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墓荒し達の宴  作者: 二鈴
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彼女と出会う日2

かつん、かつんと足音だけを響かせながら、まだ明かりの生きている道を進みつつ、ウェルフは周りを注意深く見ていた。

 注意深く見ると言っても、敵の気配や罠などは、イレイナとフィーネ任せだ。

 正直に言えば、最初はフィーネという女をウェルフは信用していなかった。そもそも周りにいる連中もイレイナ以外には良い印象を持ってなどいない。

 だからといって無駄に反発するつもりもない。それでチーム内の不和を招くのは愚の骨頂だからだ。


 「油の匂い、それから微かな硬質的な足音、それでもって乱れない動き。多分機兵ね。生体兵器型じゃないわ、足音の大きさからして……2、3体よ」

 「あいよ。すごいねイレイナさんは。アタシが最初に仕掛ける。それでいいかい?」

 「オッケーよ。……じゃ、いきましょう」


 イレイナとフィーネがゆっくりと、忍び寄るように通路の曲がり角のそばに立つ。機兵が歩み寄る音がこちらにも聞こえてきた。

 ベッテンが慣れた手つきで音を立てずに、自らの得物とする銃型のアーティファクトを取り出し、ハイネンが構える。

 自らも、不測の事態に備えて、改造された両腕に意志を込めると、戦闘用意をせんとすべく稼働していく。

 機兵の足音が、すぐ近くまで迫った瞬間、イレイナがちらりと覗き、合図を送り、フィーネが声無く、勢いよく飛び出していった。


 「どっせっい!!」


 フィーネが気合を込めて、背負った大剣を盾にしながらそのまま体当たりし、人型の機兵を、まとめて吹き飛ばす。

 かなりの重量がある大剣による不意打ちにより、態勢を崩した機兵相手に、容赦なく、フィーネが大剣を振り下ろした。鈍い音と、盛大な破壊音が重なり合う。

 同時に倒れた他の機兵たちに対しては、容赦なくイレイナが銃を数発打ち込み、間髪入れずに破壊していく。

 僅かな撃ち漏らしもない。全て機能停止に追い込んでいる。

 見ていたベッテンがひゅう、と短く口笛を上げるほどだ。


 「おーおー手早い手早い。こりゃあうちらの出番はないかもしれないなあ」

 「それならば良いことです」


 ハイネンとデュバルは感心したように呟く。

 

 「ハン、確かにおめーよりは役に立ちそうだなあ?」

 「実際おじさんはかよわいんすよ。もっと守ってもらわないと困るぐらいすからねえ」


 ちょっとした皮肉を飛ばしたりはしたが、デュバルはどこ吹く風と言わんばかりに、にやにやしながらスルーされた。

 ハイネンもいつものことだと思っているのか、特に何も言わない。

 舌打ちをしたくなる気持ちを押さえつつ、イレイナとフィーネの方を見る。


 「そっちは大丈夫か? 疲れてミスしたらこっちにも迷惑かかるからさっさと言ってほしいんだが」

 「全然大丈夫よぉウェルフちゃん。心配してくれてありがとうね」

 

 何言ってんだ、という表情をつい浮かべてしまう。全く心配しているわけではないのだ。こいつらが死ねば、誰かが悲しむかもしれない。

 そんな辛気臭いことはごめんだというだけだ。


 「ああ、もしかしなくとも、彼、そういうタイプかい?」

 「そういうタイプよ」

 「そういうタイプっすね」

 

 フィーネの一言をきっかけに、次々に浴びせかけられる言葉にさすがに顔を顰める。

 ハイネンはまったく混ざってこないが、ベッテンがデュバルと同じように、にやにやとしているのが気に入らない。


 「なんだよ、ベッテン。言いたいことがあるなら、さっさと言えよ」

 「いや、お前さんも随分とまぁ、ネタにされるようになったなってな」


 どういう意味だと、言外に睨み付けることで伝えたが、飄々とした様子で流された。

 これはどう考えても不利な状況だ。


 「……で、どうだ。初めてA級遺跡に潜った感じは」

 「正直、今のところは脅威に感じないね」


 さすがに分の悪さを悟り、逃げるように話題を切り替える。

 自らの不利を悟れないほど馬鹿ではない。


 「手慣れてる連中がいるってのもあるだろうが、正直拍子抜けではあるな」

 

