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墓荒し達の宴  作者: 二鈴
8/8

彼女と出会った日2


 「……」


 自らの体の調子を確認しながら、目の前にいる人間たちを見下ろす。

 蒼鷹の娘たる己が、なぜこのようなところにいるのか、思い出せない。

 覚えているのは、父のような存在である蒼鷹のことだけだ。だが、それも微かにしか残っていない。

 起こされた、というよりかは、誰かが侵入した時点で、起きるように仕組まれていたというべきだろうか。

 

 「……いかんな」


 そこまで考えて、つい言葉を漏らしてしまった。

 誰だ、私を起こしたのは、とは言ったが、別に誰も起こしていないのである。

 いや、正確にいえば、侵入した時点で起きなければいけなかったのだが、完全に無視して安眠していたらしい。

 ようやく彼らがやってきて話している音で目覚めたのだ。

 この時点で父である蒼鷹の使命を果たしていないということになる。

 つまり、さっそく役目をはたしていないポンコツ、ということだ。


 「……なんなんだ、お前は?」


 蒼鷹の下から年若い男に声を掛けられる。

 偉大なる全ての父により生み出された蒼鷹、その娘たる自分に、なんなんだとはなんだ、と言い返しそうになるのをこらえて、冷静に役目を思い出そうとする。

 どうだったか。のんきに寝ていろとか、そういう役目だったならば、すごい楽なのだが。

 

 「気安く話しかけるな。少し待て」


 男が2人、女が2人。

 戦力的にいえば、今自分に話しかけている男――少年から青年の間ぐらいの男が一番強い。

 自分と張り合えそうなのはそれぐらいではある。もう一人の男は、戦闘力はさほどでもなさそうだが、厄介な気配がする。

 残る女2人も同様に、癖のありそうなメンツがそろっている。

 だからといって、負けるとは思ってはいないが、さすがにここで戦闘を行っては父の邪魔になる。

 今はまだ、眠りについている父を起こすときではないのだ。


 「……まず、お前らはなんなのだ?」

 

 「はぁ? 俺たちは――」


 「――待て待て、俺たちは、墓荒しってもんですよ。簡単に言えば、遺跡漁りってもんだ」


 若く、自分好みの男が喋ろうとするのを遮って、もう一人――落ち着きのある、リーダー格らしい男が紹介を始めた。

 いわく、遺跡と呼ばれるこの地域に押し入り、アーティファクトやら遺跡のコアを奪って生活する集団とのことだった。

 ようするに火事場泥棒のようなものだろう。

 

 「つまり、貴様らは盗みを働きに来たのか?」


 「直球で言いますねえ。まあ否定はしませんよ。あんたら機兵が増えてから、俺たちはそうしなくちゃ生き残っていけないんでね」


 「なんだと?」


 「気に障ったのなら、すまない。だが、実際――」


 「――いや、機兵が増えたといったな」


 そこではない。そう指摘すると、男は意外そうな表情をした。

 しかし意外そうな表情を浮かべたいというか、驚きたいのはこちらの方だ。

 こいつらは“機兵”が増えているといったのだ。

 

 「ああ、そうだが」


 「遺跡の範囲が広がっているとも言ったな。続発しているのか?」


 「いや、散発的だな。相も変わらず突然出現したり、広げようと遺跡から機兵があふれ出してくることはあるが」 

  

 それを聞き、顎に手を当てて考える。 

 全ての祖は、一時的にだが“ある人物”の願いを叶えたうえで、眠りについたはずだ。

 同時に、4機すべてがその役目を果たすべく出現し、世界を繋げたうえで眠りについた。

 それで、終わると聞いていたのだ。

 確かに、父から聞いたはずだった。それが終わっていない。

 役目を果たせていないのか。否。そんなはずはない。

 蒼鷹、金蜘蛛、紅蜻蛉、そして黒山羊。

 役目を果たした今、彼らが目覚めることはないはずである。現在も目覚めてはいないはずだ。

 目覚めていたのならば、軽くない被害が出ている。それこそ一騎当千の怪物たちだからだ。

 人々が、このように遺跡に潜ってアーティファクトを取りに来ているというのであれば、安定はしているはずだ。


 「……でー、俺たちから質問いいか?」


 「構わん。言ってみるがいい」


 しばらく思考の海に浸っていると、リーダーらしき男から声を再度かけられる。

 別に断る必要もない。というより、目覚めたばかりの自分には、情報が何よりも必要だ。


 「あんたが目覚めた理由はなんだ? 俺たちがうるさいとか、そういうわけでもなかったとは思うんだが」


 「ほう、そっちも直球で来たな」


 「そうしないと、話が進まなさそうなんでな。お互いさっさと腹を割った方が早いだろう」


 その通りだ。この男の言う通り、さっさと腹を割って話した方が、素早く状況を理解できる。

 仮に騙すつもりであっても、今、ここでならどうにでもできる。

 そこまで考えて、致命的ミスに気付いた。


 「……どうした? あんたの目覚めた理由は、なんだ?」


 目覚めた理由など、ほぼない。

 ただ侵入者が来たら起きよと、蒼鷹に命じられていたのは覚えている。

 それすらも果せていないポンコツなのはこの際を無視するとする。

 

