因縁の地
「……起きろ」
誰かが耳元で囁き、強く身体を揺さぶる。オレは重い瞼をうっすら開けると、親方の顔がそこにはあった。
「どうしたんですか……」
オレは抗うように言う。外を見ると朝日が眩しい。周りの皆も雑魚寝状態でぐっすり眠っていた。なぜオレだけ起こされるのか、寝ぼけた頭では理解できなかった。
「支度をしろ。偵察だ」
偵察――ということは今からどこかに行くのだろう。しかし全く気乗りはしなかった。疲れすぎているからだ。五日も旅をしてきたのだから少しは休ませて欲しい、それが本音だった。
「早く!」
親方の少し語気を荒げた様子を察し、オレは渋々と起き上がる。
(こんな朝早くから……一体何を……?)
寝起きで頭は働かない。リュックを手に持ち、髪を掻き上げながら部屋を出ようとすると、足に何かを踏んだ感触がした。
「痛っ!」
それは寝ているデッドリーの足だった。眠そうな目でこちらを見やる。彼は起きてしまったようだ。
「わっ、悪いっ!」
そう言い残して集会所の外に出た。
「朝早くに起こして悪かったな」
親方は既に馬上だった。ちょっとした荷物を背負っており、その口元には例によってマフラーのような布が巻かれていた。
「お前も準備出来たか? それじゃ馬に跨れ」
指差した先にはもう一頭の馬が準備されていた。オレは言われるままに近づくと、落ちないよう気を付けて馬に跨った。
「お前さんたち、もう出発するのかね?」
目の前に現れたのはこの村の長老だった。
「はい、これからシガーラに行ってきます」
シガーラ――その地名を聞いて目が覚めた。王女囚われの地シガーラ、オレたちはこれからかの地に赴く。当然その目的は何らかの作戦行動だろう。そう考えると急に気持ちが引き締まる。
「そりゃまた急なことじゃの……」
「連れの者にもそうお伝えください」
長老は深く頷く。そして次の瞬間、何かを思い出したように、
「ちょっと待っとれ!」
そう言って来た道を引き返した。
「シガーラまでどれくらいかかりますかね?」
「うーん、昼過ぎには着くんじゃねえか?」
長老を待つ傍ら、何気なく会話をしていると集会所の方から一人駆けて来る。赤髪のデッドリーだ。
「親方、オレも連れて行ってくれ……」
肩で大きく呼吸をする彼に親方は言い放つ。
「無理するな、身体を休めておけ」
その言葉をオレに向けて欲しいと心の片隅で思った。
「大丈夫っす! この通り、元気です!」
彼は飛び跳ねて見せ、体調の良さをアピールする。
「途中で帰りたいと弱音を吐かないか?」
「勿論ですとも!」
親方はその威勢の良さに困ったような顔をして見せた。すると屋敷の方から長老が走って来た。
「待たせたの~! ほれ、食料じゃ!」
そう言ってオレたちに食料入りの小袋を渡す。そしてそれを受け取った親方はデッドリーを一瞥すると、長老に対し彼を指し示して言う。
「長老、こいつにも馬と食料をください」
こうしてオレら三人は因縁の地・シガーラへと旅立った。




