窮地
テンエイを出発してから二日が経った。青々とした草原を抜け、ゴツゴツとした荒野に出た。左手には南へと山脈が走る。その山脈に沿うようにただ歩き続ける。皆、最初はあれほど士気旺盛だったのに、今となっては口数も少ない。それもそのはず、野宿をしながらの行軍はさすがに辛いもので、一行には早くも疲れの色が見え始めていた。
「よし、そろそろ休憩だ」
親方の声がした。その途端、オレは倒れるような格好でその場にへたり込む。人生でこれほどまでに歩いた経験はなく、全身が痛い。キャリーバッグを放棄した上で、出発前にまとめてきたはずの荷物も重くのしかかる。
「ヤバいっすね……」
いつもは弱音を吐かないデッドリーも辛そうにしている。五日間分の食料と水、それに武器を携えての行軍は思ったよりずっときつかった。そしてこれから山を登り、敵国内に入る。自分とも戦いつつ、敵とも戦わなければならない。その状況を考えると、不安でしかない。
オレはぼんやりと南を見ていた。果てしなく広がる荒野に散らばる黒い点、初めは野生動物の群れかと思っていた。しかしどんどんこちらに近づいて来ると、気付いてしまった。見たことのない軍服、装備、その進行方向、それらは敵兵の姿だった。
「親方! 向こうから何か来ます!」
咄嗟に叫ぶ。皆の注目は南の方角に注がれた。
「マズいな……目の前に敵だ! 岩陰に隠れろ!」
各々近くの岩陰に身を潜めた。幸いにもここは荒野だったので、そこら中に大きな岩が転がっていた。
「どうか何事もなく通り過ぎてくれよ……」
親方は祈るような思いで、敵の様子を窺っていた。
その行動指示は意外だった。親方の性格上、腹を括って戦闘を選択すると思っていたからだ。あと三日も旅を続けないといけない状況で戦闘を選択することは、一行のバイタリティーを低下させることにも繋がりかねない。親方は至って冷静だった。すると突然、矢の雨が降り注ぐ。どうやらこちらを敵と認識し、攻撃を仕掛けてきたようだ。
「皆、岩に張り付け! くそっ、気付かれたか……」
向こうから声が聞こえてくる。敵はもう目の前だった。
(こうなったら……やるしかないのか……)
思わず剣の柄を握り締める。これからオレはこの真剣を振るい、敵を殺傷する。運が悪ければ殺されるかもしれない。その事実に全身が震える。だがそれは所謂武者震いではない。ただビビッているだけだ。目を閉じて気持ちを落ち着かせる。すると地面がかすかに音を立てているような気がした。ドタドタ、ドタドタ、まるで馬の蹄音だ。背後から近づいて来る。思わず後ろを振り返ると、そこには――。




