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墓荒し達の宴  作者: 二鈴
4/8

バカのあつまり踊らにゃ損4

 「サンドリヨンと一緒にA級遺跡の探索及び攻略ねえ……」

 

 コーヒーをじっくりと味わいながら、エルナ・コンティクオは呟いた。

  

 「嫌だったらいいんだぞ、俺達だけでも攻略――いや、攻略はできねえが他の奴誘うから」

「坊やはいつもそうね。つれない態度でお姉さん悲しいわぁ……どうしてこうも荒れちゃったのかしら。昔はもっと」

 「やめろって!!」


 エルナとウェルフがいつものように戯れている中、ベッテンは指をすり合わせながら思考する。

 エルナ・コンティクオはいわゆる墓荒らし同士の仲介屋も兼ねている、現役の墓荒らしだった。

 付き合いは、長い方になる。ベッテンが墓荒らしとなってから10年間、『先輩』として指導してもらった。

 その美貌は、10年前から変わっていない。

 

 「ベッテンの方は変わらないわね、最初に出会ったときそのまま。」

 「まぁそりゃあな。あんたからすれば、そう変わるもんでもないだろうに」

 「……私の顔を見ながら言うのはやめてくれないかしら」

 

 今更どの口でいうのか、と思うが、口には出さない。

 エルナ・コンティクオは変わっていないのである。"数十年"前からずっとそうなのだ。

 遺跡から見つかるアーティファクトは、様々な能力を持ったものが見つかる。身体を鋼鉄にする。身体能力を引き上げるなどのものは多くある。

 エルナ自身のアーティファクトを所有している。その能力のせいか、それとも元々の身体の特徴なのかは謎だが、聞いたこともなかった。

 聞いたところで意味はないし、エルナ自身も語りたがってはいなかったからだ。それを無理に聞き出そうとするのは不躾にも程がある。


 「……で、私に協力かぁ……してあげたいけども」


 珍しく渋い顔をしているエルナを見て、ウェルフが物珍しげな表情を浮かべた。


 「……なんだ。断るならいつもならはっきり言うくせに、なんかあったのか?」


 ウェルフが率直な物言いをすると、エルナが苦笑する。

 

 「今回はちょっと別件が入ってるのよ」

 「おいおい、マジか? ご指名か」

   