 ベッテンが同意するように頷きながら、目を細める。


 「だからといって油断する気にはならんが」

 「おじさんも同感っすよ。こういうときは大抵ろくなことが起きねえし、道中の機兵の量からしてA級認定されたのも納得したんですが」

  

 ウェルフ自身も違和感を感じていたところだった。

 道中の危険性は、たしかにA級遺跡にふさわしいものだったが、遺跡内部はいささか拍子抜けである。

 だからといって、警戒を緩めることにはならない。

 行きが楽だからといって帰りまでも楽だとことは、あり得ない。

 過去には、遺跡最奥部に鎮座していたアーティファクトを回収した瞬間、防衛機構が機能しはじめて、酷い目にあったこともある。

 だからこそ、ベッテンも自分も、恐らくデュバルたちも警戒を怠ってはいないだろう。

 遺跡の中では、ちょっとした油断が死を招く事を身をもって知っているからだ。

 

 「まあ、何も起こっていない以上は、そのまま進むぞ。気を緩めすぎるのも良くないが、締めすぎても駄目だからな」


 ベッテンの意見に、皆が頷く。  

 何が起こるか分からないといえども、ずっと神経を張り巡らせていても消耗するだけだ。

 

 「……しかし、あれだけ歩いて探しててもアーティファクトが一つも見つからんってのも不思議な気分だがな」

 「一つぐらいあってもいいのにねえ」


 遺跡内部へと突入したときから、疑問に思っていたことだが、アーティファクトがないのも前例に無かった。

 遺跡というのは、内部に機兵がいるのもそうだが、だいたいそこらにアーティファクトが転がっているものなのだ。

 それが、内部へと突入してからというもの、全く姿形も見えはしない。

 不気味としか言わざるをえない状況なのだ。


 「さすがに、不気味だな」

 「アタシも同感だね。こんな遺跡は初めてだ」


 さすがに、C級遺跡だけしか挑んでないくせに、などとは誰も言わなかった。

 フィーネの腕は大したものである。それは認めざるをえない。今までの動きを見ていてそれは確かなことだったからだ。

 連れてきてしまった以上は、さすがに死なれると後味が悪いので適当なところで助けるつもりだったが、必要はなかった。

 とりあえず、心配するようなことは今のところ起きていない。

 後はこのまま探索を続けるだけだ。

 そう考えたところで、イレイナが手を上げた。全員が静まる。

 

 「……何かしら、何か見えるんだけど。悪いんだけど、ハイネンさん、先行ってくれるかしら」

 「分かりました。私が先頭で行くので、ウェルフ君とベッテンさんは私の傍に、大尉は真ん中に、イレイナさんとフィーネさんで後方をお願いします」

 「了解、アタシは後ろに集中しておくよ」


 フィーネが返答し、それぞれ移動し始める。デュバルが一番安全な中央待機なのは、この金髪犬としては当たり前のことなのだろう。

 自分の命より大切な存在だというのはわかっている為、さすがにここで捻くれた事を言うつもりは無かった。

 何より、イレイナの勘は当たる。


 「……行きます」


 全員が神経を先へと集中させ、歩きだしていく。

 寂れた塔内部から進んでいくにつれ、徐々に景色が変わっていく。

 いつの間にか進んでいく内に、壊れた壁などは無く、白く統一された壁に覆われた、広い円形の広場へと出た。

 そして、中央には、眠るように鎮座する蒼で染められた人型の大型機兵。


 「おいおい、まじかよ」


 資料でしか読んだことがなかった、守護者ガーディアン級よりも上の存在、支配者ルーラー級。

 遥か過去において、人類、人外種問わずに追い詰めた存在、蒼鷹。

 それが、眠るように機能を停止していた。


 「……一応、確認しておくが、死んでるのか」

 「機能は完全に停止しているようにしか見えませんが……」


 ゆっくりと、慎重に近づいていく。

 仮にまだ動くのであれば、自分たちではどうしようもない。

 眠れる獅子を起こさぬように歩いていき、やがて視線に飛び込んできたのは――


 「女……?」


 ――最悪の機兵の上で眠る、女だった。



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