忘れ物
夜の街をただ一人歩く。人通りは少なく、通りは閑散としていた。各所には軍人が居並び、物々しい雰囲気を醸し出している。夜でも明るく、賑やかだった街はその活気を失っていた。オレは在りし日の街の姿に思いを馳せ、無性に寂しくなる。右も左も分からぬままこの街にやってきたあの日、大きな荷物を持ち、徘徊したあの夜を思う。
(んっ……荷物……?)
思い出と現実の齟齬に気付く。よくよく考えてみると、オレはこの世界に来た時、たくさん荷物を持ってきたのだ。
(武器屋だ! きっと荷物は武器屋に置いてあるはず……)
そう思い、その場所に急ぎ向かう。しかし不安だった。なんせ何か月も取りに行ってないのだ。得体の知れない客が忘れていった荷物など気味が悪くて捨てられていてもおかしくはない。
やがて武器屋に辿り着く。
「いらっしゃい」
件の老人がぶっきら棒につぶやく。こちらを見る素振りはない。
「じいさん、オレだよ! 以前銃を買った……」
「んっ……」
食い気味に問い質すオレをまじまじと見つめると、
「お前なんか知らないな」
無情にもそう言い放ち、視線を手元の書物に落とす。このままではマズい、そう思い周りを見渡すと、以前来店した時に振り切れなかった剣を見つけた。そしてそれを手に持ち、二、三度振って見せた。
「オレだよ、あの時はこの剣を全然振れなかっただろ?」
「でも今はこの通り!」
前と違っていとも簡単に振り切れてしまう。それには自分でも驚いた。しかし老人はさらに驚いたようで、目を丸めてこちらを窺っている。そして感嘆混じりに言う。
「お前さん、そいつを振れるようになったのかね? こんなに短期間で……信じられん」
「おお、やっと思い出してくれたか! それで――」
「ちょっと待っとれ」
そう言い残し、店の奥に向かった。その間の手持無沙汰にその剣を何度も振ってみる。やはり木刀とは違って、手に残る感触が重く、風を切る音も鋭い。この剣を持って旅に出られたらいいな、そんなことを思ったりもした。しかし今は無一文の身、当然これを買えるわけもなく、思うだけに留めた。やがて老人は二つのカバンを持って出てきた。
「ほらよ、忘れ物じゃ」
久しぶりに戻ってきたオレの荷物、外面は少し汚れていたが、中身は無事のようだ。
「何も漁ったりはしとらんよ」
中身を注意深く探るオレを見て、呆れたように言う。
「ありがとうな……じゃあ!」
そう言って店を飛び出そうとすると、後ろから声が掛かる。
「待て! 忘れ物じゃ」
何かと思い、振り向くと老人はこちらに何かを差し出す。その手にある細長い代物、それはさっきオレが手にしていた剣だった。
「それ、貰っていいのか……」
「ああ、お前さんに売ってやる」
「でもお金なんて……」
そう言うや否や、手元から小袋を取り出す。それは以前アルバートからお礼に貰ったお金だった。
「もう貰ってあるわい」
老人は少ない歯を大きく見せて、ニッコリと笑う。オレもそれに釣られて笑う。
「礼を言うぜ、じいさん!」
「気を付けて行くんじゃぞ!」
オレは店を出た。背中と左手にはバッグを、腰には新たな相棒を引っ提げて、少し強くなったような気分で王宮に戻る。これで準備万端、後は明日の出発を待つだけだ。




