに行くんだ?」

 「どこって……この道の先の街、かな?」

 「よし、じゃあそこまで乗せて行ってやる! なんたってお前は息子の命の恩人だからな!」

 「それは助かる、ありがとう」


 馬上で揺られながら、沈み往く夕日を眺める。これほどまで中身の濃い一日は経験になかった。オレは大きな荷物を抱えつつ、落馬しないように苦心していた。


 「この先の街って……」


 アルバートはオレの言葉を遮って言う。


 「ああ、テンエイか? この王国の首都だ。すごいところだぞ!」


 この国の首都・テンエイとは一体どんな街なのか、期待に胸を膨らませながら旅路を辿る。



*コショウ

→中世ヨーロッパでは貴重品。これを直接手に入れるためにいわゆる「大航海時代」(史実)は起こった。かの有名なコロンブスもヴァスコ=ダ=ガマも香辛料貿易のインド航路開拓のために海へ飛び出した。(大航海時代って聞くと黄金を求めてってイメージですけど、実は違うんです)

*黒死病 (別名:ペスト)

→高い致死性を持ち、中世では不治の病。当時は原因が分からず(本来は感染症で、ネズミからノミを媒介して人間に感染する)、香辛料で治るという俗説まで発生した。(だからアルバートは香辛料を懇願していたのですね)

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