 ええ、とエルナが頷く。

 ご指名、ということは相当に大事な依頼なのだろう。


 「……ってことは、厳しいのか、こっちの仕事は」

 「残念だけど、ね。久々に坊やと楽しくできると思ったのに、タイミング悪いわねえ……」


 大きくエルナがため息を吐く。

 それはこっちもだ、と言いたくなってしまった。

 完全に予定が狂ってしまったのだ。エルナというベテランに、自分とウェルフ、それにデュバルとあの男でどうにでもなると考えていたパーティが組めなくなってしまった。

 A級の遺跡――いまだに完全に探索されておらず、機兵や古代の生物兵器が多くおり、現在もなお「稼働」している可能性があるという危険領域。

 そこを踏破するのであれば、必ず欲しい人材であったのだが、エルナがいけないというのであれば計算が大きく狂う。

 普段であれば――B級の遺跡であれば入念に準備すれば自分たち二人だけでもどうにかなるがA級は違うのだ。

 一気に脅威や危険性が増す以上、不安定な人材は入れたくない。


 「怖い顔してるわよ、ベッテン」

 「……いやぁ、計算が狂っちまってな」

 「まぁ、ちょっと待ちなさいな……知り合いなら、紹介してあげられるわ。……それから、お願いがあるのだけど」


 なんだ、と間髪をいれずに問い返す。


 「1人、紹介するのとは別に連れて行って欲しい子がいるの。C級なら探索できた子なんだけど」

 「話にならん」


 C級と聞いた時点で却下だった。B級ならまだしもA級の遺跡に連れていくなど論外だ。

 ウェルフが許したとしても、デュバルが許さないだろう。


 「……まあ、事情があるのよ。その代わり、もう一人の知り合いは、優秀よ」

 「そっちは誰なんだ」

 「イレイナ……貴方も知ってるでしょ? あの子よ」


 ああ、と頷く。イレイナと聞いて思い出す。

 まだ自分がソロだったときに組んだことのある男――正しくは、女性になりたい男だ。

 見た目は、ほぼほぼ女になりつつあるが、確かまだ完全には女になりきれておらず、完全な女になるために、そのようなアーティファクトを探している。

 かなり変わった人物ではあったが、実力は堅実で、自分がB級遺跡に入るようになった頃には同じようにB級遺跡に出入りするようになっていたはずだ。


 「少なくとも、貴方たちと仕事しても問題は無いわ。断言する」

 「ベッテン、俺はそいつ、どういうやつなのか全くわかんねえんだけど」


 ウェルフが確認してくるのに対して、頷いて答える。

 あいつなら問題はない。むしろ問題は――。


 「もう一人のC級遺跡しか探索してない墓荒らしってのは?」

 「フィーネっていう子なんだけど……その子はちょっと、問題があってね」


 問題があるやつを連れて行けというのか、と思わず視線が冷たくなるが、エルナは気にせず話を続けていく。


 「あんまり、チーム運用が前提なんだけど、周りを信頼していない気がしてねえ……いえ、立ち回りとかは上手よ。それに遺跡のセオリーもわかってる」

 「そこまで出来てるなら、別に周りを信頼していなくてもいいんじゃねえのか?」

 「普段なら私もそう言うんだけどね、あの子にはもうちょっと大きくなって欲しいのよ」


 エルナが、そう言うということは、そいつは見どころがあるのだろう。

 だが、いくらなんでも早急にすぎる。B級ではなく、いきなりA級というのはリスクが高すぎるのではないか。

 

 「……正直、死ぬだけだと思うぞ?」

 「同感だね。そいつが役に立つとは思えねえ。……さすがに死なねえようにはしてやるけどよ」


 ウェルフが甘い言葉をついつい吐く。この男は無愛想を装う割にはこういう部分で甘いところを見せるから駄目なのだと言いたくなる。

 しかし、それを必ず諦めずに、実行する。そこが尊敬するところであり、信頼している部分ではあった。


 「大丈夫よ。実力に関しては、私が認めている」

 

 随分と買っているな、とは感じていたが、はっきりと認めているとまで言われてしまうと言葉が出なかった。

 エルナがそこまでいうなら試すのも一興かと、興味が湧いてくる。

 実力を認めているのであれば、その実力を試さねばならない。

 

 「……それなら一つ――」

 「――試してみたいね。アタシは」


 声がした方へと、頭を動かした。

 そこにいるのは、まだ若い女だった。20代にもなっていないであろう、若々しい肌に、奥底に燃え盛るような意志を感じさせる目。

 大剣と西洋風の鎧を身に纒って、入ってきたこの女がフィーネなのだろう。


 「来てたのね、フィーネ」

 「一仕事終えてね。誰かと話し合ってるから入るかどうか迷ってたんだけど、アタシをいれるかどうかの話じゃないか。

  だったら参加した方がいいかと思ってね」


 自信ありげに笑いながら、こちらへと視線を移してくるのを見返す。

 

 「で、アンタたちが有名な"スマイリーズ"かい」

 「ま、一応な」

 「……なんだ、なんか文句あんのか?」


 ウェルフがあからさまに不機嫌な様子で、フィーネを睨みつけるが、睨みつけられている本人は何処吹く風といった様子で流している。

 若いとはいえ、ウェルフも自分ともに行動していくうちにそれなりの修羅場は潜っている。

 それだけに、殺意を込めた目で睨みつけられれば、そこらの墓荒らしなら"漏らす"ぐらいならするのだが、この女は違うらしい。

 胆力は、それなりにあるということなのだろうが、それだけなら、いくらでもいるというのが問題だ。

 

 「ウェルフ、そこまでにしておけ。で、フィーネさんは」

 「フィーネでいいよ。なんで、C級しか行かないようなのが、A級に行きたがるんだって話だろ?」

 「まぁ、そうだな。C級を1人で潜れるようなら、さほど暮らしに問題は無いはずだが……」


 稼ぎが分配されるからC級の遺跡――つまりある程度探索されつくされ、機兵が大量に沸くこともないと判断された場所――では暮らせないだけなのだ。

 1人だけで全てがこなせるなら、チームとしての最大人数である6人分の報酬を獲得できる。

 そう考えれば、余分な相手に金を払う必要もなく、全て自分の利益にできるのだから、十分に黒字になる。

 つまるところ、無理をしなければならない理由がないのだ。

 B級からは危険性が跳ね上がる。機兵たちの上位種である守護者が潜み、遺跡の内容も随分と変わる。

 少なくともC級を1人だけで稼げるなら、平均的な暮らしは出来る。

 B級以上を望むなら、それなりの理由がある。

 

 ベッテンが今までに出会ってきた連中はそうだった。

 不老不死になりたいために、その力を与えるアーティファクトを探す連中もいた。

 まだ見ぬ財宝を求めて、というものもいた。

 死者を蘇らせたいというのも聞いた。

 一部には例外もいるが、基本的にはそういう野望やら夢やらを持っているからこそ潜り込む連中が多いのだ。

 

 「……ま、アタシにも理由があるのさ。それだけじゃダメかい?」

 「いや、構わない」

 「おーい……ベッテン、まさか」


 ウェルフがじとっとした目で見てくるが無視する。


 「わかった。連れて行こう」

 「ありがたいね。話が早い」


 実力は、道中で"試せば"いい。

 ウェルフやデュバルに迷惑を掛けない段階ならば、大丈夫だろう。


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