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墓荒し達の宴  作者: 二鈴
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彼女と出会う日


 「……で、ベッテンさんが連れてきたのがこの方々と」

 「ああ、そうなる」


 冷静な口調を崩さず、ハイネンが言う。さわやかな笑顔を一切崩しておらず、物腰も柔らかだが、視線は雄弁だった。

 

 ――役立たずどもではないでしょうね。


 温厚そのものな表情とは裏腹に、内心が透けて読めてしまう。

 どうもこの男はやりにくいと感じつつも、大丈夫だと頷く。ベッテンとしても好んで無能を連れてこようと思っているわけではない。

 というよりも、少なくとも10年間もやっていれば、他人の墓荒らしとしての腕前は、なんとなくではあるが推測がつくようになる。

 身を守るための防具やら道具は、丁寧に使い込んでいるか、修理されているか。動きに無駄がないか、索敵を自然に出来ているかだ。

 少なくとも、ここまでの道中でフィーネは何一つとして、問題がなかった。本当にC級かどうか疑いたくもなったが、エルナの言うことだから嘘はついていないだろう。

 なんらかの脚色などは入れるかもしれないが、少なくともこちらを道化にすることはないはずだ。

 

 「まぁ、疑うのも分かるけどよ。一応見てもらえれば分かるよ。それは保証してやる」

 「そうそう、ベッテンおじさんがこう言うんだから、きっと間違っちゃねーでしょうよ。

  なにせ、このおじさん、昔だったら使えないと思ったら、即切り捨てるぐらい平気でやるおじさんなんだから」


 話を聞いてたデュバルが横から口を出す。

否定する要素はないので、そのまま頷いた。使えない者は、基本的には切り捨てる。

 そうやって自分は生き残ってきたのだ。信頼できる者や信用できる者でなければそうする。

 それは当然のことだからだ。まして、遺跡という内部に侵入する以上何が起こっても不思議ではないし、他人とともに行くなど、ある程度の覚悟はいる。

 即席のチームで遺跡に入るというのは、比較的安全なC級あたりまでだ。その後は、信頼できる仲間を見つけるか、己の技量を磨く必要がある。

 まして、今ここにいる面子はウェルフと、もう一人の墓荒らし以外は誰一人として他の連中を積極的に助ける気はないだろう。


 「むしろ、それが普通だろう」

 「まぁ、そうだけど。 アタシは助けられるならできるだけ助けるわよ」


 そこで初めて、もう一人の墓荒らし――イレイナが口を開いた。

 ウェルフがそれに対して甘ちゃんが、と呟き、デュバルとハイネン、それに加わったばかりのフィーネすらお前が言うな、という視線を浴びせていることには気づいた。

 甘いということに関していえば、ウェルフも相当なものだというのは、イレイナも知っているため、平然と聞かなかったことにして、話を続けていく。

 

 「まあ、もちろんリスクとはちゃんと相談するけど、助かる奴見捨てるっていうのは、後味悪いからね」

 「俺からは好きにしていい、としか言えん。味方に迷惑をかけないってのは大前提だが、お前さんならそれも当然理解しているだろう?」


 当然、と言わんばかりにイレイナは頷く。少しばかり背が高く、ちょっと体もしっかりとしている女にしか見えないが、性別は一応『男性』となる。

 大抵の男であれば、少なくとも豊満な胸に騙される。

 何より、本人の衣装も動きやすいはいえ、露出が多い。それで騙されるな、という方が酷だろう。


 「……で、あっちの女、というよりオカマさん、腕前は確かなんですね」


 デュバルが呆れたように呟く。


 「そりゃあな。あと何度もそれを言うなよ。切れるから」

 「お優しいことで。おじさんにもそれくらい優しくしてくれません?」

 

