最後の逢坂
《前回までのあらすじ》
絡んできた三人組を無事に撃退すると、二人は帰路についた。そこで放たれた衝撃的な言葉とは……。
西日が空を橙色に染める。大きく伸びた二つの影は西日を切り取るようにくっきりと形取られ、王宮へと向かって動いていく。
「ユウト、今日も私のわがままに付き合わせてしまって悪かったな」
「いえいえ、とんでもない。楽しかったですよ」
言葉が続かない。さっきからずっとそうだ。彼女は何かを言いたげな様子だが、言い出せないでいる。
お互いにモヤモヤとした気分になる。やがてこの膠着状態に終止符を打ったのは彼女だった。
「ユウト……一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
「その……結婚とは何だ……?」
「えっ、ええっ!?!?」
その唐突な質問に心臓の動悸が高まる。なぜこのタイミングでこの質問をオレにぶつけてきたのか、甚だ疑問であった。とりあえず間を取り持つために聞き返す。
「結婚……なさるんですか……?」
「バカ言え! そういうわけではないっ!」
そう答えた彼女の顔色が紅潮したように思えた。それは西日に照らされているせいか、それとも――。
「結婚……ですか……」
そもそもその質問をオレにするのは間違っている。結婚どころか、付き合っている彼女だっていないのだから答えようがないのだ。だからこれから言うことは全て推測である。
「それは……楽しいモノなのか?」
「そりゃ好きで一緒になるわけですからね……幸せなモノだと思います」
それを聞くと、彼女は神妙な面持ちになる。そして消え入るような声でつぶやく。
「そうであったらいいな」
そう言った切り、押し黙ってしまった。何かを深く考え込んでいる様子で、その歩みも遅くなる。
「ユウト、前を歩いてくれ」
「はっ、はい!」
言われるがまま彼女の前に出る。一体どうしてしまったのだろう、聞くに聞けないこの状況がひどくもどかしい。でも聞いてしまうのは何となく野暮な気もして、自分の中で葛藤が起きる。
――タッタッタッタッ――
駆けるようにして後ろから飛びついてきたと思えば、白い腕が首元に回る。オレは思わずよろめいて、前に転げそうになった。
「私を……おぶってくれ……」
声がかすかに震えていた。しがみつく両手にも力が入る。
(今日は様子が変だ……)
そう思うに留め、核心的なことには触れられなかった。そうこうしている内に日は傾きかけていた。帰路を急がなければならない。名残を惜しむ間もなく坂道を上る。だがこの時オレはまだ知らなかった、これが彼女との最後の「逢坂」になることとは――。




