歴史
《前回までのあらすじ》
「悪目立ちをするな」王女の言葉は主人公・高橋勇翔の心を揺り動かす。その帰り、王女を背負い、無事に王宮まで届けたことで何かを得たらしいが……。場面は変わってその続き。
ここで働きはじめてから一ヶ月が経った。最初は慣れなかった力仕事も今では何ということもない。今日もいつものように馬屋周りの仕事をしていると、遠くに大行列を見つけた。
「親方、あれは何ですか?」
「ああ、あれは王子様の行幸だ」
「今となっては国王のような立場だが、物見遊山にでも出かけられるんじゃないか?」
その遠回しな物言いにふと疑問が湧く。
「今となっては国王……? どういうことですか?」
それを聞くや否や、親方は目を丸くすると、
「お前、何も知らねえんだな! よし、一つこの国の状況を一席ぶってやる!」
親方の話によると以下のような状況らしい。
まずオレがいるこの国は、国王ディアドラ=ギャラントが治める北ファランク王国、周囲を四カ国と接し、北に海、東の国境沿いに山脈が通っている国土の交易国だ。そしてその山脈から走っている川に沿って接している国が南ファランク王国、広大な穀物地帯を有する農業国で、かつて両国は一つの王国だった。
「なぜ北と南に……?」
「ああ、それはな……宰相ヴァフォードの謀略のせいだ」
心なしか親方のトーンが下がったように感じた。
国王ディアドラ=ギャラントは近年、病に伏しており、王国の統治もままならないほどだった。そのような状況下で王国の支配に緩みが出た。
外戚の宰相ヴァフォードはその間隙を見逃さなかった。
南部で武装蜂起すると、国王一家を追放し、自分の王国を作り上げてしまったのだ。辛くも国王一家は北部へと逃れ、テンエイを暫定的な王都として、新たにこの国を立ち上げた。国王はまだ存命であるが、実権は息子のディアドラ=グランテにある、ざっとこういうことだった。
そして変な沈黙が流れた後、親方は口を開いた。
「なあ、山に……山に登らないか?」
オレにその提案を断ることは出来なかった。その言葉は平素の親方のモノではなく、その背後にいつもとは違う形の有無を言わさぬ何かを感じ取ったからだ。
「分かりました」
そう言ってオレは親方の後について、山へと向かった――。
*外戚…母方の親戚。皇帝、王の母親または妃の一族のことである。