 「……」


 「おい?」


 怪訝そうな目で見られていく。

 私の目的とはいったい何だったか、目覚めた理由はなんだったか。

 全然思い出せないのだ。

 徐々に顔に焦りが出そうになる。本当に覚えていない。使命もなんだったか。


 「……ちょっとぉ? 大丈夫?」

 

 とうとう、もう一人の女にまで心配される始末だ。

 いつまでも悩んでる自分を見て、あからさまに違和感というか、憐憫の表情が見えた。

 これはまずい状況だ。

 このままでは本気でポンコツ扱いされる。


 「まさかとは思うけど、覚えてないんじゃあないかい?」

  

 「いや、それはねえだろ。あんだけ目覚めてカッコイイ私アピールで来たんだぜ? ……本当にただ、寝てただけならポンコツだぞこいツゥ!?」


 あまりにも不遜な言い方に、ついカッとなって手ならぬ蹴りが出てしまったが気にしない。

 一瞬で、離れた距離を詰めた動きに、周りが唖然としている様子も心地よい。

 そうだ、私は出来る女性体機兵だ。そこに間違いはないはずだ。


 「……あー、うちの若いのが失礼しました。そいつぁ?」

 

 「ふむ、これはだな。私の能力であり、埋め込まれたアーティファクトでもある。『暴風の乗り手』(ウィンドメイカー)の力さ」


 自らの背後に出た風の翼を見せつけながら、語る。

 本当は出す気もなく、見せる気もなかったが致し方ない。ポンコツ呼ばわりを避けるためだ。

 ついでに言えば、久しぶりに使った力に対して、少々不安があったのだ。

 冬眠から目覚めたような状態では、不安定さもあるのではないかと思ったが杞憂だった。

アーティファクト。願望を現実のモノとする、偉大なる祖より分け与えられた力の残滓。

 “願いこそが力である”という言葉は事実だろう。それが妄執や欲望であれ、偉大な祖は邪険には扱わない。

 いずれに対しても平等であるからこそ、祖は存在しえたといってもいいだろう。

 だからこそ、疑問に思うのだ。


――なぜ、機兵たちは領域を拡大しようとするのか、眠ってはいないのか。


 祖からの命令は終えたはず、だからこそ、こうして父も眠っており、他の統率者である4機も止まっているはずだ。

 奴らが動いている理由がわからない。主からの役目をはたして、なおも組織的な活動を続けて暴れるのは何故か。

 あまりにも疑問が多すぎる。それを解決するにはここから出るほかない。


――好きなようにせよ。


 ノイズが走る。父から言われた使命だったか。一瞬だけ浮かび、それが消えた。

 好きなようにせよとは、どういうことか。

 偉大なる祖の配下として動くのではなかったのか。

 やはり、疑問は消えない。

 ならば動くしかないだろう。父の言う通りにだ。


 「おい、お前たち。墓荒しといったな」


 「はあ……そうですが、なんですかね?」


 「私を連れて行く気はないか?」


 全員が一瞬固まり、それからお互いを見ていた。


 「連れていくってえのは、ここから連れ出せと?」


 「不可能か?」


 いや、大丈夫だと頷くが、何か言いたげな表情をしている男に対して問う。

 

 「何か不都合なことがあるのか」


 「正直、あんたの後ろに眠っているその機兵との関係性が知りたいんだが。

  それに急に連れていけと言われても、こちらにメリットはあるのか?」


 よく突っ込んでくる男だ。こちらを警戒している割には、危険なラインを恐れずに踏み込んでくる。

 その度胸に免じて、答えてやろうという気にもなる。先ほどの若い青年の方が圧倒的に好みだが。


 「あれは私の父だ。今は眠りについている。……何か重要な事、それこそ全ての祖が目覚めるまでは動くまい」


 男が驚愕の表情を一瞬浮かべるが、すぐに平静になる。

 大したものだと思いながらも、もう一つの方に答えてやるとする。

 

 「私を連れていくメリットを言ったな」


 ああ、そうだと男が先を促す。

 こいつらは墓荒しといった。祖が残していった残滓アーティファクトや、願望物、特級聖域サンクチュアリを探している。

 それならば、メリットはあった。


 「私は蒼鷹と共にいた存在だ。ある程度の建造物などには目星がついている。

  それに、私ならば通れる特別な遺跡も見つかるかもしれん。……これだけで十分ではないか?」


 「……まあ、メリットはあるな。しかし」


 「待ってくれ、ベッテン。 こいつ、連れて行こうぜ」


 ベッテンと呼ばれた男が、私を連れて行こうと発言した男に慌てて目を向ける。

 

 「おい、本気か」


 「本気も本気さ。こんなチャンスないぜ?」


 しかしだな、とベッテンは窘めようとしているが、若い男は止まらない。


 「俺の勘がよ、こいつを連れて行ったらいい気がするんだよ」


 「まーた、お得意の勘か」


 ベッテンが呆れつつも手を挙げる。

 そのままこっちへ来いとジェスチャーし歩き出す。

 こちらとしては歓迎だが、あまりにも決めるのが早すぎるのではないかと問いかけようとすると、先手を打たれた。

 ベッテンが笑顔を向けて、もう一人の男を指さす。


 「俺は、こいつの勘を何より信頼してるんでね。ようこそ、“スマイリーズ”へ」

 

 「歓迎するぜ、ポンコツ姉ちゃん」 

 

 気持ちの良い男たちだ。

 そう思いながら、私は素早く指を動かして、ベッテンではない男の頬を素早く突いた。

 

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