 馬鹿を言えと、言葉を返す。事実、そういう腕前が無ければウェルフも納得しないし、ベッテン自体も入れようとは思わない。

 墓荒らしとして面子を揃えるのであれば、それなりの腕前の人物を入れなければ、こちらの足手まといになりかねない。

 ただでさえ少数精鋭でなければならず、ある程度機兵を相手取れる存在といえば、あの男――というよりも本人は女を希望しているが――は適任というべきだった。


 「なぁに、ワタシの悪口?」

 「んやぁ、そんなこたぁ言ってないですぜ。男の嫉妬は女の嫉妬のよりやばいってのは身をもって知ってるんで」


 それならいいけどと、イレイナは流す。実際背が大きいことに目をつむればなかなかの上玉に見える。

 ウェルフも最初は勘違いをしていた。ある程度まで付き合ってようやく気付いたほどだ。


 「それよりも、ワタシとしては報酬の分け前のことも気にしてるんだけど……」

 「例の肉体改造のアーティファクト系が見つかれば、お前さんに。それ以外は早いもん勝ち。それでいいさ」

 「かまわないけど、そのルールだと、優先して斥候役をやる私の方が有利になるけどいいの?」

  

 もちろんだと言葉を返す。危険にはそれなりのリターンが必要だ。それだけのメリットを提示しなければ向こうも納得しまい。


 「そりゃそうだ。ただでさえ、A級の遺跡での斥候役。それに見合うものを出さんとまずいだろ」

 「ん、もう、ちゃぁんとそういうこと分かってくれるからアタシ好きよ!!」

 

 そりゃありがたい、と苦笑して答える。

 戦力的な面と付き合いやすさが両立している、というのはベッテンにとっては重要な点である。

 正直、合わない連中と組んで動く、というのは仕事上どうしても避けたい。まして、今回は危険度も高いA級の遺跡である。

 

 「しかし、これがA級遺跡ねえ」


 先ほどまで、黙っていたフィーネが、自らの得物である大剣に手を置きながらつぶやき、それにつられるようにベッテンも遺跡の方を向く。

 遺跡と呼ぶには、いかんせん崩落の後などが非常に目立つ塔だった。機兵の数も多く、危険さは確かに納得したものだったが、本当に自分たちが求めているものがあるのかはわからない。

 それでも、新たに出現したことには間違いなく、闇雲に当たっていくよりは遥かにマシだと考えられた。


 「まあ、遺跡なんぞいくらでも変わっているのがあるからな。……それはお嬢ちゃんも分かってるんだろう?」

 「分かっていたつもりだけど、今回のは特にまた……見てるだけなら壊れかけの塔にしか感じないのがね」


 確かに、ただの壊れかけの塔にしか見えない。

 そうでないと分かるのは、ベッテンでも5年はかかったものだ。


 「……おうベッテン。ビンゴくさいぜ」


 先ほどから黙って遺跡周辺を探索していたウェルフが、ゆっくりとした足取りで戻ってきた。

 

 「ここはやべえな。さっき、守護者級が二体うろついてるのと……見たこともない機兵の残骸があった」

 「オーケー。どういうタイプかは分かるか?」

 「少なくとも生体兵器とか、悪趣味な拷問用とかじゃねえ。純粋な戦闘用だな。それも、大型……少なくともそこらの雑兵じゃねえな」

 

 なるほど、と頷く。


 「外から見てる限りで、俺たちの装備で狩れなさそうなのはいない。やばいのは最悪俺と、あの金髪ゴリラで仕留めるつもりでいく」


 守護者級以外は、自分とウェルフで狩れるのならば特に問題はない。本当にやばい奴には、デュバルの秘密兵器であるハイネンがいる。

 イレイナに確認させながら、小物を自分たちで処理しつつ、大物はハイネン。それで事は足りる。

 

 「それだけ分かれば十分だ。イレイナ、」

 「了解。で、そっちの子は?」

 「おまえのカバーに入れる」


 フィーネの方をちらりと見ながら、同意を求める。ここで何か文句を言うようなら、とっとと追い出すか力づくで納得させるかをしていたところだが、素直に頷いた。

 イレイナの方も文句はないという風に首を縦に振る。


 「うし、いくぞ」


 短く声を上げて、それぞれ装備を整えて、遺跡の入口へと進む。

 この瞬間が、ベッテンはたまらなく好きだった。

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