騎士団
「どけどけ~! オレらの獲物に手を出すな!」
突然現れた幾十の騎士団にオレは呆気に取られた。特徴的な黒い甲冑をまとった彼らは躊躇することなく敵に突っ込んでいく。数の上ではあちらの方が明らかに多い。だがその突撃を目の当たりにした敵は慌てふためき、散り散りになって退却する。
「あれは……アルバート騎士団!」
親方は柄にもなく驚嘆の声を上げた。
「アルバート騎士団……?」
どこかで聞いたような名前だ。
「ああ、天下無双の最強騎士団だ」
「でもそんな軍団、ありましたっけ……?」
オレは疑問に思った。王宮で生活していてその名前を聞いたことがなかったからだ。
「ヤツらは王国から独立した軍事力で、各地を遊牧しながら生活している」
「そしていざ戦争になったら加勢して、その手柄に応じた報酬を王国に要求してくるってわけよ」
要するに傭兵的な存在ということだろう。何はともあれ、彼らのおかげで眼前の脅威は取り除かれた。オレたちは助かったのだ。あのまま戦闘に突入していたらと考えると恐ろしい。ホッと胸を撫で下ろす。そうしていると向こうから一騎こちらにやって来た。
「お前さんら、北の兵隊か?」
甲冑の目元を上にずらしながら、声を掛ける。その瞬間、オレはピンと来た。その顔に見覚えがあったのだ。その男はこの世界に来て最初の日にテンエイまで送ってくれたアルバート本人だった。
「アルバート!」
思わず叫ぶ。彼は一瞬怪訝そうにオレを見たが、すぐに口元が緩んだ。
「ユウト? ユウトなのか? 久しぶりだな!」
馬から飛び降り、互いに駆け寄る。そして再会の抱擁を交わす。
「元気にしてたか? どうしているか心配していたんだぞ!」
「アルバートこそ! さっきはありがとうな!」
オレら二人と周りの温度差はひどかった。皆ポカンとして状況を飲み込めていないようだ。すると親方が切り出す。
「お二人さん、盛り上がっているところ悪いんだが……一体どういった関係で……?」
オレは彼とのいきさつを説明した。そうすることで次第にその温度差も解消されていく。
「なるほどなぁ~、そんなこともあるもんだな」
親方は納得したように頷く。そして次はアルバートが口を開いた。
「あなたはまさか……ゴスホーク隊長……?」
声色が随分と丁寧なものになった。
「ああ、と言ってもそれは昔の話、今は馬屋番をしているがな」
そう言って高笑いに笑う。
「あの英傑・ゴスホークさんに会えるなんて……以後お見知りおきを――」
アルバートは片膝を立てて跪く。オレはその場面を目の当たりにし、親方の凄さを改めて思い知る。
「さっきは危機を救って頂き、かたじけない」
親方も頭を下げる。
「それで……あなた方はこれからどこへ向かわれる? もし良ければ護衛して差し上げよう」
「オレたちは南を目指しているんだが……これから山に登るんだ」
「ほう、何かの作戦行動ですかな……?」
「まあ、そんなところだ」
アルバートは口元に手を当て、少し考えるような素振りを見せる。そして提案する。
「ならば我々の力が必要な時はいつでも呼んで下さい。しばらくこの辺りにいますから」
親方は驚いたような表情を浮かべる。
「なぜそこまでしてくださるのですか……?」
「それは……彼との友情の為です」
即座にそう言い切ると、オレに向かってウインクを送る。情けは人の為ならずとはよく言うが、今後の人生でこれほどまでにその言葉を痛感することもないだろうと思った。そして彼の情の厚さにも感動した。アルバートは真の騎士だ、そう確信した。一方の親方は繰り返し礼を言い、何度も頭を下げた。
「ありがたい、ありがたい……」
オレたちは名残を惜しむようにアルバート騎士団と別れた。これから厳しい山岳地帯に入る。一旦緩んだ気持ちを締め直して一歩一歩前に進んでいく。バーンスタインまであと三日、何としても辿り着いてみせると静かに意気込んだ。




