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真残者の神鬼牢  作者: 真田善弘
始まり
15/27

邪径

 それが今から何年前か。考えることが嫌になるほど昔のこと。人間と人ならざる者と呼ばれる存在が共に生きる時代があった。人間は数こそ多かったものの、力も知識もない存在だった。人ならざる者は絶対的に数が少なかったものの、人間にはない知識も力も持っていた。しかし、だからと言って人間と人ならざる者の間に優劣と言ったものは存在しなかった。何故ならば、人ならざる者になく、人間にしかないものがあったからだ。


 それは心だった。


 足りないものがあるからこそ、それを補おうと人間は活動する。もっと飯が食いたいから、子供をあらゆる害から守りたいから、親に楽をさせたいから、無限な富を得たいから、他にはないものを独占したいから。善悪はあれど、それは大切なもののために動くことである。


 知識も力もある人ならざる者は完全であったが故に皮肉にも不完全さが欠けていた。その欠けた不完全さこそが神と呼ばれる存在でも人間でもない、人ならざる者という存在を生んだのだ。人間は自分達にはない知識も力もある人ならざる者を敬い、人ならざる者は大切なもののためならば命も賭す人間に敬意を表した。


 そんな世界がいつまでも続くはずだった。否、続くべきであった。互いが互いを思いやっていれば、人間は人間のままであり人ならざる者も人間の隣に居続けてくれるはずであった。しかし、時間というものは薬にも毒にもなる。そして時間という薬は互いをくっつけてくれる存在から、互いを引き剥がす毒へと変わってしまった。


 それは、ある1人の男の存在だった。その人間は人間でありながら人ならざる者の知識も力も持っていた。しかし、その人間は自尊心と敵愾心がとても強かった。彼はこう思った。


「この力を持った存在は自分だけで良い。人ならざる者になどいつまでも付き合ってはいられん。奴等は俺達を支配するに決まっている」


 男の心は過ぎた壊れ方をしていた。当然、そんなものは根も葉もない言い掛かりも甚だしい妄言である。しかし、神童と呼ばれた男の言葉に耳を傾ける者がいたのは確かである。そんな中、男の言葉に耳を貸さない女がいた。その女は、人間は勿論のこと人ならざる者であっても誰にでも好かれるような優しく、それでいて気が強い男勝りな性格をしていた。そんな女は男の言葉には耳を貸さなかった。


「もし、彼等にそんな思いがあれば私達の先祖はとっくの昔に殺されているはず。御前は人ならざる者の心でも読めるのか? 御前の妄言には付き合いきれない」


 この言葉に男は激怒した。俺の言うことを聞かない存在等生きるに値しない愚か者だ。しかし、男の意思に反して女の意見に耳を傾ける者は多かった。男は困った。このままでは奴等を殺すための大義名分がないと。どうする。そう考えた矢先だった。自分の心が口をきいた。


「邪魔であるなら、殺してしまえばいい」


 男の心の声に男が従おうとした時だった。女は死んだ。斬殺されたのだ。すぐに男に嫌疑が掛かった。


「待て!! 俺じゃない!」


 男の絶叫がこだまする。しかし、男の意見を女が常日頃真っ向から否定していたこと、女を斬った剣が男の物であること、そして何より。女を斬ったのを見た、という人物がいたことが決め手となったのだ。


 それは人ならざる者でありながら、人間の作った酒を好む者であった。まだ子供のような成をしながら、知識も力も人ならざる者の中でもより高い次元に住む存在であった。


 その名を、酒呑童子。後に鬼の頭領となる者である。

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