遠征
「まあそこらに座ってくれ」
親方の部屋にはオレの他にベルガとデッドリー、モライザ、パットンの三人組が集められた。そして全員が輪になって座ったところで、その真ん中に地図を広げた。
「ベルガ、王女様はシガーラにいると言ってたよな」
「その根拠は何だ?」
親方はベルガに問う。彼女の誘拐先を実際に追いかけて突き止めてもないのに、そう主張する根拠はたしかに気になる所だ。
「その根拠は二つあります」
「一つ目はシガーラにヴァフォードの居城があること、シガーラ城は難攻不落の名城にして防備は万全、大軍で攻め込まれても落とされる心配はないと考えているからです」
「そして二つ目は疑い深く、人を信じないヤツの性格からして、せっかく得たワイルドカードを自分の手元以外に置いておくとは考えづらいからです」
理路整然と言ってのけるベルガの説明には説得力がある。一同納得したように頷いていると、
「……一つ、いいか?」
赤髪のデッドリーが手を挙げ、質問する。
「なんだ?」
「そもそもなんで相手さんは王女様をさらったんだ?」
そう聞かれてしばらく考える素振りを見せた後、
「あくまでも私の推察になるが……合点のいく理由がこれも二つある」
「一つ目は王女様の嫁ぎ先であるサンダルム王国と我が国の同盟を嫌った結果だろう。南ファランクは国土の西側の大半をサンダルムと接している。つまりは北と西から挟み撃ちにされる可能性を危惧し、それを潰しにかかったのさ」
「そして二つ目、これが本来の目的だろうが、恐らくは王家の血、つまり支配の血統的正当性を得るために王女様を必要としたんだ」
「血統的正当性……?」
「ファランク王国は代々ディアドラ家の統治する地域で、住民もその支配を受け入れてきた。これは時を重ね、血統的に支配階級であることを民衆から認められないと出来ないことだ」
「ではヴァフォードはどうか。ヤツは貧農出身の成り上がり者で、血統的に支配を裏付ける根拠がない。だから王家の血、具体的には王女様と婚姻関係を結び、その子供を次の国王にすることでそれを得ようとしているのだ」
「なるほど……」
王女誘拐にそんな背景があるだなんて思いもしなかった。単純にオレは略奪愛のようなことを想像していたので、少し赤面する。
「よし、わかった! ベルガの言う通り、シガーラを目指そう」
親方は声を張った。
「でも真っ直ぐに向かうとなると敵軍に見つかりますよ?」
「それに根拠地もなく活動するのは無謀です」
そう言って諫めるベルガを制するように、
「何も真っ直ぐは行かないさ」
「それに根拠地にも目星は付いている、心配するな」
やおら筆を握ると、地図のある地名に印を付けた。
「取り敢えずはここ、バーンスタインを目指す」
「バーンスタイン」――北ファランクから南ファランクの東側に走る山脈の最南端に位置する都市だ。
「そこってまさか……」
「ああ、オレの……故郷だ」
親方は何か含みのある表情を浮かべながら地図をまじまじと見つめる。
「そしてこれをこう……」
テンエイから東の山脈を通り、バーンスタインまでのルートを線で引く。
「こうやって行けば敵さんと鉢合うこともなかろう」
「もし敵と遭遇したら……?」
オレはこの場で初めて口を開いた。
「その時は……その時だな!」
笑いながら言うその姿を見て、不安を拭えはしないが、不思議と何とかなりそうな気がしていた。
すると親方は少し真剣な顔つきになって、
「それでだ。急で申し訳ないが、明日にはここを出ようと思う」
「だから皆には今晩の内に有志を募って欲しい」
「オレも今から色々当たってみる」
「では解散、長旅の準備も忘れるな」
そう言うと立ち上がってその場を後にした。親方と三人組は早速街に走った。仲間を集めるためだ。ところがオレには何の当てもない。これからどうしようかと迷っていると、
「ユウト、ちょっといいか? 話がある」
声の主はベルガ、向き直ると再び馬屋の方を目指して歩き出す。オレは何を言われるのか、皆目見当もつかなかった。




