リア
魔法で身を清め、返り血や泥を落としてから森を出る。
森を抜けた先は小さな村があった。 この村は盗賊の被害に怯えていて今まで農業もまともに出来なかった村だ―――ったのだが、今さっきその脅威からは開放された。
「「おかえりなさい!ゆうしゃさま!」」
村に着くなり子供たちが出迎えてくれる。
「ああ、ただいま。 悪い盗賊たちはみんな僕が懲らしめてきたからね」
懲らしめたというが実際は皆殺しという形である。
さっきの女盗賊が首領だったみたいだけど、あの女盗賊以外は一瞬で首を撥ねちゃったわけだけどね。
「「わあ!ゆうしゃさまありがとー」」
無邪気な子供達を見ていると思わず笑みがこぼれてしまう。
「勇者様、お疲れ様でした。お怪我はございませんか?」
子供達をかき分けてやってきたのは白ひげを携えた老人だ。
「ええ、何も問題はないですよ。 盗賊団は壊滅させましたのでこれからは平和に暮らせると思います。」
温厚そうな老人に当てられてか、僕の表情も柔和にほころんでしまう。
「村長、勇者様へのお礼に今日は村で宴を開きましょう!」
村の奥から歩いてきた男性が老人に声をかける。 あの老人村長だったんだ・・・まぁいかにもそれっぽい雰囲気ではあったけど。
「おお、それはいい考えだ! そういうわけですので勇者様、村での宴に参加していただけますかな?」
「あー、申し訳ないです。僕はこれから用事があるので・・・」
せっかくの誘いだが、僕は早く帰宅しないといけない。
「そうでしたか・・・ こちらこそ無理を言ってしまって面目ないです」
「いえ、では僕はもう帰らせてもらいます。 また何かあったらきっと助けになりますから呼んでくださいね」
無邪気な子供たちがいるこの村はいるだけで暖かい気持ちになる。 機会があればまた来たいものだ。
「飛空魔法」
子供達や村長に背を向けて飛空魔法を唱えると僕の体がふわりと宙に浮く。 そのまま僕は上空まで舞い上がって行き、ある程度の高度まで上がると僕の体はまるで何かに糸で引かれたように空を滑り始める。
やっぱり、空を飛ぶ爽快感はなんともいえないものがあるね。
数刻の後、高速で空をかけた甲斐もあってか僕は自宅にたどり着いていた。 僕の自宅は王に用意された豪邸なんだけど・・・正直僕一人が住むには広すぎる。 なので僕の家には同居人がいる。
そしてその同居人というのが、僕の帰宅を玄関先でずっと待っていたと思われる少女、リアだ。
飛空魔法を解除しリアの前に降り立つ。 本来は自宅のある場所――王都に入るには検問が必要なんだけど、僕は勇者だからという特権でそれを免除してもらっている。 この世界で飛空魔法が使えるのは僕だけだからそれが勇者たる証明となっているのも事実かな。 だから飛空魔法で王都に入ることができるというわけだ。
「お帰りなさい、リアン。 ・・・今日も、また人を傷つけたの?」
降り立った僕にリアが哀しそうな表情で話しかけてくる。
「うん、今日も悪人を制裁してきたよ」
なんでもないような表情で言う僕を捉えるとリアの表情はさらに悲痛なものになる。
「そう・・・」
「とにかく早く家の中に入ろうか。外で話してても仕方ないし」
「そう、ね」
そうして僕は帰宅を果たした。